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新たな関係

 転校初日が明けた次の日の今日。前よりも少し遠くなった学校へ向かうべく、真新しい制服へと袖を通す。


 前はバス1本で行けていたが、今はバスと電車を乗り継いだ場所にあった。

 どちらかと言えば碧の実家に近い場所にある為、なぜここで一人暮らしをしているのかは疑問となってしまうが、 こうして早起きするだけで時間の問題は解決するので良しとした。

 それに父親とは未だにしこりが残っているのもあった。

 でもこのままでも良くないことは分かっているので、近いうちにまた顔を出そうと考えていた。

 それは果たして来月か、さらにもっと向こうか。


 そんな事を考えながら碧は首元のリボンを締め直すと、出発前に姿見で髪型を整える。

 今は肩ほどへ届くミディアムボブ程の長さしかないけれど、ゆくゆくはセミロング程になったらいいななんて櫛を通す。


 なぜなら蓮の好きなキャラがたしかもう少し長かったような気がしたからだ。今更だがそのキャラはきっと蓮の理想が詰まったキャラなのだろうから、今度見て勉強しなきゃななんて考える。


 そうだ、それならば今度仲直りしたことだし一緒に見ようかな。家で一緒に見てもいいし・・・っ、


 そこまで考えたが、以前家でアニメを一緒に見た際に蓮が色々と意識してくれていた事を思い出してしまった。


 今の碧たちの関係は曖昧なままではあるが、もし、万が一そんな雰囲気になってしまったらどうしようかと。


「〜〜〜〜〜っ」


 ちょっと考えて、首を振って妄想をかき消した。

 なぜならその事が頭によぎる度に毎回本来の性別を隠す蓮への申し訳さから後ろめたさが残ってしまうのだ。

  だから碧は、こういう事は絶対に自分からはしないと決めていた。いくら蓮に恋心を抱いていたとしてもだ。


 それにこれ以上は求めすぎなのだ。

 こうしてお洒落して、それを見てもらうことを考えながら日々を過ごせる。蓮の隣にいるだけで幸せだ。

 返事は貰えてないしその要求も自分からはしないけど、それでもこれから毎日一緒に学校生活が送れるなんて夢のようである。


 はぁ・・・、これからが楽しみっ。


 最後に前髪を納得するまで櫛を通し終われば完璧だ。最後に髪を右左へと揺らして確認した後、ルンルンと気分を上げて家を出ようとしーー、そして立ち止まる。


 寸前の所でとある事を思い出すと、玄関まで来ていた碧は踵を返すと自身の寝室へと戻った。そして引き出しを漁るとそこには箱に入ったままのネックレスがあった。海を閉じ込めたような青色のクリスタルガラスが輝くネックレスである。


 それは蓮が旅行のお土産に買ってきてくれたものだった。大事にしすぎるが余りコミケでは使えず、さらには蓮との仲違い以降、このネックレスをかけるには自分は相応しくないと考え、中々日の目を浴びていなかったそれである。


 しかしそれも今ならかけられる気がする。

 気の持ちようだが、相応しく無いのなら相応しくなれるように、強くなるためのお守りとしてかけたいと思ったのだ。


 碧はそのネックレスを手に取ると優しく持ち上げ窓から差し込む光へと翳す。すると青い宝石のような光がキラキラと反射させ眩しく感じられた。


 蓮はこのネックレスを碧の瞳と同じように綺麗な色をしていると言った。こんなに綺麗なものと比べられると気が引けるが、言い換えれば蓮にはこの様な美しさを期待されてると言ってもいい。


 この輝きに見合うようになれるのだろうか。

 でもこの瞳は・・・、女の子の姿へ変わってしまう前からの数少ない男の時からのアイデンティティでもあるため、それが嬉しいような、だからこそ自信が出ない様な。


 碧はネックレスに祈るように胸の前に寄せた後、首に回して身につけそして鏡の前に行き確認する。


 こういうアクセサリーは身につけたことがなく少し派手かなと心配していたが、そんな事もなくかなり馴染むように輝いていた。

 碧は悲観的であるが、碧の持つ青い瞳が既に負けず劣らずに存在感を放ち、白い髪に青と言うのは色彩として親和性が非常に高いと言うのもあった。これ程までに似合う人は中々いないだろうと断言できる。

 そして自己評価の低い碧にとっても悪くないのではと考えていた。


 可愛い・・・。

 でも学生なのにネックレスなんて、少し不良みたいかな?


 ちょっとだけ指で転がしながら迷うがそれでも付けたかった碧は胸元を浮かせると制服の下に忍び込ませた。

 そうすると完全に隠れてしまい、これでは寂しいと長さを調整し少し見えるか見えないかという塩梅に調整した。


 これだと言われるまで気が付かれないかも。でもそれでも良かった。なぜならこれはお守りなのだから。


 もっともっと、蓮に相応しくなった時に堂々と出そう。そう誓うと新しい気持ちで家をでるのであった。














 朝の通勤時間は駅前でもないのに人はチラホラと行き交っており、未だ碧を見慣れぬ人は目で追ってしまう程に碧は注目されていた。それはバス停へ着いた時も同じであり、待機列へ並ぶ際もその存在感で皆は少し緊張した雰囲気に包まれた。特に比較的若い多感な時期の子達はソワソワと髪や身だしなみを整え始めた。


 しかしこれもまた成長なのか何なのか、残念なことに碧はそれに気づかずそもそも気にする素振りはなかった。

 何故ならこれから蓮や皆と会えることに浮かれ既に頭の中では皆との学校生活を夢想し、さらにネックレスを身に付けた時の覚悟もあり何だって出来るだろうと言う全能感で満たされているからだった。


 いつも俯き自信なさげであったが、今は前を向くことでその愛らしい顔を隠すものは何も無く、通学2日目にして何人もの人を魅了していた。


 現にバスでは勇気を振り絞った1人の男子学生が、碧のいる隣の席に座った際にも碧は俯くどころか微笑みかける余裕さえあった。

 因みにその男子学生は話しかけるほどの積極性は無かったようで、顔を赤くして固まってしまった。そんな事もありつつ比較的バスでは平和な時間が過ぎ、流れゆく景色を見ていればあっという間に目的地に着いた。


 そして目的地である駅前で止まったバスを降りると、そこには見知った顔の人物が待っていた。


 蓮と楓である。

 昔からの幼なじみであり、家も近い2人はいつもこうして通学しているのだとか。碧も住んでいるところが2人と大きく異なる訳では無いので、こうして皆と通学路が重なる駅前が待ち合わせ場所となった次第である。


「れんっ、かえでっ!お待たせ!」


「お、おう」

「時間ピッタリよ。それにバスの来る時間が分かってるからそう待つこともないわ」


 楓はいつも通りに、蓮は少しぎこちなくそれに答えた。

 昨日の告白以降、互いに意識してしまうのと白黒つかぬ浮いた関係性な為、蓮も手探りで碧と接しているのだ。


 しかし碧も碧で昨日の告白の前後はテンションがハイであったため、昨日までは蓮の腕に手を回しベタベタとしていたが今日になってはそれもリセットされ、少し唇を尖らせて髪をクルクルと指で弄り照れてしまう始末である。


 そんな2人に仲介をするように、楓はタイミングを見て学校へ向かおうと切り出した。


「それじゃあ、学校に行きましょうか?」


「う、うんっ!」


 楓がそう言って音頭を取ると、碧も頷きそれについて行こうとする。

 そうして歩きだそうとしたとき、蓮の目にキラリとしたものが照らすのが分かった。

 それも一瞬、青く光るものが碧の首元で輝いた。


 それを見た瞬間、蓮はつい反応してしまう。


「そのネックレス・・・ぁっ」


「っ!」


 蓮はそう言いかけて途中で止めた。蓮も言うつもりは無かったがつい声が漏れてしまった様子であった。


 蓮もあのような仕打ちをしてしまっただけに、もう一生つけてくれないかと思っていたからだ。なんなら捨てられているとも考えていた。


 しかしそれを今日、身に付けて来てくれているその意味に蓮は言葉を詰まらせたのだ。


 そしてその声は碧の耳にも届いており、すかさず振り向くと蓮を見て瞠目した。


 蓮が気づいてくれた。

 その事が何より嬉しかったからだ。しかしまだ蓮の隣に立つのに相応しいと考えていないのでまだ気づいて欲しくなかったような、嬉しいような複雑な感情が湧き上がる。


 碧は少しだけ目を逸らしながらネックレスを制服の上から撫でると、意を決したように蓮を見た。


 そしてネックレスから力を貰うようにしてその手を蓮へと差し出した。


「んっ」


 碧はぶっきらぼうながらにそれだけ言うと、ただ差し出される手に蓮は首を傾げた。

 けれど何時までも察しの悪い蓮に碧はちょっとだけ恥ずかしそうにポツリと呟く。


「ねぇ、れん・・・手、つなご?」


「っ、」


 初々しいまでの言葉に、蓮は思わずドキリとする。手を繋ぐ事など、夏休み中であれば自然と行っていた事であり、昨日だって流れで手を繋いでいたはずである。


 しかしこの様に改めて、そして初心(うぶ)に言われると否応なしに意識させられてしまう。


 明らかに碧は変わった。

 心境の変化かなんなのか。蓮に対する好きの形が変わったことで、行われるスキンシップは今までとは違う方向で蓮を惑わせる事となる。


 蓮はそれにドキドキしながらも手を差し出すと、碧もそれに応える様に互いの指に自らの指を絡ませていく。

 まるで今の言葉足らずのコミュニケーションの代わりを手で語らうように。そして互いの体温を馴染ませるように合わせると碧は満足したように進み出す。


「・・・」


「・・・」


 楓はそんな2人の後ろ姿を見て、昨日の事は心配いらないだろうと安心したように後からついて行くのであった。


「・・・」


 しかし、急に黙り始めるのは止めて欲しい。

 こちらまで気まずくなった楓はどう話を回そうかと余計な気疲れに朝から疲弊するのであった。


 ☆


 学校に着くまでになれば、繋ぐまでの緊張感はかなり和らぎ、碧もいつもの調子を取り戻すと肩が当たる程にピタリとくっつきながら登校した。


 学校へ近づくとかなり学生の度合いが多くなって来ており、行き交う者は美少女2人を侍らせる蓮を見て2度見3度見を繰り返す。


 しかし碧は蓮しか見えてないし、楓はどう思われようが気にしないのか涼しい顔をしていた。


 そして1番反応を示しているのは蓮の方で、キョロキョロと落ち着き無さそうに忙しなかった。昨日の今日で仲間内にこの姿を見られ様ものならまた絡まれかねないからである。

 しかしこれからずっとこの調子なのだから覚悟を決めて欲しいものではあるが。


 そうしてその調子のまま校内へ入り、各自下駄箱で靴を履き替える。そうして蓮は自身の下駄箱を開き上履きを手に取ると、ハラリと下駄箱から何かが落ちた。


 その落ちる様子を見るに手紙のようなものである。


「こ、これは・・・」


 ラ、ラブレター?


 蓮はすかさずそれを拾い上げると、誰にも見られていないかを確認してそれを懐へ突っ込む。しかし咄嗟に拾ったは良いが受け取る必要も隠す必要も無いのだと冷静になって考えた。

 何故なら蓮には報われずとも心に決めた人物がいるのだから。だからこれも丁重にお断りしなければ。


 そう思い未だに靴を履き替えている碧を目にしてからコソッと中を覗くことにした。幸い便箋等には入っておらず簡単に開くことが出来たので、それがどう言う内容なのかだけ確認しようとする。もしかしたらラブレターでは無いのかも知れないし、それにそうだったとしても送り主を知らなければ断りようもなーーー


『〇す

 小日向さんを見守る会より』


 グシャグシャグシャ!!


 蓮は思わずその紙を破り捨てビリビリに破いた。そしてその原型が完全に消え去ると丸めてポケットへ突っ込んだ。そして目頭を抑えながら思考する。


 危ない。

 脳内で自動的に自主規制を入れたが、余りに現実逃避したい内容に頭が痛くなった。


「れ、れん?どうしたの?」


「うおっ!?

 あ、あいちゃん急にどうしたんだ!?」


「え?急にって・・・、上履きに履き替えてただけだよ?」


「そ、そうか?

 それもそうだな、はははは!」


 ジーーーーーー、


 碧はそんな言い訳で首を傾げるだけだったが、楓には通用する訳もなく冷たい視線が送られる。


 もしかして今の手紙を見られたのだろうか?

 いや決してやましいことではないのだが、変な勘違いをされても困ると、蓮は誤魔化す為に碧達を教室へ行くことを急かした。


 しかし、さっきはサラリと流しそうになったがなんなんだこの殺人予告状は。

 それに『小日向さんを見守る会』って・・・。


 まさかファンクラブか何かだろうか?

 だが転校して昨日の今日だぞ?


 いや、まぁ碧ならばそれもあるかと思えば何の疑問も湧かなかった。


 しかしファンクラブか・・・、厄介なことにならなければいいが。

 それが自分の為にも、特に碧の為にも。


 チラリと楓を見ると未だに半眼で睨んできているし丁度いい。後で相談しようかと考える蓮であった。

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