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憂鬱な朝

 蓮と契約を結んだ次の日の朝。


 昨日となんら変わりない碧の部屋ではあるが、変わったことが一つだけあった。

 それは碧のスマホにある連絡先一覧である。


 それを碧が見れば、家族のもの以外では初めて登録された連絡先が一つ。

 その表示は『五十嵐 蓮』とあり、昨日の出来事が夢ではなかった事を教えてくれた。


「やっぱ・・・夢じゃなかったんだ」


 寝起きという事もあり、未だ夢との境目が分からずふわふわする頭で昨日の事を反芻する。家族以外で、初めてあんなに話した気がする。

 泣いて、笑って、どれだけ心を揺れ動かされたか。それだけあの邂逅は碧にとって衝撃的で刺激のある時間であったのだ。


 その連絡先を見ながら、初めて出来たであろう友達・・・いや、契約者の事を思いつつ碧はーー


「うっ、うえぇ」


 ーー洗面所に駆け込んでいたのであった。


 そしてお腹の底から込み上げてくる嘔吐感に、出はしないものの気持ち悪さが続くという中途半端な気持ち悪さに襲われていた。


 そう、碧は朝から絶賛不調であったのだ。


「うっぐ、うへぇ・・・」


 昨日の夜まで蓮のことを想うだけで夢心地なはずだったのに、何か心当たりあったけ?


 碧は涙目になりながら鏡に映る自分を見つめ自問自答した。


 確かに最近は空腹感で調子が悪くなる事もあったけど、昨日は久々にありつけたまともなご飯を食べた事で調子を取り戻していたはずなのだ。

 あるとすれば急に食べすぎたことだろうか?それとも夏とはいえ夜の外にいすぎたせいで風邪でも引いたのだろうか。


 碧は痛むお腹を抑えながら体温計のある所まで歩き早速自らに使ってみることにした。するとそこには37.3度と表示され、若干の微熱に何とも言えない顔をする。

 普段から出なくも無い数字にどう判断すればいいか分からなかったからだ。


「はぁ・・・でも、いっか。今日は安静にしとこ」


 病院行きたくないし。

 幸いご飯はいっぱいある。


 碧は何か口に入れておこうと、菓子パンをコンビニ袋から取り出すと、のそのそと重い足取りで布団に戻って行った。


 時刻は朝の7時。

 1度お昼まで寝て、その時にまだ調子が悪ければ考えよ。

 そう未来の自分に問題を先送りにして、パンを口に押し込むと布団の中に潜り込むのであった。


 朝から慌ただしくしたからか、幸い眠りには一瞬で着くことが出来碧はまた眠りの中へ落ちていく。今にでも脳裏に浮かぶ昨日の出来事を、そして蓮のことを考え気を紛らわせながら。


 ☆


 次に碧が起きたのはそれから4時間後の事である。

 昼に近づき急上昇する部屋の温度に耐えられなくなりムクリと起きる。辺りを見渡し、直に頭が回り始めると体調不良だったことを思い出す。


 碧はすぐさま体をぺたぺたと触り、その後首を傾けたりして確認する。すると先程までの気持ち悪さが少しは薄らいでいるのが分かった。勿論快調とまでは行かないが、それでもやはり睡眠が一番効くんだなと素人ながらに思った。


「ふぅ、よし、頑張ろ」


 碧は布団から出ると立ち上がる。

 別に今日なにかするという目的がある訳ではないが、朝起きて人間らしい生活を送るのは碧にとっての精神安定剤でもあるので、こういうメンタルが落ち込む時こそルーティンに殉じようとした。


 布団から起きると体のストレッチを行い、布団のシワを伸ばす。そして中途半端になっていた朝食の再開である。

 そして袋から取り出すのは料理や手間のいらない食パンをそのまま頂く。


 今は11時過ぎ・・・、蓮は今頃何をしてるのかな。この時間だと授業だったりして。あ、でも今は夏休みの時期なんだっけ?


 椅子でだらけモグモグしながらそんな事に思いを馳せる。

 今日は特段テンション上がらない日ではあるが、昨日の楽しかった事を思い浮かべると少しは気も紛れるというものだった。

 でも、ふと本当に契約やなんたらの相手が自分で良かったのかと思ってしまう。


 こんな男女(おとこおんな)の何がいいんだろ、と。


 でも蓮はその辺の事を知らないだろうし、死ぬまで一生このままなのかは知らないけど墓場まで持って行かなきゃと誓う。


「はぁ・・・」


 楽しいはずなのに憂鬱。連絡先を見てニマニマした後にまたえも知れない不安が襲う。


 あぁ、これあれだ・・・今日はダメな日だ。


 前からたまにあるんだよね、こういう日。それに体調不良も祟って、いい事なしだ。

 こういう日はいつも寝逃げしていたが、先ほど寝てしまって流石に寝る気になれない。


 寝はせずとも、碧は完全にオフモードに切り替えると再度ベッドへ戻り腰掛ける。

 そしてスマホを見てダラダラ過ごした。ネットニュースみたり、適当なこと。


 そしてそのままネットサーフィンに興じていると、普段見慣れないバナーが画面の上にチラついた。


「あれ、なんかきた」


 手紙のマークのアイコンだ。

 見慣れなすぎて一瞬分からなかったけど、メールの通知である。碧は数秒のラグを有してやっとその事を理解すると、ハッとして慌て始める。


「きっ、きた!えっ、これれんからだよね?」


 昨日の今日だ。タイミング的には多分そう。

 普段家族ともメールなんてしないし、他に思い当たる節は無い。


 ワタワタとスマホをお手玉のようにした後一呼吸入れるとスマホのメールアプリを開いた。するとやはり、そこには差出人『五十嵐 蓮』と表示されメッセージが添えられている。


「ほんとに来ちゃった!どうしよう」


 メッセージ内容は見てないけど、今からドキドキしてしまう。見るのが楽しみなようで怖い。

 悲しい事が書かれてたらどうしようと思いながら決心してメッセージを開く。考えてても良くない想像しかしなかったからだ。


 怖い、けど気になる。

 それでも男は度胸なのだ。


「えいっ」


 画面をタッチすると、直ぐに蓮とのトーク画面へ切り替る。


『やっほー、あいちゃん!

 昨日ぶり、元気?』


 するとそんなメッセージが表示された。


「・・・ほへ?」


 碧はその内容を頭で考え、首を捻った。

 内容がない。要は拍子抜け。

 いや、調子を聞いてはいるのだが全体に的中身が薄いのだ。


 メッセージって、もっと聞かなきゃ行けない事があるからやる事じゃないのだろうか?

 少なくともボク自身はそうしている。


 これはなんて返すのが正解なのだろうか?

 でも調子聞いてるし、内容はボクの体調が気になるとか?

 幸いにも話題に困らないくらいには体調は悪い。


 碧はメッセージ内容を脳内でシュミレーションしながら内容をしたためる。


『こんにちは。

 昨日は買い物や気遣ってもらってすみません、ありがとうございました。

 体調はあまり良くないです、今日は1日寝て治したいと思います。』


 っと、出来た。

 こう言うのは初めてだから、無難を心がけた内容にしてみた。スマホを持ち始めたのだって高校からだし、やり取りしたのなんて家族だけだったから。


 一応何度も見直し、誤字とか無いこと確認したけど大丈夫そう。

 そしたら送信。


 シュポッと間の抜けるような送信音がしてメッセージが送られる。


 ふぅ、緊張した〜。


 スマホをベッドに投げ捨てる。そして起こしていた身体をぽふんとベッドへ倒した。


 最初こそ戸惑ったが、送ってしまえばなんて事ない事だった。というか内容が内容だけに締まらなかっただけか。

 でもなんだか友達みたいなやり取りにドキドキしてしまう。


 なんだか普通の人がやっているであろう事が出来てちょっと楽しい。


 蓮、すぐ見てくれるかな。

 次はなんて返事が来るんだろう。


 そんな事を夢想して過ごした。







 そう、ピンポーンとお客さんが来た事を知らせるドアのチャイムがなるまでは。




 スマホにばかり気を取られていた碧にとっては予想だにしておらず驚いた猫のように飛び跳ねた。


「っ!?」


 ゴッ


「ーーイッ、!!」


 そして寝ながら見ていたスマホを顔面に落とし悶絶する。

 ピリピリする鼻先を押さえながら。恐る恐る手を見たが鼻血らしいものは出ていない事に安堵する。しかし今現状の問題はそこじゃない。


「だ、だれ?」


 碧は怯えるように玄関がある方向を見る。

 こうしている間にもお客さんはドアの向こう側にいるのだろう。

 しかし心当たりがないのだ。何か頼んでいただろうか?

 いや、無かったはずだ。


「どうしよう」


 やだなぁ・・・。


 たとえ相手が配達の人であろうと、碧には話す事は愚か目も合わせられないのである。

 それに今日は一日中寝ていた為、寝癖も服も人様にお見せできる格好では無いのだ。

 立ち上がる前に一度身なりを整える時間があるか逡巡するが、宅配の人か何かであれば少し身を出すだけで大丈夫だろうと判断する。

 でもできるだけで早く済ませちゃお。


 全く乗り気になれないながらも、待たせることやバックれる度胸もないので嫌々ながら向かう。


 そしてガチャリと小さくドアを開けて顔を覗かせた。


「お待たせ、しました・・・」


「おっ、昨日ぶりだな!あいちゃん!」


 そして顔が合うと、お客さんは嬉しそうにニカっと笑う会いたいけど会いたく無かった人がいた。

 その言葉の通り、昨日ぶりの彼。爽やかに笑う蓮が立っていたのだ。


「・・・ぁ」


 碧は小さく悲鳴を上げた後、そっとガチャリとドアを閉めたのであった。

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