お祭りと浴衣
「夏祭り?」
「そうっ!ぜっったい楽しいから碧ちゃんも一緒にいこ?」
放課後、帰り支度を始める碧に果穂が呼び止めてそう告げた。
夏祭り。
碧にとってそれは実に興味をそそられる言葉ではある。でも夏祭りって7.8月ってイメージがあったけどなんて疑問が湧いた。
「花火祭りって、まだやってるの?」
その疑問に果穂は「チッチッチ」と片目を閉じながら、指を振りわざとらしく反応した。
「碧ちゃん分かってないね。夏祭りまだまだこれからだよっ!」
「って言うのは言い過ぎだけれど、夏祭りはまだあるにはあるよ」
果穂の言葉にツッコミを入れながら、和葉が補正する。
「あっ、勿論来てもらうのにタダでとは言わないよ〜?
今回はなんと、蓮くんも誘う予定なんだ!一緒に回りたいでしょ?お祭り!」
「っ、」
碧は分かりやすく反応すると、アワアワとしながらも最後は黙ってコクリと頷いた。
別に碧の行動原理が全て蓮という訳では無いので行きたいとは思っていたが、それでも蓮が来るなら色々と話は変わる。
「それならお姉ちゃんに任せなさい!」
果穂は胸をトンッと叩くと頼もしさをアピールする。こう言うシゴデキなお姉ちゃんがやりそうな愛のキューピット的なのに憧れており、果穂は張り切って仕切っているのだ。
「今から私がアポ取ってあげるから、碧ちゃんはその時のデートのこと考えておいて!」
そして果穂はパタパタと蓮の方へ飛んでいく。何だかレクリエーションの時にも見たような光景である。
そして向こうでも恐らく同じ話をしているのだろう。蓮の他にも真尋や他の男子達もいたが話を始めると、蓮がチラリとこちらを見てきて照れたようにすぐ顔を背けてしまったが、後にぎこちなく首を縦に頷いていた。
その姿に心をドキドキとさせながら見ていると、話はついたようですぐさま戻ってくる。
「あっいちゃーん!お待たせ」
戻って早々果穂は嬉しそうに語り出す。
そしてその成果を自慢するように碧へ胸を突き出すように仰け反った。
「蓮くんとのデートはこの私がアテンドしといたよ!」
あ、アテン・・・なんて?
碧は口を開けて首を傾げる。
「お祭りデートは私がレセプションしておくから、碧ちゃんは2人っきりになった後のことに対してスキームを組んでおいてね!」
「果穂、本当に意味分かって言ってる・・・?」
難しい言葉使いたいだけだろと和葉はすかさずツッコミを入れる。
しかしその様なツッコミにも動じることなく、まるで見えない眼鏡をカチリと上げてドヤ顔を作る。何だか難しい言葉が多くて話の半分しか頭に入って来なかったが、でも・・・でも何だか今日の果穂かっこいい!
「果穂、すっっごーい!」
「えぇ・・・」
碧は椅子から飛び跳ねるように立ち上がると勢い余ってつま先をピンと伸ばしながら果穂を褒め讃えた。
「よく分からないど、すきーむ?がんばる!
ありがとう果穂っ、大好き!」
碧は嬉しさのあまり果穂に抱きついた。
余りに大胆な行動に果穂も意表を突かれたようでドヤ顔から一転して逆に戸惑っていた。しかし直ぐに気を取り直すとお姉ちゃんぶることを忘れない。
「こらこら、そういう事は蓮くんに取っておかなきゃダメだよ?
抱きつくのも、大好きって言うのも簡単に使っちゃだめ!」
なんて言いつつ、抱きつかれた時に抱き返してスリスリと堪能していたのはツッコんではイケないのだろうかと和葉は後ろでモヤモヤとしていた。
しかし何だかんだこの2人の波長は一番似ていた。そしてだからこそ当事者は気にした様子もなく話は進む。
「う、うん・・・分かった」
しかしその返答はそんな歯切れの悪い返事で返した。
そんなこと言われなくても、あれから「好き」を伝えるのも手を繋ぐ事だって意識してまともに出来ずにいるのだから、それ以前の問題である。
最初こそ隣にいれれば告白の返事など要らないと考えていたが、この頃はそれだと物足り無いというか、もうこの溜まり溜まってやりどころを見失った『好き』の発露先が見つからずに爆発しそうになっていた。そのためどうにか関係性を進めたいと思い始めていたから果穂の提案はとても嬉しかったのだ。
「分かればよろしい!
因みに祭りは3日後の土曜日だからね!用意しておいてねっ」
果穂はパチリとウィンクをする。
「うんっ、そうする。果穂、ありがとね」
「どういたしましてー!」
果穂は最後は変にお姉ちゃんぶる事もなく、普段のあどけない返事で返すと別のグループの所へ去っていく。きっとこの事をまた教えに行くのだろう、幹事という訳じゃないど大変だ。
でもそっかー、お祭りかぁ。
碧はどんなものだろうと想像して見た。コミケの時に屋台というか出店はあったが、それとはやはり大きく異なるだろうし、花火なんてものもあんだろうなーなんて想像を膨らませる。
そして何より、蓮とまたデートできるのは何よりも嬉しかった。
また、二人で回ったりいろんものとか食べたいなー。
碧はコミケの時のことを考えーーー、そして顔をこれ以上無いほどに真っ赤に染めあげる。
何故なら焼きそばやりんご飴を食べていた時の情景を思い出してしまったからだ。よく良く考えれば、あの時はよく二人でひとつの物を食べていたと思う。しかも焼きそばとかならまだ分かるけど、飴というより濃厚的な接触が多くなるものでなんて。
〜〜〜〜〜〜〜っ、
頭をブンブンと振り、逆上せてしまう頭を冷やしにかかる。それにこんな想像してたら頭が変になってしまう。
そうして両隣から異質な目で見られながらも、その隣の席の楓が「ゴ、ゴホンッ」と分かりやすく咳をして自己主張をする。
「あ、碧ちゃん?大丈夫かしら・・・?」
「っ!?だ、大丈夫!」
ガバッと碧は身を起こすと声の聞こえた方に反射的に答える。
「そ、そう?それならいいけど・・・」
楓はあまり腑に落ちて無さそうだったがそれでもそこまで深刻でも無さそうだし碧の奇行を放っておく事にした。
そして碧も恥ずかしかったので話をそらそうと必死になって話題変える。
「うんっ、それよりもかえではお祭り行くの?」
「ああ、果穂ちゃんが言っていたことかしら?
そうね、一応私も一緒に行くつもりよ」
勿論、楓にもその話は来ていた様である。
そして一緒に行くとの事なので、碧は心強いと安心する。
「そうなんだ!
ボク、お祭りって初めてだから、かえでが来てくれると嬉しいっ」
「あら、まあ・・・行こうとしなければ行かないわよね」
なんて無難な答えを返したが、夏休み中の当初の碧を知る楓はその時のことを考えれば初めてという言葉も十分に頷けた。
でもそれにしてもよくここまで成長したものだと感慨深くなる。最初の頃なんて、出かけることは愚か、下着すら持っていなかーーー
あれ?
楓はここで1つ引っかかることがあった。
いや聞くまでも無いのかもしれないが、一応碧へと問いただす。
「あ、碧ちゃん?」
「ん?なーに?」
「碧ちゃんはその、・・・浴衣って持っているかしら?」
「浴衣?んーん、でもなんで?」
「なんでって・・・、て、定番だからかしら?
それに前に夏祭りに行った時は皆んな着ていたし、多分今回も皆んな着て来ることになると思うわよ?」
「え・・・」
浴衣ってそんな定番だったの?
でもそう言われれば祭りに浴衣というのは聞いたことがある。でもそんなのずっと昔のことじゃないの?
そんな感想を持つ程度には世間離れしている碧は、勿論浴衣など持ち合わせる事もそんな発想すらも無かった。
「まぁ、一度もお祭りに行ったことがなければそうよね。
それなら買いに行きましょうか?浴衣」
「えっ、ほんと?」
「ええ。
シーズンだから比較的何処でもあると思うし、それに外国の観光客向けにも揃えてる所多いわよ」
なるほどー。
あ、でも浴衣とかって高くないのかな?着物とかはすっごく高いって聞くし、それなら困ってしまう。
「でも、ボク余りに持ち合わせ無いけど大丈夫かな?」
「ピンキリあるから大丈夫わよ、私の着てるものだって5000円ぐらいだったかしら?
少し待っていてね・・・、はい、こんな感じよ?」
そう言って見せてもらったのは浴衣姿のみんなの集合写真であった。恐らくお祭りの時に撮ったものだろう。和葉と果穂もいた。
皆の浴衣はそれぞれ個性があり、楓は落ち着きのある紺色の浴衣。和葉は緑色と果穂は橙色でイメージとピッタリだし凄く似合っていた。
そして何より可愛い!
浴衣姿ってこんなに可愛いんだとオシャレに目覚め始めている碧にとってそれはとても興味がそそられるものだった。
でも・・・、ボクの場合はどんな浴衣を着ればいいだろう。皆可愛いし、ボクも蓮に出来ればそう思われたいけど、蓮の好きな色が分からない。
少しだけ唇を尖らせて悩んでいると、また帰ってきた果穂が「なになにどうしたのー?」と楓のスマホを見ている碧達に声をかける。
そして碧の体に身を寄りかからせながら果穂も一緒にそれを覗くと、自分たちの写真を見て納得した様子であった。
「これ前のやつだよね!
なにー、碧ちゃん浴衣に興味あるの?」
実に察しのいい。
果穂は悩める碧の顔を見てそう言った。
「う、うん・・・、でもどんな浴衣にすればいいか分からなくて」
「なるほどなるほど。
つまりは蓮くんの好みを知りたい訳だ」
何故こうも恋愛事になると冴え渡っているのか。果穂は顎にピースを作って名探偵のような素振りを見せながら碧の悩みをズバリと言い当てた。
「そ、そう!
そうなんだけど・・・、果穂は何か知らない?」
「え、えーとそれは・・・うんっ、そういう時は本人に聞いた方がいいかも!」
果穂は答えまでは用意していなかった為少し焦るがそれでもあながち間違いでは無い答えを導き出した。
そしてそれには納得の碧はどう聞こうかなんて新たな悩みを抱えると果穂が「よしっ」と切り替えるような掛け声とともに碧へ言う。
「それじゃ行こっか?」
「え?」
「ほらほら、早くしないとみんな帰っちゃうよー」
「えっ、ま、果穂!?」
そうしてドナドナと背中を押されて碧は蓮の元まで引きずられていく。そもそも帰っちゃうも何も碧たちは一緒に帰っているのだが。
そうして碧が蓮達のグループまで行くと、蓮達も盛り上がっていた会話を止めて碧を見た。
「どうしたんだ碧ちゃん?」
「お、なんだなんだ」
蓮は勿論、周りの男子達まで面白おかしくそれに対して囃し立てた。
「え、わっ、わわ」
碧は目をぐるぐるとさせて戸惑っていた。そんな碧へアシスト?するように果穂が「碧ちゃんが聞きたいことがあるんだって!」と更に注目を集める様なことをいうものだから、少しだけハードルが上がったよう感じられた。
「え、えっとね・・・、」
碧はそう言い一拍置くと、少し落ち着いたようで一息ついた後に話を切り出した。
「色っ!
浴衣のね、・・・好きな色を聞きたくて、」
「「浴衣?」」
男子生徒達は顔を見合せどういう事だと疑問には思ったが、それでも余りにも必死そうと言うか、顔を赤くさせる碧の様子に何故だと聞き返す様な酷な事は出来なかった。
経緯も分からないし、誰に聞いているのかと言った主語も無い。
しかしそれでも好意の匂わせのように好きな浴衣は何かと聞かれるのは悪い気がしないと、各々は碧が多分買う浴衣で困っているのだろうと納得すると脳内で碧の浴衣姿を想像して耽った。
そして導き出した答えを各自主張し始めた。
「俺は小日向さんなら黒とかでも似合うと思うなー、真逆の色合いのコントラストとかめっちゃ映えるし!」
「それなら紫とか?そっちの方が落ち着きのある感じでて良いだろ?」
「はいはいはい!赤色がいいと思いまーす。
上を白にして下が赤色で巫女さんっぽく!」
「おー、それもいいな?」
「だろー、センスの塊だからな」
そんなセンスだなんだという会話に押され、蓮は少し自信を無くしながらも順番的に自分の番が来たため少し考えた末にボソリと呟いた。
「み、水色とか?」
「あー、まぁ水色も似合うよな」
「けど王道っちゃそうだけど折角モデル級の美少女に着て貰えるんだからもっと唯一無二な感じで着て欲しいよなー」
誰かがそう言えば、それもそうだと奇想天外な話を始める男子たち。もはやアニメのキャラかのような派手なもものの例えまで出して言うものだから碧は最後の方は話を聞いておらず、口元では「みずいろ、みずいろ・・・」と反芻させるように小さく繰り返していた。
そして小さく胸の前でガッツポーズを作ると未だに繰り広げられる会話を遮るように声を出す。
「うんっ、分かった!
ありがとね、参考にする!」
碧は来た時のような自信なさげな姿はなく、目標が出きそれにまっしぐらと言った様子でお礼を言うと自分の席に戻って行った。
そしてその事を楓に報告する様に、満面の笑みで話していた。そんな姿を男子たちはぼーっと眺めながら誰かが言った。
「小日向さん、可愛いよなぁ・・・」
そんな言葉に皆が納得するように頷いた。
「ああ、まじで健気っつーか、付き合ったら尽くしてくれるんだろうなぁ」
「わかるー、小日向さんは絶対いい嫁さんになるわ」
「な。フリーなら猛アタックしてたんだけどなぁ」
ジーーーー
「な、何だよ!」
「「「別にー?」」」
正直ここまで来れば何故浴衣の事など聞いてきたかなど分かっていた。当日はきっと、水色の浴衣を着て来るだろう事も。
しかし余りにも危ういと言うか、触れただけで壊しかねない淡いその恋心に対して誰もが踏み込みすぎてはいけないと言う共通認識の元、こうして碧の笑顔を守らんと皆が遠くから見守るのであった。
だがしかし、少しくらい淡い期待を抱くのはまた別の話であり、その後も男子生徒達の間では碧に似合う浴衣論争で盛り上がることとなる。
そして最終的には黒色の洋風ゴスロリ系ミニスカ浴衣と言う普段の碧からは考えられない様な妄想で皆の熱気が最高潮を記録する事となる。しかしそんな会話の最中にも蓮はモヤモヤとしながら聞きつつも、つい想像してそれも悪くないかとどことなく悔しさを覚えるのであった。




