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友達

 どうやら、蓮はイケメンはイケメンでも残念系イケメンというものだったらしい。

 そんな彼は絶賛残念系という称号を体現するかの様相を晒していた。


「すみませんでしたァっ!」


 蓮は今、土下座していた。

 ボクはそれを見下ろしながら蓮に迫られ気崩れた衣服を整える。迫られたと言っても興奮気味に両肩を掴まれただけだけど。それでももみくちゃにされて肩がずるっと露出する程には鬼気迫るものがあった。


「完全に我を失ってた。

 言い訳じゃないが、あいちゃんのセリフが完璧すぎたんだ」


 と、犯人は訳の分からない供述をし、悔しげに「くっ」と顔を歪めた。

 ふざけてるのかよく分からない。


「ぜ、全然気にしてないよ・・・?」


 うん、気にしてない。気にしてはいないけど・・・ちょっと引きはしたけど(ボソッ)。


 でもそんな心情はおくびにも出さない様にする。事態がややこしい事になりそうだし。


「いやいいよ・・・うん、分かってるから。周りからもよく言われてるし」


「あっ、・・・そう」


 言われてるんだ。

 どうやらあれが本当は通常運転のようであった。今までボクと接してた時は本当に紳士モードで対応してくれてたんだろうな。まぁ、少しは気が置けない関係になれたと思えば、・・・うん、嬉しいという事にしよう。

 それならばここは一つ、ボクも歩み寄る事にしてみてもいいのかもしれない。


「でもすき、なんだもんね。仕方がないよ。

 それに一生懸命な姿もいいと思うし」


 印象と言うものはあったが、別に趣味で人を偏見する程狭量でもない。それに知らない世界のことをあれこれ言うわけにもいかない。


「あいちゃん、マジ天使・・・」


「・・・」


 ただ可笑しくなるのは反応に困るしやめて欲しいけど。しかしここもあえてスルーし、調子を取り戻した蓮との話題を広げる。


「で、でも最近はアニメとかもよくテレビでやってるよね。剣で戦うやつ?とか人気だよね。

 れんもそういうのが好きなの?」


「おっ、あいちゃんも知ってるのか!」


「う、うん・・・ちょっとだけね?」


 タイトルは覚えていないけど。

 でもあんなのが人気なんだなぁってことは知ってるし、嘘はついてないよね、うん・・・。


 しかし蓮は互いの知る話題が出たと喜んで花を咲かせた。


「ま、確かにあれは手堅いとこだよな。もはや非オタというか全国民が見てると言っても過言じゃないよな〜!

 王道少年漫画だけあって俺も大好きだ」


 蓮は腕を組み頷きながら語る。しかし、最後に「でも」と続けた。


「バトル系もいいが、実は本当に俺が好きなのはちょっと違うんだけどな」


「そうなの?」


「ああ、俺はバトルよりも日常系の方が好きだな。たとえば最近アニメやり始めた『永遠の輝石』。通称とわきせって言うんだけどなーー」


 そして始まるのは作品紹介である。

 あらすじや見どころ、それに蓮の感想も踏まえた上手い紹介につい聞き入ってしまう。

 多少早口な所はあるが、それでも話に引き込む語りのうまさや蓮の必死さを感じ、聞き入っているボクがいた。


「ーーでよ、恋愛ものとしてみるのもいいが、この漫画は日常をとにかく丁寧に描くからそれによる恋愛パートの緩急が最高なんだよ。他にも登場キャラクターの全てにリアリティがあってよ、ラブコメと言うよりヒューマンドラマというか人生みたいな作品なんだよ!」


「うん、うん。そんなに凄いんだ」


「ああ、それにーー」


 蓮の説明はまだ続く。


 よっぽど好きなんだな。

 一生懸命に語る作品も興味はあるが、それ以上に興味があるのは熱く語る蓮の横顔である。

 悔しい話をする時には顔に皺を寄せ、ハッピーエンドを語る時にはこれでもかと笑顔で語る。

 本当に、一生懸命にアニメが好きなんだってわかった。


 ボク、こんなに好きな物に出会ったことなんてあっただろうか?

 なにかに夢中になって、一生懸命になれる姿がキラキラして見えた。


 羨ましい。

 不意にそんな感情が湧き上がる。


「ーーちゃん、聞いてるか?あいちゃん?」


「っ、え、な、なに?」


 おっと。

 いけない。少し考え事が過ぎてしまった。


「うんっ、大丈夫だよ、聞いてる」


「あ、ああ。いや・・・、すまん疲れたよな。俺も少し話しすぎた。時間的にもすっかり夜になっちまったしな」


 公園にある時計を見れば、既に9時入っている。確かに話しすぎた感じはある。

 いつも10時に寝てることを考えれば夜更けと言っても過言ではない。


 しかし、時間が早く経ったと思えるのはそれだけ話が楽しかったからだから。ボクは誤解を解くためにそこだけは否定する。


「ううん、そんなことないよ。れんの話、楽しかったから。もっと時間のある時に、いっぱい話して欲しいな」


「っ、あいちゃん、・・・尊い」


「とうと・・・う、うん」


 ちょっとよく分からないけれど、蓮は口元を手で押えて感動していた。

 ま、まぁ喜んでるのなら、いいや。


 碧はあまり考えないようにした。


「あいちゃん、マジでオタクに優しいよな。俺学校じゃあクラスの女子に引かれまくってるのに」


 蓮は「オタク話してる時はマジ避けられてるっつーか逃げられるからな」なんて、あまり落ち込んでもなさそうに悲しいことを話す。


「その点、あいちゃんは話聞いてくれるし。理解のある美少女ってホントにいたんだって感じだわ。ありがとなあいちゃん」


「そんな事、ないと思うけど・・・。

 れんの話楽しいし、それにーー」


 碧は褒められた嬉しさと生来からなる卑屈さで微妙な反応をしてしまう。

 それに美少女だなんて。本当は男なんだけどな。やはり騙しているようで胸がチクリとする。


「・・・ううん、やっぱなんでもない」


 碧は急に思い詰めたように視線を別の方向へ向け虚を見つめる。そんな碧の様子に蓮はどうしていいか困り、先程の楽しげな会話から一転して寂しい静けさが訪れていた。


「・・・」


「・・・」


 そして、蓮が話しかけようかかけまいか迷い口をパクパクさせていると、最後は碧の重苦しい溜息でその静寂は終わりを迎えた。


 結局、このジレンマを解消する答えなど出てこなかったのだ。それどころか楽しかった会話を終わらせ重苦しい空気を残すだけだった。碧はもう一度ため息を付きたい気持ちをグッと抑えて蓮を見つめた。


「・・・れん、今日はありがとね」


「え?あ、ああ・・・」


 そして唐突に切り出された感謝の言葉。それはまるで、この一時を締めくくるかのような言葉であり、蓮は呆けたまま相槌を打ってしまう。


 碧はそのまま、立ち上がると軽く伸びをする。

 それからまた蓮を見つめ、ニコリと笑う。


「またね、れん。

 ボク、もう遅いから帰ろうと思う。今日は凄く楽しいかったし、多分人生で一番笑えたと思う。ありがとね」


 多分なんてつけたけど、絶対こんな楽しい日は今までに無かったと確信している。少し最後に思い悩んでしまいケチが付いたが、それでもこの巡り合わせという幸せから比べればお釣りが来るくらいだ。


 碧は手を小さく振った。


 蓮はそれをただ眺めることしかできていなかった。元から躁鬱の差が激しかった碧だが、それに加え蓮にはその切り替わった切っ掛けが分からなかったのだ。

 だが碧が背を見せ、行こうとする姿を見て無性に焦りが生まれた。そして蓮はそれがなんなのか頭で考えるよりも先に手が出ていた。


「あっ、ちょっとまって!あいちゃん!」


 蓮は立ち上がり碧の小さな手を掴む。


「っ、え?」


 碧は驚きで体を跳ねさせる。

 それが信じている蓮だということ分かっていてもびっくりしてしまったのだ。


「あいちゃんもう帰るのか?

 そ、それなら、送るぞ?」


「え?う、ううん。大丈夫だよ」


「でもっ」


「悪いから。

 それに場所も近いし、大丈夫」


 それでも食い下がる蓮に、再度断りを入れる。

 本当に家も近いし気にしなくていいのに。


 碧は大丈夫だと笑いかけるが、蓮はそれでも引かなかった。

 何かを言いかけ、口を開いては閉じて切なげな顔をしてから俯く。そしてそんな中細い声音で碧に言う。


「俺たち・・・、また会えるよな?」


「へ?それは・・・うん、きっと会えるよ」


 分からないけど。

 でも、碧だって蓮の事は好ましく感じたし、ずっとこうして話していたいとも思った。


 しかし、蓮にはそんな不確定な言葉だけでは足りないと感じた。多分、この儚げな少女の手を離せばもう二度と会えないのではないか。また1人で問題を抱え込んでしまうのでは無いか。


 しかしだからといってどうしようもない。

 蓮と碧は、結局どこまで行っても他人でしかないのだから。しかし蓮はなんて言っていいか分からず長考した後、ぎこちない顔をして碧に言った。


「あいちゃん!」


「は、はいっ・・・?」


 その熱に当てられ碧も背筋を伸ばす。


「また、今日みたいなことをしよう!あいちゃんが何か買ってきて欲しい物があれば俺買いに行くから。その代わりあいちゃんに俺もして欲しいこと言うから、だからそういう約束・・・いや、契約をしよう!」


「は、はい?け、けいやく?」


 何だそれ。

 あまりに怪しげな言葉に碧は懐疑的に見てしまう。しかしあまりの熱量につい押されてしまう。


「そう!

 俺パシリになるから、あいちゃんにまたお兄ちゃんって呼んだり、見て欲しいアニメみてお話したり!俺の願いを聞いてもらってさ・・・だめか?」


「え、えっと・・・」


 だめか?と言われても、ちょっと急ずぎて・・・。碧は言葉を濁しながら、どうしようと考える。


 契約などと言うから身構えてしまう。これでもなけなしの危機管理能力はあるのだ。多分そんな拘束力を持ったものでは無いとはいえ、蓮の願いを聞くというのに不安もあった。


 しかし、今日だけだけど蓮との信頼関係もあるにはある。きっと、内容としてやる事は今日と同じ事をするのだろう。

 だけど今日なんて蓮にお兄ちゃんと言ったぐらいだ。タダでさえ返しきれないのに、そんな蓮に負担ばかりかけるようなことをしたくないのだが。


 碧が迷っている様子を感じ取ったのか、蓮は言い訳をするように説明を始める。


「それに俺、もっとやって欲しいことがあるんだよ。

 あいちゃんに色んなコスプレとかして欲しいんだ。猫耳とか、メイド服とか、ナース服とか!」


「はえ?こすぷれ?」


 なにそれ?

 いや言葉としては知ってるけど・・・え?


「あとあいちゃん声もめっちゃ可愛いから、言って欲しいセリフもいっぱいあるんだ!『おはよう』ってセリフを目覚ましにしたいし、メールが来た時の着信音も欲しい!

 あとアニメの名シーンの読み上げ再現とかも見てみたいし、それにーー」


「ちょっ、ちょっと待って!

 何言ってるのれん!?」


「え!?」


「え!?」


 いや、何びっくりしてるの!?

 びっくりしたのはこっちだよ!


「まさか、それ全部ボクにやらせるの?」


「まぁ、あいちゃんが俺にして欲しいことが多かったりしたらとか?」


「なるほど・・・」


 なるほど?

 いや、え?ほんとに?

 でもれんはオタクみたいだし、そういうものなのかな?


 でもちょっと欲に忠実過ぎない?

 正直、いや、かなりドン引きではある。

 いや、学校や家族にさえ相手にされていないボクにここまで価値と関心を見出してくれるのはとても嬉しいのだが、もう少しやり用は無いのだろうか?


 ボクは蓮の真意を探ろうとれんの目を見るが、れんの目は一切の曇りなき眼でボクを見つめていた。


 なんなのその目。

 ほんとに契約ってその為なの?もっとこう・・・何かの策だったり、そういう奴じゃないの?

 それにこんな欲にまみれたこと言ってるのに、なんでそんな純粋な目ができるのだろう。

 強い意志というか、至極真剣な目をしている。


 そう思うとーーー


「ぶふっ、」



 ーーー何故か笑いが込み上げてきた。


 なんだよそれ、なんか馬鹿みたいじゃないか。

 蓮ってば、なんでそんなおかしいんだろう。

 オタクの人ってみんなこんな感じなの?それとも蓮だけ?


 何だか蓮のお願いの内容を聞いてしまうとボクの悩みなどどうでもいいものに思えてしまう不思議。


 終いにはボクはお腹を抑えてまで笑い初めていた。

 それに対する蓮は困惑と言うか、理解不能みたいな顔をするものだからそれがおかしいくさらに笑ってしまう。


「あははははっ、れんっ、ひぅっ、おかしいあははは」


「お、おぉ・・・あいちゃん大丈夫か?」


 そして蓮に心配までされてしまって、それがまたおかしくてまた笑ってしまう。

 だがツボに入ったものも、1分もすれば思い出しさえしなければ収まるというもので、何とかひぃひぃ言いながら笑いを押えた。


 そして涙が溜まった目を指で拭いながら蓮に言う。


「いいよ」


 と。

 しかし脈絡のないその言葉にピンと来なかったみたいなので、今度は主語を交えて了承の意を伝えた。


「ボク、れんの言う契約、してもいい」


「・・・は?まじなのか?」


 蓮は驚いた顔をするが、言い出しっぺがなんでそんなに意外そうな顔をするのだろうか。

 碧は頷いた。


「うん、まじ」


 碧はそう言った後、「でも」と条件をつけ加えることを言った。


「本当にれんは、契約者がボクなんかでいいの?」


「?」


 先程までお腹を抱えてまで笑っていた様相は完全に消え去り、顔は微笑みを浮かべてはいるが目に真剣さを秘めた強い意志で蓮に聞いた。


 それに対して蓮はよく分からない様子で首を傾げた。しかしそれに対してのアンサーをボクは蓮に用意することが出来ない。


 この契約は、そもそもが破綻しているからだ。

 蓮は今の女の子としてのボクに価値を感じているからこそこの契約を結ぼうとしているのに、肝心の中身が男であり、とてもボクと言う存在が蓮の希望を満たせるとは思えなかったのだ。


 しかしその事を伝えても信じては貰えないだろうし、優しい蓮の事だから否定してくれるかもしれない。だからせめてもの誠意を見せる。


 「れん」


 「な、なんだ?」


 「一つ、いい?」


 ボクが蓮の顔を見ると、張り詰めた表情でコクリと頷いた。契約という提案に条件を、あるいはご破算にするのかと勘違いさせてしまったのだろう。しかし蓮には悪いが、ボクなりにゆっくり決意を決めて、言い放つ。


 「きっと、れんが思うほどボクに価値はないよ」


 かなり暈した言葉が精一杯であった。

 これじゃあ何にも伝わらない。現に蓮もポカンとしていたし。


 「そんなことは無いさ」


 そしてやっぱり、蓮は何でもない事だと簡単に答えた。

 でもまぁ、これはボクにとってケジメのようなものだった。元々本当の事など言えないし、それに蓮がボクの信実を知るよりも女の子としてのボクを求めるならばなればいい。

 蓮の理想に応え、求められるようにすればいい。そのケジメであった。


 だから、もう大丈夫。

 ボクは右手で左手を抱き寄せて言った。


 「・・・うん。わかった、れんがそれを望んでくれるならもう大丈夫」


 契約を本当の意味で受けれる事を。


 そう、蓮がボクという存在に価値を感じてくれるのならば。必要としてくれるのならばボクの全てを委ねてみよう、と。


 その瞬間蓮はぱぁっと顔を明るくさせて撫でてくれた。そんな蓮を見て、ボクはやっぱり受けてよかったと思うのであった。

次回、蓮をメイン視点とした話です。

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