TS少女のスクールライフ
第2章始まります
ドキ、ドキ、ドキ
扉の向こうでくぐもった声が聞こえる。
先生が生徒達に夏休み明けの挨拶と、そして転校生の事について説明しているのであろう。
どんな内容の話をしているのか分からないけど、呼ばれるまではここで待機しろと言われたので胸に手を当てながら緊張を誤魔化して待ち続けた。
そして緊張を紛らわす一環として、こうして今見える廊下や、校舎全体の風景を見ながらそのスケールのデカさに毎度驚かされていた。
前いた高校は公立ということもあったが、それでも私立とはいえここまで大きいのは中々類を見ないものである。
どうやらここの卒業生や同窓会などで著名人になった者や成功した者も多く、多額の寄付が寄せられている事もこの充実した設備の理由にあるらしい。
こんな所で蓮達は学校生活を送っているのだ。
緊張はするけど、それ以上に楽しみな為に自分に頑張れと喝を送る。
がんばる、がんばる!
そうして小さなガッツポーズをしていると向こう側で先程よりも聞こえる声で「入ってきてください」と先生の声が響いた。
碧はそれに対して頑張って「はい!」と答えたが、ちゃんと向こうまで通ったか分からない。大きい声を出す練習をしとけば良かったと後になって思うが仕方が無いので、せめて胸だけは張って行こうと決める。
そして碧は最後に大きく深呼吸をした後に、扉をスライドし体が通るぐらいの幅を開けた。
すると中からはヒソヒソと言った話し声が聞こえてきて、碧にはどんな内容なのかまでは分からないが皆朝の答え合わせが出来ると浮かれが残っていたのだった。
しかし、それは碧が一歩教室に踏み出した瞬間に全てが変わった。
皆の話し声はピシャリと止まり、まるで時が止まったかの様な錯覚に陥った。だがこの静止した世界の中を碧だけは法則性の外にいるかのように軽やかに歩き壇上へと進み、ここにいる全ての視線が碧へと注がれた。
そして黒板の前まで来ると今まで横顔しか見れていなかったが、こうして初めて正面を向くことでその顔を皆が見ることができた。
そしてこの教室にいる生徒は息を飲む。
今夢を見ているのではないかと。
あれほど美少女が来ると笑っていた男子はもはや瞬きすら忘れ食い入るように見つめ、女子も予想は外れたとはいえそれでもその容姿に今までの期待など全てどうでも良くなってしまうほどに放心していた。
しかし教師だけは前から知っていた為、コホンと咳払いをしてから碧に自己紹介を促した。
「それでは自己紹介をお願いします」
「は、はい!
小日向、碧です。文月高校から来ました。
よ、よろしくお願いします」
碧はぺこりと頭を下げて自己紹介を行った。そして顔を上げたが、皆の反応はあまりに鈍く、普通なら拍手などで迎え入れてもおかしくないのに何も無かった。
碧は段々と不安になり、いつもの碧が出てしまいそうになる。しかしそんな中、知らない人達の中に数人の知っている顔を見つけることが出来た。
真尋に、和葉と果歩。
更には楓と、碧の焦がれ続けた蓮の姿も見つけられた。
見つけた瞬間、碧はパァっと表情を明るくさせ今すぐ駆け出したい衝動に駆られた。
れん、・・・れん!会いたかった。
ボク、れんに会いたくてここまで来たよ?
褒めてなんて言わない。
ただ一緒に居たかったから、あの時には気づけなかったこの思いを、蓮に好きだと伝えるために。
しかしようやく見つけた蓮は、皆と同様に驚く顔をしながらも、しかし碧と目が合うとハッとなにかに気がついたかの様に目を泳がし、しまいには顔すら伏せってしまっまた。
ーーーーえ、
碧の笑顔はそこで凍り、この世界が終わる様な絶望へ落とされた。
まだ、れんに嫌われてるの?迷惑だった?
流石に何も言わずに学校に来たら嫌だし、気持ち悪かったかな。
碧は恐れていた事に胸に手を当てて嫌な想像ばかりをしてしまう。
「ーーん、ーーー日向さん!」
「っ!?は、はい?」
「委員長の席の隣に机を用意しているので、そこに着席してください」
いつの間に先生は話を纏めていたみたいで、碧の自己紹介のパートは終わり席に着くように促した。碧はそう言われて先生が指さす方向を見ると、楓が微笑みなかまら小さく手を振っている。
かえで・・・。
碧はその笑顔に落ち着きを取り戻し、心配させてはいけないと、無理やり笑顔を作ると楓に小さく手を振り返す。
そうだ、まだあの日以降何も話せていないのだから、そんな反応になっても仕方がない。
まずは仲直りから始めないとと思ったからここに来たのだ。
碧は頑張ると言った矢先に挫けそうになった為、再度心を強く持つように心がける。
碧は壇上から降り生徒の隙間を歩くと、生徒達はまるでファッションショーかのように視線が寄せられ、すれ違った後も身を捻ってまで碧の姿を追った。
しかし幸い自分のことでいっぱいで、そんなに注目を集めている事には気がついていない碧は楓の隣まで行くと、「分からない事があったら言ってね」と声をかけられたので、「うん、ありがと」とその優しさが身に染みていた。
そうして着席すると、先生は頷き淡々とこれからの事を話し始めた。どうやら、これから全校集会でお話があるみたいだ。その時間割と、今日一日のする事を簡単に説明する。
しかし夏休み明け初日は余りする事は無いみたいで、掃除がメインと言った感じであった。しかし後日には碧が馴染めるようなレクリエーションを行う時間もあるみたい。そんなのいいのにと思ったが流石に止めてくれとも言えないので愛想笑いでそれを聞いていた。
そうして一連の話が終わると、チャイムが鳴り先生が朝のホームルームの終わりを告げる。
そして先生が教室を出た瞬間、クラスメイト達は男女関係なく隣の席の生徒と顔を見合せ、実感したように頷き合うと一瞬にしてワッと教室が湧いた。
その声と熱気は隣の教室にまで響くんじゃないかと言うレベルであり、思わず何事かと碧は耳に手を当て驚いた。
「まじできたーーーーっ!」
「えっ、ヤバくない?本当にアイドルきたの!?」
「可愛すぎるだろ!なに?これドッキリ?」
「俺にも春来たは!」
特に声が大きい人の言葉は聞き取れたが、それ以外の声も凄まじく、もはや驚くを通り過ぎて怖すぎた。
碧は放心状態となり目を白黒させているとクラスメイト達は叫ぶだけでは飽き足らず一斉に立ち上がり碧の席の周りに群がった。
「小日向さん、どうして転校してきたの?」
「小日向さん!やっぱアイドルとか?それかなにか芸能活動とかしてる?」
「はい、はい!好きな食べ物なんですか?」
「いやそんなことどうでもいい!彼氏、彼氏はいますか?」
「男子、そんな事急に聞いてキモすぎ。
ねー小日向さん!その髪染めてるの?あと目も可愛いしカラコン?やっぱモデルなの?」
「そーそー、髪もだけど肌も綺麗すぎる!何してたらこんなになるの!?」
「えっ、え?」
碧は急に形成される壁にパニックになり右、左を見て助けを求めるが隣の楓の席すら見えなくなってしまいどうしようもない。
れ、れんーーーー!
碧は目をぎゅっと瞑り耐えると、壁の向こうからパンパンと手を叩いて気を逸らさせてから楓が先頭に経った。
「そんな急に言われても碧ちゃん混乱してるでしょ?はいはい、質問するなら順番に並んで並んで」
楓はそう言い碧の後ろに付くと、肩に手をおきこの無秩序な群衆を仕切った。
そして接し方といい、名前の呼び方といい、明らかに初対面では無い様子に皆は疑問を抱く。
「楓さんと小日向さんってもしかして知り合い?」
「そうよ、転校する前から知ってるから簡単な質問なら私でも答えられるわ」
「えー、すごい、でも楓さんなら納得!やっぱ業界の知り合い的な?」
「そうでは無いけど・・・、それに碧ちゃんそういう活動やってる訳でもないし」
「えー、小日向さん違うんだー」
「へー」
業界?え?
碧は疑問に思ったが聞きどきを逃し話はどんどんと別のことへと流れてしまう。
そしてあれよあれよと楓が場を仕切りこの混乱を限りなく沈めた。そしてそれ以降も殆どの質問を楓が答え、それが間違いないかと毎回碧を見つめてくるのでコクコクと頷いて質問攻めを切り抜ける。
そんなことをしていれば全校集会の時間が差し迫り敢え無く質問コーナーはお開きした。
しかしその後も体育館への行き方を教えるとか校内ルールを教えるとかで囲まれてしまうが、これも委員長でもある楓が引率することは決まっていたので皆納得せざる負えなく諦めた。
そうして渋々教室を出て体育館へ移動することとなった。
しかし行くにもグループがあり、各々が仲良しグループで向かう中、碧と楓にも自然とグループが形成された。それもそれは嵐の様に突然に。
「あ、い、ちゃーーん!」
「わぶ!?」
碧に突如飛来したミサイル様なものが着弾した。かなりの衝撃だ、しかし不思議と痛くなく、むしろ気持ちいまであるそれは碧の顔を塞ぐと口や鼻を塞いだ。
碧はモゾモゾっと身を捩り顔を上に出すと、知っている天真爛漫な笑顔の果歩と目が合った。
「わ!?」
「やんっ」
ビックリして手を使って離れようとしたが、その手がちょうど胸に触れてしまい両者揃って声を出す。って言うか今まで顔に当たってたの胸だったのか。
「はぁ・・・、果歩なにやってんの」
「えへへ、つい嬉しくって」
そして後ろから気怠げに現れたのは和葉である。そう、2人は碧と楓が買い物に出かけた際に会った2人である。
かなり久々ではあるため、碧はどう接しようか悩んだがそんな悩みなど吹き飛ばす様にグイグイと果歩は距離を詰める。
「それよりもだよ!
もうっ、何で転校するって言ってくれなかったの!クラッカー用意して歓迎したのに!
それに髪も!イメチェンすごーい、めちゃ可愛いー」
「うへぇ」
果歩は中腰になると碧に目線を合わせね頬擦りをする。質問しているのに質問に答えさせる気の無い態度に碧は完全に手玉に取られてしまう。
それに以前会った時は髪はウィッグを付けていた為、今のこの姿を見るのは初めてであれば当たり前疑問であった。碧はどう答えようかと思ったがそこに和葉さんが割って入った。
「馬鹿なことやってないで、碧さん困ってるから。・・・でも確かに来るなら教えてくれても良かった、水臭い」
和葉は果歩の言動に呆れはしていたが概同意する。けれど、深いことは聞かずに詮索しないでくれるみたい。
「それはそれとして、改めてだけど歓迎するよ。ようこそ」
「うんうん。分からないことあったら私が何だって教えるよ!なんたって先輩だからね!」
女性ながらにクールビューティでそこが格好いい和葉と対極に、果歩は中々見ないほど大きな胸を張り出して可愛く鼻を鳴らした。
そこに性的に見ることは無いが、それでもついつい上下に揺れるのを目で追ってしまう。
だけど失礼だと思い直し邪念を捨てるとお礼を言う。
「うん、ありがと。
よろしくね」
碧はニコッと笑うと、何だか前に見た時より雰囲気が変わった事に気がついたのだろう。果歩達は楓を見て、それに対して楓が頷くのを見てから果歩は「うんっ、よろしく!」と元気よく答えた。
そして久々の邂逅を果たせた所で、キリのいいのを見計らって楓は全校集会へ行こうと切り出した。
「それじゃあ遅れても嫌だし行きましょうか?」
「そだね」
「よし、しゅっぱーつ!」
「う、うん」
教室はもう既に人は疎らで、遅れている方なので誰も楓の言葉に同意して動き始めた。
しかし碧はなかなか話せていない蓮を探した。
れんは?
だけどもう既に教室にはおらず姿は見えなかった。もう行っちゃったのかな?
「・・・はぁ」
「碧ちゃん疲れちゃった?」
「え?あ、・・・うん。
疲れたというか、れんとなかなか会えなくて」
行きながら露骨にため息を付くものだなら楓は心配するように碧の顔色を伺う。しかし気疲れよりも未だに蓮と話せていない事にフラストレーションを感じているようであり、楓もそれはそれでどうしたものかと頭を悩ます。
「うーん、まあそうね。
流石にビックリさせすぎちゃったかしら?」
楓は人差し指を当てて困ったように苦笑いをする。まるでこうなることも予想していた様に。
「でも碧ちゃんは心配し過ぎなくてもいいと思うわ。あとはあっちが寄り添う番だし、気長に待ってるとひょっこり出てくるわよ」
なんて余裕なんだ。
碧にはそんなに余裕をもてていないのにも関わらず、蓮のことならば何でも知っているかのような2人に嫉妬しながらもちょっぴりか心が軽くなるのであった。




