レクリエーション
ちょっとしたネタ回になります
恋バナでかなりクラスメイトとも馴染んだ碧はこうして新たな学校生活の2日目を過ごしていた。
昨日の騒動で心配されていたことの中には、クラスで腫れ物のように扱われる事も考えられたが、幸いその様な事もなかった。偶に月城のことが話題に出ることはあっても、それは同情が多くそれでどうこう言うことはなかった。
そうして初日の雰囲気と変わることのないまま授業が行われるていき、早くも3時限目が終わった休み時間に、果穂が碧の前の席に座ると碧に向かってとあることを聞いてきた。
「え?レクリエーション?」
「そう!どんなのがいい?」
レクリエーション。どうして急にとは思ったがそう言えば昨日歓迎会を兼ねたレクリエーションを行う時間を設けていると言っていたことを思い出す。それが次の授業だって事は忘れてはいたが。
碧にとっては夏休み以上にブランクのある授業にいっぱいいっぱいで、それどころではなかったのだ。
とは言え1・2時限目は数学と英語であったが、夏休みの課題の提出がメインで授業という授業は無かったがその雰囲気だけで疲れてしまっていた。
碧の歓迎会を兼ねると言うのは気が引けるが、それがレクリエーションならばまだ気を張らなくてもいいかもしれない。
そんな思考を巡らせながら、碧は果穂の会話に意識を戻らせる。
「体育館とか校庭が空いてれば運動でもいいし、教室でゲームしてもいいんだって!」
運動かぁ・・・。
碧は運動という言葉に少し苦い顔をする。何故なら運動は大の苦手で毎年運動会の時期になると嫌な思いをしていたからだ。
人気者でもなく、活躍出来る訳でもない。それでいて足を引っ張ろうものなら普段なら碧のことなど気に止める事すらしなかったのに一斉に敵視されるのである。
思い出しただけで身震いをする。
「え、えっと・・・それなら教室でゲームがいいかな」
「そっか!それじゃあそれで何か考えてみるね!」
そう言い果穂はパタパタとどこかへ走っていき何かをしているようだった。多分他の人にも聞いて回ってるのか、何かを企画しようとしているのか。そうして果穂の楽しそうな姿を目で追っていると楓が一緒になって見つめる。
「果穂ちゃん張り切ってるわね。本当は委員長の私の仕事何だけどね」
その言葉の通りに、果穂は男子も女子も関係なく同じ距離感で、誰にでも仲良く声をかける。その姿は碧には憧れに映る。
「うん・・・、すごい」
普段碧に対して色々と教えようとお姉ちゃん風を吹かせるが、こういう姿の方がかっこいいのにと思う。
「でも色々用意しているのは私もだから、碧ちゃんは楽しみに待っててね」
楓には珍しく負けじと果穂と張り合った。
ボク何かのために、ここまでしてくれていいのだろうかと逆に不安になる。
でもこんな厚意は中々してくれる者など居ないのだから、大切にしていかなきゃと誓う。
「ありがと、・・・かえで」
本当に、ありがとう。
碧は楓の方にトンと寄りかかると、楓もニコッと微笑んで碧の頭に自身の頬を寄せるのであった。
☆
「はい、4時限目は予定通りレクリエーションを行っていきます。
そこでこれから、自己紹介ビンゴをしようと思っています」
4時限目が始まると言われていた通り、レクリエーションが行われることとなった。そのレクリエーションの進行役として前に出たのは委員長の楓であり、きっと果穂が集めた内容と楓が用意していた事を加味した企画だと推測される。
そうして碧は聞いたことのなかったゲーム名であったが、後にはそのゲーム内容の説明がなされ安心する。
「まず手元にある縦3、横3の区画で区切られた場所に部活や好きな科目、趣味といった質問に従い理由と共に自分のことを書いてください。
その後、その回答でビンゴを行うので回収します」
そして碧は机の上にビンゴカードとなる回答を書く用紙と、提出用の8枚の紙が用意されていた。
はへー、なるほど。
回答を提出して、それが引かれればビンゴが埋められるんだ。それに名前と理由が紹介されるとのこと。
さらに例として回答が『読書』の場合、もし自分以外の趣味で同じ答えの『読書』が引かれたとしてもビンゴの穴を埋められるらしい。その為共通点を探すきっかけにもなる。
そして最後にはそのビンゴカードも回収し掲示すればさらに全員が把握できる。
中々面白そうであった。
それに碧をクラスに馴染ませるには適した内容である。
「はーい!それじゃあビンゴになったらどうなるんですか?」
碧が感心していると、クラスの男子生徒が手を上げて質問をした。それに対して皆も同じ疑問を持った見たいで、うんうんと頷いているものも数人居た。
それに対して楓は答えを持っている見たいで、「それはですね」と自信ありげに頷くとその問いに答えていく。
「そのことに対しても既に先生に話を通しているわ。
今回はビンゴした順に席替えの優先権を与えようかと考えています」
席替え。
それは学生生活においてかなりの重要度を占める大イベントである。
窓際の席、先生から見つかりづらい場所といった実用的な席に行きたい者もいれば、意中の人や運命の人と出会えるイベントでもあった。
そして、その火種に燃料を追加するかのように今は時の人となっている碧の存在がいる。周りは「わっ」と沸き立ち、碧もまさか自分がその渦中にいるとは思っていないが同様の発想にはたどり着きチラリと蓮の方を見た。
残念ながら目が合うことはなかったが、蓮の隣になれたらと囁やかに期待を寄せた。
そしてそれに対してもう一人の渦中にいる蓮も例外ではない。勿論狙うは碧の隣ではあるが蓮の場合は男子生徒の中で目の敵にされており、蓮に対して皆はバチバチと視線を飛ばし合う。
「ですので、5分ほど時間を用意するので書いてみてください」
未だに皆の熱気が静まらない間に楓が無理やりに話を進める。そうして皆はまるでテストが始まったかのようなペンを取ると凄まじい気迫でそれを埋めていった。
碧はその熱気に気圧されながらも遅れてペンを取りそれに目を通していく。
するとそこには言われた通り8つの質問が書かれており、その一つ一つを見ていく。
①趣味
②好きな科目
③好きな食べ物
④特技
⑤ 夏休みに行ったところ
⑥自分のチャームポイント
⑦自分を動物に例えると
⑧生まれ変わったら何になりたい?
因みに9つ目のビンゴの真ん中は自分の名前を記入するとの事。
ふむふむ。碧は何がいいだろうと考える。
定番な質問から、その人の個性を引き出すような質問まで揃っている。
何だかお題を見るだけで面白いかもなんて、やる前から楽しくなる。
それでは周りも書き始めてるし、碧も書こうかと①から考えることにした。
①の趣味。
えっと、うーん。あれ、ないかも・・・。
あれ、定番な質問だと言うのに、全くもって出てこない。今までの碧の人生での経験が乏しすぎて何もしていない事に改めて気付かされる。休みの日もボーッと1日が過ぎるのを待ってたし不登校の時だってそうだ。
や、やばい。
もはや無理して適当に書こうか?
しかし根が真面目な碧は気が引けて結局書けず終いのまま、気を取り直して②の好きな科目から考える事にした。そうして考えたがやはり何も出てこない。
拙い・・・。
碧は良くない汗が出てくるのが分かる。もしかして、このレクリエーションの内容って碧にとって相性が悪いのだと疑い始めていた。
皆は早い者では既に書き終えたようで、ペンを転がし既に友達に絡み始めている者もいた。
そんな姿に自身が遅れているのだと認識するとさらに焦りが碧を追い詰める。
これはレクリエーションの筈なのに、全く解けない時のテストと同じ感覚に陥った。
少し涙目になりながら、次の質問へ思考を巡らせる。
つ、次っ、③好きな食べ物。
その問いにやはり何も出るはずもなーーーいや。碧はこれまでにひと際鮮明に思い出せる食べ物があった。食べた回数は少ないというかむしろ1度しか食べたことがなかったが、楽しかった時の記憶が残る思い出深い食べ物。
ーーーりんご飴だ。
その赤くて甘い、蓮と一緒に食べたりんご飴が暗闇に閉ざされた碧に一筋の光を照らし出す。
そうだ、確かに今まではただ惰性に生きてきたかも知れないが、蓮と出会ってからはトキメキに溢れていたではないか。
碧はその事を思い出すと直近の楽しかった出来事と紐ずけて考え出した。
③はりんご飴!
じゃあ④特技である。
しかし蓮との思い出を探ればこの問も簡単に出てきた。
蓮に褒められたこと・・・。
よく可愛いと褒めてくれるけどそれは特技でもないしそんな事書けるはずもなかった。それ以外で蓮に褒められたことと言えば・・・、そう考えた時にとある1つの思い出が碧の頭の中で思い出された。そしてその内容といえば、蓮とメイドさんごっこをした時なんてよく褒めてくれたなという内容であった。
そう、よりにもよって出てきたことが契約によって行った蓮へのご奉仕なのであったのだ。
詳しく語るとするならば「ご主人様」と呼んだりお世話を行った出来事であり、蓮からは「本物のメイドさんみたいだ」と言ってくれたのだ。更にメイド服も買い与えられており、実は1番契約で行った回数が多い内容でもあったりする。
そして何をしてもダメダメだった碧が唯一上手くいった事例でもあった。
普通の人からすればおかしな内容でも碧からすれば至って真面目であり、もはや頭の中では正常性バイアスが働きこれ以外の答えは見つからない迄になっていた。
これだこれ以外に無い!
碧は自信満々に特技の欄に『ご奉仕』と記入。
そうすると段々と筆に勢いが乗り始めた。
それじゃあ次は④はーーーー
碧はその勢いそのまま、次々と答えを書いていくのだった。蓮との楽しい思い出をなぞるように・・・・・・
☆
そんなこんなで全員が描き終わりレクリエーションが始まった。
「それじゃあ今から回答を引いて行くので、聴き逃してビンゴが埋まらなくても自己責任だからしっかり聞いてね」
楓が引き続き司会進行を務める中、全ての人から回収した回答が入った箱に手を入れてそれを引いた。
記念すべき1つ目の回答は、
「ではまず最初はーー、
はい、1番最初は相澤君ね。回答は④番の特技で、『野球。部活でやっているから』だそうです。
では特技で野球と書いた人はビンゴにチェックしてください」
そう言われると相澤くんと思わしき人が「俺のきた!」などと反応し、更に共に野球友達と思われる人が盛り上がる。
勿論碧のビンゴカードが埋まる事はなかった。
だがそれでもワクワクして聞いてられるので、当たらなくても楽しかった。
「はい、では次いきます!
次はーー、飯野さん の⑤番で夏休み行ったところは、『海、友達と海水浴に行きました』です」
楓がそう言うと飯野さんを含め多分一緒に海に行った友達がキャッキャとはしゃいでいた。
そしてその時の思い出を語り合っているのか、実に楽しそうである。
そうしてテンポよく次々と楓により回答が引かれていく。
「はい、では次はーー」
そして順に呼ばれていく名前と回答に皆は一喜一憂するなか、碧は中々呼ばれも回答が被りもせずに少しの焦りを感じてもいた。
回答を聞いたり反応を見るだけで楽しいは楽しいが、それでも蓮と隣になれないのではないかと余裕はなくなってくる。
そんな中、少し諦めかけたその時楓が1枚の紙を手に取ってそれを読み上げる。
「次はーー、ああ、小日向さんね。えーと、」
「っ!」
呼び方は全員統一して苗字呼びで違和感はあるが、それでも呼ばれたことにドキリとしながらも、必ず当たる安心感があった。
碧はワクワクしながら楓の言葉を待ったが、中々読み上げられないソレにすこし眉を寄せる。
楓は何やら何かを迷っているような雰囲気で、少し考えた後にさすがにこれ以上引き伸ばすのはおかしいと観念して読み上げた。
「⑦番の自分を動物に例えると、だけど『猫』で理由が、えー、『猫ごっこをした時に本物みたいと褒められたから』?」
楓がそう言うのと、楓はもしやと蓮へ視線を送る。すると蓮はギクリとした反応を見せて目を逸らした。
しかし周りは理由は兎も角として猫と言うのは納得のいく所なので、少し変わってるけど可愛いなぁなんて聞いていた。
それに少なからずお題に対して『猫』と答えた者もいるみたいで、同じ答えの者同士で多少の盛り上がりを見せた。
そして楓は気を取り直して次の紙を引く事で話題が逸れていく。しかしまた碧に注目が集まるのは比較的早く訪れることとなる。2、3人の回答が回ってきた次に再度碧の番が回ってくることとなったのだ。
そして楓がそれを引くと、またも顔を固ませる内容であり、流れるようにキッと蓮を睨んだ後に重そうな口で読み上げた。
「次の回答は小日向さんで、⑧番の生まれ変わったら何になりたいかは『妹』で、理由が『妹ごっこをする度に本当になって欲しいとよく言われるから・・・」
流石にここまで来るとザワザワと教室はし始める。
猫ごっこに妹ごっことはそれ如何に?
考えられるはそういうプレイか何かと邪推するが流石に純真そうな碧に限ってそんなことはないかと皆は己の汚れた心を綺麗に洗い流す。
しかしかなり碧の回答は下に固まっていたからか、ここに皆に追い討ちをかけるように続け様に碧の回答がやってくることとなる。
「ごほん!えー、次!
次の回答はーーーこ、小日向さん・・・で、④番の特技で、答えが・・・」
そしてそこで流石にの楓も読み上げるのを止めた。一体どんな内容が書かれているのか、立て続けに妙な内容の答えと、楓の明らさまな間に皆はソワソワとし始める。
楓は助けを求める用に碧へ視線を送るが、碧はどうして読み上げるのを止めるのだろうと純粋に疑問で首を傾けるのみで楓の希望を打ち砕いた。
最早訂正も無しかと諦めると、楓はええいっ!とここに来て開き直りの様に読み上げる。
「答えが『御奉仕』で、理由が・・・『メイドさんごっこをする時によく蓮に褒めてもらえるからってーーー蓮!さっきから貴方たち何してるのよ!」
最早名指しで書かれたその理由には、今までの答え合わせがそこでなされることとなった。
碧の純真な恋バナの話で絆されかけていたが、余りに乱れきっているその関係に皆は疑いの目を碧は向ける。
そこで碧に注目が集まるが、碧は依然となんで注目を浴びているか分からない様子で、それとは対称的に蓮は頭を抱えて疚しさ全開と言った感じでどちらがその様な要求をしているのかは一目瞭然であった。
間違いない。
皆の中で無知を良いことに碧へイケナイ事を刷り込んでいる構図が出来上がっていった。
「小日向さん・・・、さっきは小日向さんの恋を応援するって言ったけどちゃんと人は選んだ方がいいかも・・・」
「五十嵐くん、最低・・・」
「くそっ。蓮のやつ、許せねぇ」
教室の中でポツリポツリとそんな呟きが聞こえてくる。誰が発したか分からないけど、殺伐とした雰囲気を感じ取り碧は慌ててキョロキョロとし始めたがもう遅い。
既に蓮の心は無の境地へと達し、これから起こるであろう未来から目を背けお空を見上げるのであった。
そしてその後、この誤解?を解くのには数日を要するこのになるのであった。




