大掃除
時間にしては4限にあたる時間、今日は夏休み明け 初日ということもあり大掃除が行われていた。
そして各生徒は班ごとに別々の掃除場所に行き掃除を行っていた。
「さっきは蓮も災難だったね」
蓮は雑巾を持ち身をかがめて掃除していた時、同じように雑巾を手に持ちながら真尋が話しかけてきた。そしてそれにノるように別の友達もはやし立てた。
「そーそー、月城に絡まれてやんの」
「なんだよ、お前嬉しそうだなー」
蓮は友達から軽口を言われ、身をかがめていたのを起こし腰を伸ばしながら返す。
「いやだってアイツいけ好かないしー、
蓮が言い合ってんの見て心の中で応援してたんだぜ?」
「じゃあ心の中だけじゃなくて来いよ」
「いやいや、ああ言うのは関わりのない所で見てるのがいいんじゃないか」
要は野次馬である。
その気持ちはわかるがいざ当事者になって見ればたまったものではない。
「蓮もああいうのにカッとしちゃダメだよ。
月城って人あまりいい噂聞かないしさ」
真尋は2人の間を取り持つように蓮にアドバイスを送る。
真尋の言う通り、月城と言うものはいい噂はあまり聞かなかった。入学してから半年ほど、だと言うのに既に彼女が入れ代わり立ち代わりと実態は知らないがあまり好ましく思われない事をしている。
とにかく甘い顔をして尚且つモテるのだ。
女性はモテるという事実に惹かれることもあり、そういう意味では月城にとって彼女を作ることは造作もないことであった。しかしその歴代彼女達は噂ではクラスで1番可愛いとされる子やアイドルや芸能人等、何か肩書きを持つ者が多く、周りからは好きというよりもトロフィーの感覚で付き合うことに固執するように見えてしまうのだ。
実態はどうあれ、特に男子からは評判はすこぶる悪い。その評価はここに居るものたちにとっても変わらないでいた。
「ま、そうだったかもな・・・」
確かに良くなかったと納得する。できるだけ関わるのは得策ではなかった。
「けど小日向さんを抱っこ出来たんだから役得じゃん!みんな羨ましがってたぜ?
どう、軽かった?柔らかい?」
おいおい、と蓮は呆れたようにその友達を見る。しかしそう言われて手をワキワキすると、その懐かしい碧の重さについつい夏休みの頃を思い出し切なくなる。
蓮にとって碧を持ち上げることは初めてでもないのだ。あの頃なら初めてどころか頻繁と言えるほど、その距離感は近かった。
「まぁ、軽かったな。あとは柔らかいけど・・・その言い方キモイなぁ」
「いやいややっぱ気になるっしょ!
どのくらい軽かった?俺の予想的にはリンゴ3つ分くらいかなって思ってんだけど?」
「どっかの猫のマスコットか!
そうだなー、40キロちょうどくらい?リンゴだと100個ぐらいじゃないか?」
「えっ!?重っ!マジか、小日向さん結構あるんだな」
「いやいやいや、リンゴ換算だと重く見えるけど40キロって軽すぎてビビるぞ?」
「へー、そんなもんなのか?
女の子なんて持ったこともないからなー、でも前テレビ出てたモデルの子が結構身長高くて40ちょとって言ってたからそんなもんなのかなーって」
あまりにも非モテじみた情報源に蓮は少し悲しくなった。まぁ今ここにいるメンバーで彼女がいるやつ居ないから仕方ないけど。
次いでに蓮は真尋も見つめ同じように哀れみの目を向けた。
同じオタク友達だからな、3次元よりも2次元をとる友達である。
「?」
真尋はキョトンとしながら蓮がなぜ見つめて来るのかんからなかった。それがさらに蓮の哀れみを加速させるが、ここには仲間しかいないのだと心の中で励ました。
多分口にしていたら総スカンであっただろう。
蓮は心にしまい続けようと誓う。
そうして蓮は優しく「なんでもないぞ」と言ってから掃除に戻った。そしてしばらくするとまた掃除に飽きたものから雑談が始まる。
「なぁ、みんな今日弁当持ってきてる?
ないなら久々の購買か学食でも行かね?」
「ん?そうだね、まぁ悪くは無いね」
「俺はまぁ、ちょっと菓子パンあるくらいだが・・・」
真尋からは好感触な反応が帰ってきたが、蓮は少しだけ言葉を濁す。
学食。
この学校では購買は勿論、学食もあるので生徒はお昼になると色々と選択肢があった。
それも購買も学食も値段はワンコインで普通の人ならお腹が膨れるくらいには量もあった。
しかし高校生のお小遣いで毎日500円掛かるとなるとかなり消費してしまうので、特にコミケに行く前後は控える傾向があった。
しかし初日ぐらい、ご褒美でも良いかと蓮は自身に言い訳をした。それにこうなる事も予想して菓子パンと言う調整出来るものを持って来ていた訳だから。決してそこまで美味しい訳では無いが、冷たい弁当よりも暖かい物が食べれるだけで価値はある。
「分かった、じゃあ行こうかな」
蓮は奮発し財布の紐を緩めるのであった。
☆
「碧ちゃんご飯持ってきたのー?」
「はえ?・・・ご飯?
えっと。おにぎりなら、作ってきたよ?」
蓮同様、同じように掃除をしていた碧に果歩が顔を近ずけて昼食について尋ねた。
碧は前にいた高校と同じように、小さいおにぎりを2つ。
購買等あるか分からなかったので、特に自由の効きそうなものを持ってきていた。確か入学前に説明された記憶はあるが覚えることがいっぱいで忘れていたのだ。
「へー!可愛い!
自分で作ってるの?碧ちゃんは偉いねー」
何が可愛いのだろう。
でも何かと褒めて頭をよしよしとしてくれる果歩。きっと同級生にも関わらず妹扱いをしている辺りお姉ちゃんと言うものに憧れているのだろう。
碧と同じく童顔で、とある一部分を除き華奢な体型をしているため、今までそういう欲求を満たせる機会が少なかったのだろう。
「それじゃあ、私は購買に行こっかな!買って碧ちゃんと一緒に食べよー」
どうやら果歩はお弁当を持ってきていないようで、さらにその言葉で購買があるんだと碧は思い出す。
「そう言えば私も持ってきてない・・・」
そして遠くで聞いていた和葉も近寄りボソリと呟いた。どうやら果歩とは違い忘れたのか、少しションボリとしている。
クールな和葉であるが可愛らしい反応をするギャップに碧は少し癒された。
「それじゃあ購買の紹介がてら行きましょうか?碧ちゃんは持ってきてるみたいだけど一緒に食堂の方にいく?」
そして楓も話に加わると碧にそんな提案を行った。その言葉に碧は知っておきたいところだったので頷こうとする。
しかし蓮はどうするのだろうと頭をよぎる。出来ればこのグループに蓮と真尋とも一緒に食べたいと思っていたからだ。
しかし今の所このグループと蓮達はなかなか接触がなく少し悲しい碧であった。
けれど折角紹介してくれると言うのだから、今日は勉強も兼ねて教わることを選ぶ。
「うん・・・、それじゃあお願いするね、かえで」
「任されたわ」
楓は頷くと「さて、ならそれまでに掃除終わらせようかしら」と話を締めくくる。
碧達が行っているのは廊下の掃除であり、あとは集めたホコリを回収し捨てるだけだったのでその後の掃除もテキパキ行った。
大掃除と言ってもどうやら夏休み中に清掃業者が校舎を清掃からワックスまでピカピカに仕上げているみたいでほぼやる事などなかった。
流石にお金のある学校だなーなんて掃除しながらな思う。
そうして一通り終わり教室に戻ると結構な人が既に教室へと集まっていた。きっと適当に終わらせたか早く切り上げたのであろう。
皆夏休み中明け早々掃除を行うのは面倒だったようだ。
そうして楓達は既にいる皆と同じようにグループで固まりながら雑談をして過ごす。
ここまで来ると流石に碧を取り囲むことはなくなったが、それは楓達と話が盛り上がっているからであって、いざ終わればまた質問攻めをされたり取り囲まれていただろう。
しかしそんな事を知らずに碧は楓との談笑に勤しんだ。
「そういえば聞いてもいい?」
「何かしら碧ちゃん」
話が少しひと段落した所で、碧はそう言えばと楓に話を切り出した。
「かえで、前に業界の人って言われてたけど、あれってどういう意味?」
楓は前の会話を思い出し「あー」と声を出しながら納得する。そして少し恥ずかしそうな苦笑いすると、少し声を抑えて話し出す。
「そのね、中学生の時は読者モデルしてたのよ、私」
「読者モデル?」
その言葉を知ら無そうな碧に対して、楓は1から解説を行った。
「んー。モデルとは違うんだけどね、読者の1人として写真撮られたりインタビューされたりする感じって言うのかしら?
だからプロでもないし、そんなご大層なものではないんだけどね?」
楓は謙遜してそう言った。しかしその言葉に果歩は反応し声を上げる。
「そんなことないよ!ね、和葉ちゃん?
読者モデルって条件とか審査もあるからそんな簡単じゃないし、それに楓ちゃんは専属のモデルにならないかってオファーも受けてたし何度もお呼ばれしてたからとっても凄いんだよ?」
「そうなんだ・・・」
碧は感心したように目をキラキラさせて楓を見つめる。その純粋な瞳に耐えきれず「ちょっと果歩〜」と照れながら果歩にアタる楓。
楓のそんな姿はちょっと珍しかった。
「私は所詮素人だし、皆が言う業界人って言うのもモデルの人とは縁あって今も交流はあるけど、ただそれだけ。
みんな適当に言うんだから・・・」
聞けば聞くほどやっぱりすごくて、碧はすごいすごいとピョンピョンと跳ねた。
「う〜もうっ。
そんな事言えば碧ちゃんだって私よりずっと可愛いし、きっと応募すればすぐスカウトされるわよ!」
「えっ!?いや、無理」
楓が無理やり話題を碧に投げてくるものだから驚いたが、話を聞いて即答する。
ボクがモデル?そんな馬鹿な。
碧は楓も冗談が下手だなーなんて笑うが、少し困ったような果歩と和葉の姿に、笑い所を間違えたのかと焦る。
「ま、まぁ一番は本人のやる気だし」
「えー、私は碧ちゃんのモデル見てみたいなー」
和葉と果歩は一先ず碧を放置し、それぞれの感想を述べた。しかしその言い方にイマイチ納得できない碧は眉をひそめて楓を見るが、楓も適当に苦笑いして誤魔化した。
何だか良く分からないままに話は流れ、そんな事をしているとキーンコーンカーンコーンと4限の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
皆は終わった終わったと、一息着きながらそれぞれ食事の準備を行い始めた。
4限が終わればどうやら昼休憩のようで、各グループ食堂へ移動する者や机を繋げて弁当を広げ出す者がそれぞれである。
碧達はとりあえずお財布を取り出すと楓を先頭にして購買がある食堂へ向かうのであった。




