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TS少女の引きこもりライフの終わり

紛らわしいタイトルですがまだまだ続きます

 夏休み最終日。

 その日はどの様な心境で過ごす人は多いだろうか。大抵の人は絶望感を持っているだろうか?それとも新学期や新たな始まりによる期待に胸を膨らませている者もいるだろうか?


 大抵の者は前者であるだろう。

 しかし珍しい事に、ここに1人、この後者に当てはまる物がいた。そう、それは意外にも碧である。


 明日から散々着ることになると言うのに、逸る気持ちが抑えきれずに制服に袖を通すと胸元のリボンの位置を正す。

 そして姿見に映る自身を見やり、身を捻り半回転すると、悪くない立ち姿に満足気に頷いた。


「ねぇ、かえで?どうかな?」


「えぇ、とってもお似合いよ」


 そうして楓の太鼓判を貰うと、碧は嬉しくなり少しだけ身を跳ねて喜んだ。

 そして回転によりスカートを膨らませ無邪気に笑う姿はドラマやアニメのヒロインかのようである。


「そうね。似合いすぎて、ちょっと心配なくらい・・・」


 これは絶対にやばいと、共にいる楓の顔は引き攣りそうになる。楓の通う高校はとにかく自由な校風があるため、きっと碧の様な者でも受け入れられる下地はある。

 しかしあり過ぎるがあまり、きっと誰も放って置かないだろうなとは想像にかたくない。


 何もトラブルが無ければいいけど・・・。


「えへへ、そっかー。

 れん、喜んでくれるかな」


 しかしそんな楓の心配など他所に、その言葉もただのお世辞だと受け取ったのか純粋に喜び蓮に見せるのを今か今かと楽しみに待っていた。


「ねーねー!れん、まだボクが行くこと知らないんだよね?」


「ええ、一応蓮にも碧ちゃんの近況は入れてるけど、まだこの事は秘密にしてるわ」


「そっか、それなら良かった」


 碧はぎこちなく笑い取り繕った。


 蓮に会える、それは嬉しい。しかしあの日以降1度も会えていないことを考えると、どうしてもこんな勝手なことをしている事に不安がよぎってしまう。


 しかし決めたのだ、絶対にもう逃げないと。

 自分の目標が定まったからには、それに全力を尽くし後悔しないと。


 しかし、その前に蓮の反応が芳しくなかったら、強く持っている心は折れてしまいかねない。


 そんな弱い気持ちも勿論あるが、碧はこのサプライズは絶対に成功させると心に決める。



 実家に行った日から様々なことがあった。

 役所と病院、そして実家を何往復もして手に入れた新たな戸籍。

 そして次には夏休み中の学校へ行き、転校の手続きを行った。最近は働き方改革というもので休み中は中々対応が難しい中、未だにその波が遅れている学校の教師はわざわざ夏休み明けに間に合うよう、非常に早い対応をしてくれて助かった。


 流石にこの様な姿で前の学校に行った時は驚かれたし、様々な疑念を持っただろうがもう関わることも無いので、開き直って対応した。

 幸い今どきは性に関することでかなり寛容になったというか、逆にあちらも触れずらくなったというか。


 まぁなんとも碧にとってはとても助かる世の中になっていたので、色々と勘ぐられたが無事転校の手続きが終わった。


 そして新たに通うは蓮のいる如月高校。

 ここは生徒数は1000人を優に超える超マンモス高校であり、生徒の自主性を尊重するためかなり自由のある高校であった。

 その通いやすさから芸能人なども度々入学したり、話題に事欠かないほどに有名だとか。


 しかしそんな自由さと、あまり求められない学力により碧もこうして難なく転校の手続きがスムーズに行えたのだから良かった。

 それに更に碧にとって都合のいい事に、どうしてこの学校を選んだのかと、まぁ当たり前な話題を振られた時に正直に知り合いが居るからと答えたのだ。


 そう言うと先方はそれなら折角ならばと、その知り合いが居るクラスへの振り分けを行ってくれると言ってくたのだ。

 これには碧も都合が良すぎて空いた口が塞がらなかったが、しかし考えてみればあちらとしても拘りが特になければ一緒にした方が馴染みやすくそして管理もしやすいと考えてのことなのだろう。

 よくクラス決めってかなり適当だと聞くし、そんな噂を思い出させる。


 そうしてバタバタし、なんなら夏休み最終日にやっと届いた制服をこうして来ている次第である。


 碧自身は自分が可愛かろうがなかろうがどうでもいいのだが、それよりも蓮がどう思うか、そして蓮の隣を歩いた時に蓮が変な目で見られないようにしたいと言う意味では非常に容姿を気にしていた。


 明らかにただの衣装合わせの割には緊張感を持っているので、楓は碧の肩に手を置くと目が合った。


「大丈夫よ、碧ちゃん以上に似合ってる子なんていないわ。胸を張っているといいわ」


「・・・ありがと、かえで」


 碧は楓にもう心配して欲しくなく、微笑み返す。


 そう、これ以上楓にも、蓮にも、それにお父さんにだって迷惑はかけられないのだ。護られるだけの立場はどれだけ気が楽だったか。

 しかし人はいつかは自分の足で立っていかなければならないのだ。


 碧はそれに気がつくのが遅すぎたのだ。

 今から人との協調性を身につけ、遅れた勉強を取り戻さなければならない。本当なら殆どの者は小学生の頃から行っている事を今からして行かなければならないのだ。


 碧は鏡の前で両手でガッツポーズを作ると、小さく振り覚悟を決めるのであった。


 ☆


 9月1日、夏休みが終わり新学期の初日を迎える日であった。


 皆夏休み中の登校日はあれだけ友達と会えたことに喜んでいたが、今日ばかりはそんな喜ぶ者も少なく何処からかため息が聞こえてくるような、そんな朝であった。


 久々に会った時の会話は既にしてしまっているし、話すことと言えば宿題をやったかとかそう言う話。生徒の自主性を尊重する高校だけに、やってくる者とやらない者で二極化しており、やらなかった人達は頭を抱えるか諦めの局地にいるか、どちらにしても陰鬱な内容であるのは知れていた。


 しかしである、その中にひときは新鮮で更に皆の興味を全て掻っ攫う程の噂が校内に広がった。


「なぁ、聞いたか?」


「知らないけど、なんだよ?」


「何か転校生が来るみたいだぞ、しかも俺らのクラス!」


「えっ、まじ!?」


 何処かでそんな会話が繰り広げられた。

 そしてその会話を小耳に挟んだ者がさらに向こうで、そしてクラスをまたいだ学年にまで波及する。


「まじまじ!

 委員長が先生に呼ばれてたし本当だと思う!」


「長瀬さんが?・・・確かにいねぇ」


 とある男子生徒は教室を見渡し楓の姿を見渡した。

長瀬とは楓の苗字であり、この会話の通りこのクラスで委員長をしていた。そんな楓の姿をどんなに探しても見つからず、その信ぴょう性が高まることとなった。


「まじじゃん!本当に転校生くんの!?」


「な?いったろ?

もう他クラスまで噂持ち切りだぜ!」


男子生徒達は跳ねてその情報に身も心も踊らせる。そしてそんな情報を共有しようと、仲のいい仲間たちに話をしてやろうと見渡すと全く話に混ざろうとしない蓮の姿を捕捉する。


いつもならこういう話にノッて来ると言うのに妙に静かでノリが悪い。男子生徒は席に着いたままの蓮2から見に行った。


「なあなあ!蓮は興味ないのかよ?」


 ある男子生徒が蓮の肩を揺さぶる。しかしボーッとスマホを眺めていた蓮は「ん?何だって?」と本当に聞いておらず、興味なさげに会話に加わった。


「だからよ、今日転校生が来るんだって、どんな奴だと思う?やっぱ女の子だと思うか?」


「転校生?ふーん・・・なんかあっちじゃ男の人とか言われてるけど?」


 蓮は別の方向を指さした。そこでは女子が集まり同じように転校生の事について話題にしていた。どうやらあちらでは転校生は高身長のイケメンの様で、誰が学校案内するかで盛り上がっているようだ。


 そして流れるようにクラスの男子たちは冴えないからなどと盛り上がっている。それを見ながら男子たちはウゲーっと嫌な顔をする。


「なんだよお前、ツレねーじゃん」


「いやだって、別に興味無いし・・・」


「かー!転校生なんて言えば一大イベントだろ!きっとウチの学校かなり自由がきくからアイドルとかモデル何かが来るんじゃないか?」


「それな!だって毎年数人は居るんだろ?なのにうちのクラスいねーじゃん!

 まぁ可愛い子は多いけどよ」


 そう言って皆が思い浮かべるのは楓を筆頭としたクラスの人気な女子達である。しかし可愛さは負けてなくてもやはりアイドルという肩書きに夢を見てしまうのだ。


 蓮はそれを「はぁ」と溜息をつき、結局見てるのは人柄でもなく肩書きかよと呆れてしまう。


 しかし蓮も他人事ではないと感じた。少し前の自分であればここんなアニメの定番みたいなイベント見逃すはずもないし、今もこの話に混じって華を咲かせていただろう。


 しかしとてもでは無いがそんな気になれなかった。碧という少女に心を奪われ、そして振られて以降全くもって女の人に気が惹かれてしまうことは無くなった。

 それはきっと、これからもずっとそうだろう。


 しかし他の男子たちはそれを余裕だと勘違いしたのか、ケッと悪態をつく。


「どうせ蓮には楓さんみたいな幼馴染がいるから興味ないか」


「そーだそーだ!それじゃあどんなに可愛くても蓮は狙うんじゃねーぞ?

 俺たちが一足先にリア充の仲間入りしてやるんだからな」


「へいへい」


 その様子を見るにあまりに無理そうなので、つい笑ってしまいながら返事をする。そんな態度を見て更に逆上しこれでもかと肩を掴まれ揺さぶられたお陰で制服はヨレヨレだ。


 まぁ、こうしてバカな事話してるだけでも気は紛れるから夏休みが終わっても悪いもんではないかと思った。


 しかし、結局碧ちゃんとは出会わずじまいになってしまったし、こうして学校が始まってしまえば更に会える機会は少なくなってしまう。


 契約を結んだ時には、下心なんて無かったはずなのに。

 一方的に碧の為になる事をしたい、そんな無償の愛で良かったはずなのに今はそれが心を締め付ける。せめて心の整理が着くまでと甘えていたら夏休みが終わってしまった。


 今度こそ、碧ちゃんの事をキッパリ諦められるその時まで。

 そうすればまた碧ちゃんの隣に立てる気がする。


 こうして友達と話している時にも頭の隅では常に碧がおり、それに気がつく度に自分の心を殺すのであった。もう二度とあのような過ちをしないと誓う為に。

この話にて1章『TS少女の引きこもりライフ』が終わり、2章『TS少女のスクールライフ』へ続きます。


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