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ヒーロー

  ーーーーれん、


 碧はやっと話せた事に嬉しくなった。しかし何でよりにもよってこのタイミングなのか。


 本当はもっと成長した姿を見せたかったのに。

 一人でもう外にも行けるし、こうしてなんの心配もさせずに学校にも来れるとこだって見せたかったのに。


「・・・べつに、泣いてないもん」


「お、おう・・・」


 しかしそんな内心など分からない蓮は碧のその態度に困惑するが、しかし明らかに嬉しさが溢れ出るその表情を見れば拒否されているのではないことに安心する。


「ほら、小日向さんもそう言っているように僕は別に泣かせてなんかいないんだけど?

 人聞の悪いことを言わないでくれるかな?」


 しかしその久々な2人の空間に水を差す者がいた。それもそうだ、今この現状はなんにも解決していないのだから。


 蓮は聞きたくもない声に邪魔されいい加減頭にきながら月城と向き合った。


「お前、女の子泣かしてることも分からないでモテるだ何だとか言ってんの?」


「だから、泣いてないもんっ」


 碧はそう言う傍から目元を拭いながら言うものだから、蓮は月城を睨みながら黙って碧の頭をポンポンとする。

 安心してなのか嬉しいのか、先程より泣いてしまっている。


「君、僕に泣かせただなんだと言っておいて自分の方が泣かせてるじゃん。

 小日向さんも君に触れられて気持ち悪がってるんじゃないの?」


 なんて言いつつ、月城の内心では焦りが見えていた。何故ならこの2人には何か違和感を感じているからだ。あまりにも距離感が近すぎる。

 しかし前からの知り合いなのかと思ったがそれにしてはよそよそしい。


 だが本当に転校して初日の関係なのだとしたら相当のやり手か、それか月城をダシにして近ずこうとしているのか。

 どちらにしてもこんな奴にこれ程の獲物が取られるのは尺だし、ダシにされるのも許せない。


 早く蓮にはご退場願えさえすれば碧など幾らにでもやり用はあると、まずは言葉を使い碧達を追い詰めようとする。


「それにさ小日向さんは僕とお昼を一緒に過ごしたがってるの、分からない?

 ねぇ、小日向さん。君も僕と過ごしたいよね?

 僕、このままだと小日向さんのせいで何も食べれないんだけど?」


「っ、」


 月城は碧を揺さぶった方が効果があることを知っている。


 そして気づけば周りにも人だかりが出来、かなりの人が碧達に注目するようになっていた。

 月城は碧が人の目をかなり気にしていることには勘づいているし、ここは少し声を大きくし観衆の目を碧に向けさせながら問いかける。


 現に碧からの反応は悪くなく、良く見れば体を小さく震わせ俯いてしまっている。


「あの・・・、その時のことは、ごめんなさい」


 その声は美しくも遠くまで通ってしまうだけに、月城以外にも届いてしまう。碧達に注目する皆が、碧が謝った事に対して月城に対して何かをしたのではないかという疑念を持った。


「もしかして、謝るだけってことはないよね?

 本当にそれだけなら僕、悲しいよ」


 まるでパフォーマンスをするように、体を使ってそれを表現した。すると周りはヒソヒソと何か話し始めるのが聞こえ出す。

 そしてそれは碧にも勿論届いており、俯いているがその顔は酷く青ざめていることだろう。


 このなか例え蓮が先程のような言動を取ろうものなら開き直りと捉えられかねない。碧にはそれを否定する気概は無さそうだし、その時の状況を全ては知らない蓮は状況整理が行えておらず踏み込めずにいる。月城は笑みを堪え切れずに、もはや碧を手に入れたあとのことを考え始めていた。


 月城は最初に目にした時から碧を手に入れたいと考えていた。男の価値はどれだけいい女を手に入れるかであり、それが男としての強さとなる。

 どんなに顔がよく完璧でも、彼女がブスなら見下す性分。性格がいい?やさしい?そんなのどうでもいい、性格が良い奴など顔がいい女の中で探せばいい。


 現にこれまで月城の彼女となったもの達は顔も良ければ性格もとても良かった。月城の事を理解しようと歩み寄る姿勢すら見せた。


 しかし、1度獲得してしまったトロフィーは輝に満ちているのは最初だけであり、段々とその色は鈍くくすんでしまう。


 学年1と噂されていたマドンナやアイドルだってコンプリートした。だがやはり手に入れてしまえば興味もうせてしまう。

 もはや何もかもどうでもいいかと考えていたある日、月城の前にこれ迄に無いほどに輝いたトロフィーが現れた。


 今までの奴らが霞む程に美しいものだった。


 あとはこの邪魔な間男を排除すればそのトロフィーは手に入る。そう思うと月城の気持ちをはやらせた。


「あんなに酷いことをしておいてそれだけ?それは余りにも酷いんじゃないかな?」


 その言葉を聞いた周りは、月城の思惑通りやはり碧が何かしたのだろうと決めつける。


 そんな周りを睨みつけながら蓮は月城の嫌らしさに嫌悪する。

 碧をよく知るものにとっては人を害する事が出来ないだろう事は百も知っている。しかしそれを知らない周りにとっては分からないだろう事が歯痒くさせる。


「そもそも君なんなんだよ?小日向さんに一目惚れしちゃったのかな?

 残念だけど小日向さんは君みたいな者とは住む世界が違うのだから身を弁えた方がいいよ」


「それはーーーー」


 またもやいつかの質問と同じ言葉に蓮は二の句を潰される。未だに碧との関係性の進捗は進んでおらず、その答えは未だに出ていなかった。

 それに碧と蓮とでは住む世界が違うのは自身が1番痛感しており、碧が転校してきてからこの学校ではまるでアイドルかのような扱いを受けている。

 そんな話を聞く度に自身との差を常々感じてきたのだ。


 1度目の時もこの問に何も言えずにいたことは実証済みであり、月城は自信のある顔で蓮を追い詰める。


 蓮はそれに対して歯がゆい思いをしながら何も言えずにいる状況に、月城は勝ち誇ったかのように蓮を見下しニヤリと笑みを浮かべた。

 自らをイケメンと称するには余りに醜く、しかしそんな者にも何も言えずにいる自分に蓮は情けなさと悔しさで唇を噛む。


 しかし、この様な中に蓮以上に悔しい思いをしている人物がいた。その者は勇気を振り絞り1歩前へ出ると、意を決して声を上げた。


「違う!」


 蓮の葛藤や迷いにより停止した思考を引き戻すような、高く澄んだ声響き渡る。

 しかし蓮の記憶にある声の主は、とてもではないがこのような大きな声を出すようには考えられなかった。蓮は信じられずにその主を見た。


 すると、その人物は手に小さな握り拳を作りながら、胸に寄せて身を乗り出していた。

 その姿を見ると蓮の想像は間違っていなかったのだと認識させられる。


 そしてその人物・・・、碧は更に続けるように声を張り上げた。


「れんはっ!」


 続けて碧は食堂へ響き渡るのでは無いかという大きな声を発する。その姿にはその小さな体と大人しそうな容姿からは想像できずみなが驚いていた。

 それは蓮と月城も同様で、両者会話を止めて碧の一挙手一投足に注目が注がれる。


 そんな碧は蓮を庇うべく見切り発車で声をあげたものの、碧も今の関係をどう表現していいのか困り中々次の言葉が出てこなかった。

 もしかしたら蓮からは友達と思っていないのかもしれない。楓は、蓮が碧のことを好きだと言うけれどそれも勘違いなのかもしれない。


 何も分からない事だらけの今だけど、ただ1つ言えることはある。

 それは碧自身の今の心の声だけだ。


「れんはっ、・・・ボクの、た、大切な人だから!」


「あいちゃん・・・」


 蓮はその言葉に目を潤ませる。

 対称に、月城はその反応に一瞬顔を歪ませる程に嫌悪感を示した。しかし瞬時に整えると余裕のある表情で碧と向き合う。


「小日向さんは優しいね。

 この様な者にも優しく庇うなんて。でもそんな無理する必要ないよ。なんなら僕がこの間男を排除してあげようか、この様な者と関わるだけで君の価値が下がってしまーー」


「やめてっ。れんに・・・酷いこと言わないで」


 碧は蓮の後ろから飛び出ると、蓮を庇うように月城を睨みつける。

 先程まで怯えた目をしていたというのに、まるで月城に反抗的な反応をするものだから月城は本格的に碧にイラつきを覚えた。


「なに、その目?

 今から君を助けてやろうという僕にその目はないんじゃないかな?それにさっき君が僕にしたこと忘れたの?」


「それはさっき謝りましたっ。

 お金も払うし、必要ならボクが買いに行きます」


 悪いことをしたのは事実であり、そのような相手にこの様なことを言うのは心が痛い。しかし碧だってそれよりも優先すべき事があるのだ。


「だから、余計な事しないでください」


「余計なこと?何が余計な事っていうんだい?

 それにソイツの事を大切だと言うけど昨日今日会ったような者の何が大切だというんだ?」


「れんはっ、そんなんじゃないもんっ。

 れんはボクにとって大切な人で、すっごく大すーー」


 碧はそう言いかけ、蓮を見た。

 ここまで意固地になる碧に呆気に取られ、更に何を言いかけているのか分からない蓮は何故ここで自身を見たのか分からずに戸惑っていた。そんな蓮と目が合い、そして言いかけたまま固まってしまった。


 ーー大好き。


 どうしてもその言葉が出てこなかったのだ。

 何故だろう。夏休みの間はずっとそう伝えていたのに、その言葉を伝えに来たのにその肝心な言葉が出てこない。


「〜〜〜〜〜〜っ」


 碧は結局その言葉が言えぬまま、俯いてしまう。そして顔を赤くさせるのみであり、何も出来ずにいる碧に拍子抜けしたように月城は気を取り直し気丈に見せるように笑みを浮かべる。


「は、はは。

 なんですか、結局そればかりで何も無いのでは無いですか」


 そんな何も言えずにいる碧を鼻で笑い、嘲笑う月城の態度に頭に来た碧はグッと月城を睨む。

 そして碧らしからぬ激情と八つ当たり気味な反発を見せた。


「な、何が言いたいんですか?」


 また反抗的な態度の碧に月城は再度気を遅れする。


 そうして碧は悔しさに涙を目元に滲ませながら、溜まったその感情が零れ落ちるように言葉が漏れた。


「・・・・・・きらいっ」


「ーーは?」


 月城はまさかの言葉に聞き間違いではないかと耳を疑った。しかしその現実を突きつけるように碧は再度言葉にした。


「れんを悪く言うあなたなんて、大っっ嫌い!」


 全く持って論理的ではない。子供のような感情任せのその言葉が、まるで場違いの様でいてそれが月城へとよく効いた。


「ぷっ」


 月城もあまりにも素っ頓狂な顔をしたものだから、そしてそれを煽るように蓮が吹き出した。


「あははははっ、そうかあいちゃんは月城の奴が嫌いか」


 蓮は腹を抱えるようにオーバーに反応するものだから、それが更なる怒りを月城へと植え付ける。

 月城は舌打ちをして元凶である碧を睨み威圧する。


「さっきから良くもそれだけ僕をイラつかせるよね。

 君が僕に行った失態も穏便に済ませてやろうと思てたのに」


 月城がそう言いながら碧へ近寄ると、その行動に待ったをかけるように碧達を囲む観衆のなかから楓が割り込むように現れた。


「情けないからもう止めなさい。

 分からない?貴方、碧ちゃんに振られたのよ?」


「はぁ!?」


 まさかの乱入に月城の歩みは止まったが、それでも怒りは収まらぬようで女性が相手でも怒号を飛ばす。


「急に現れてなんなんだよ!

 それに何言ってるのかな?ねぇ、小日向さん。

 そんな子供みたいに感情的になるんじゃなくて冷静になってよ?

 それにその態度、余りに僕に不義理じゃないかなぁ?」


 その怒りは有頂天へと上ると顔を歪ませ、碧へ迫る。しかしまたも乱入者が現れた。


「はい!はいはいはいはーい!

 これ、私たちのだけど、これが欲しいんでしょ?上げるよ?」


 余りに強い主張をしながら現れた果歩が、ぴょんぴょんとしながら焼きそばパンを突き出した。

 そして横で和葉が軽蔑しきった冷えた目で月城へ言い放つ。


「そんなのの為ここまで喚いてたの?

 ・・・ちっさ」


 このやり取りでなんでこんな事になっていたか分からなかったもの達が合点がいったように納得し始めた。そして最初から始終を見ていたものや理解したものたちを中心に未だに分かっていないもの達へヒソヒソと噂話ご伝播していく。


 それもそうだ。

 先程まで敢えて主語を使わず大袈裟に被害者面をしていたのに、蓋を開けてみればパン1つの恨みとなれば余りにダサすぎる。


 月城も碧を責め立てる体として利用していたが、ここに来ればそれはまるで逆効果に働き始める。


 何よりも外ズラを気にする月城にとってその恥辱は何よりも耐えられないものであった。


「くっ・・・っ、くそっ、がぁ」


 明らかに青筋を浮かべ、完全に甘いマスクが剥がれた月城はもはや怒りで震えていた。

 そして何もかも全てどうでもいいかのように、目を赤くさせながら碧へ歩き出す。その歩みは近ずくについて段々と早くなりそして拳を振りあげようとした。


 その瞬間、蓮が月城の腕を掴み碧を助けた時に入れた力以上にその手を捕らえると、蓮は月城に聞こえるレベルに顔を近ずけて告げた。


「今の行動は見逃してやるから失せろ」


 低く、そして煮えたぎる怒りを抑えるような響く声が月城を身震いさせた。


 今回の騒動は余りにも注目を浴びすぎた。

 これ以上は月城にとって致命的になりかねない為、蓮からの恐怖と共に冷静さを取り戻し後ずさろうとしたが、そんな都合など知ったことでは無い蓮はその手を離さない。


「これ以上あいちゃんに近ずくな。

 次手を出してみろ、その時は潰す」


 それは今握っている手なのか、それとも何かの比喩的表現なのか。しかし碧に手を出しかけたことにより、明らかに尋常ではない蓮に身の毛がよだつと、本気で腕を振り払い無様に後ろへ後ずさった。


 そして周りを見て、明らかに周りからも自身が蔑まれている事に多大なるストレスを感じ呼吸が不規則なものへと変わっていく。しかし蓮に再度睨まれると悔しげに目を逸らし、しかし何も言えずに立ち去った。


 周りは月城が食堂の出口へ移動すると蜘蛛の子を散らすように間を開け道を開けていく。

 そんな周りの動き1つとっても今の月城の心情からは避けられていると感じ、忸怩たる思いでその場を後にしたのだった。

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