訪問
「碧ちゃん、なかなか連絡帰ってこないわね・・・」
楓は休み時間の度にスマホを見るが、中々思うような返信が帰ってこない事に焦らされた。
何かあったのだろうか?
本当は蓮に聞いても良いのだが、どうにも今日の蓮は碧関係では反応が悪い。
これだと碧の事を聞いても芳しくないと思われるので、こちらでコンタクトを取ろうとした次第である。
だがしかし、連絡が取れないのであれば仕方がない。
「うーん、一応確認しに行こうかしら?
ウィッグとメイクをした時の感想も聞いておきたいし」
碧程に整った顔をしているとメイクをするにも楽しくてついつい色んなメイクを試したくなってしまうのだ。
中々自分だと出来ない事も試せるし、特に簡単に可愛く仕上げられるものだから行ったあとの達成感が毎回凄まじいのである。
なんて、少しの不純な動機も持ちつつ放課後に碧の家に行くことを決めた楓。
その為にも、念の為に碧へと夕方に家に寄る旨のメッセージに書き込み送った。
そして送った後に蓮を見て、スマホを見て。
楓は立ち上がり蓮の席へと向かった。
いつもは友達と常に行動しクラスの中心で賑やかす蓮なのだが、今日は完全にクラスの片隅で影となっていた。
結局、楓が近づいても反応がなかったので前の席の椅子を借りて逆方向に座ると蓮へと向き合っていやでも視線を合わせた。
ジーーーーーッ
「っ、」
蓮は何だよと、キッと睨むがすぐに怯んで目線を逸らした。
「私、今日碧ちゃんの家に行くけど」
「なっ!?」
ガタッ
蓮が立ち上がると同時に椅子が後ろへ飛び、煩い音が教室になった。皆はなになに?と視線が集まる中、蓮と楓の2人を見るとふたりがまた何かしてるのかと半分はまた自分たちの話に戻り、半分は興味深そうに眺めていた。
蓮はあまり注目されるのを嫌い、そそくさの椅子を引いて座り直すと不機嫌そうに肘立ちをした手に顎を乗せる。
「だから何だよ」
「別に?何か伝言あるかなーって思って」
楓がそういうと目をぱちくりさせ少し拍子抜けしたような反応をした後、何かをいいかけ口を開けたがすぐに閉じて悲しそうな顔をする。
蓮は簡単に立ち入ってこないその弁えた態度にありがたいと思ってしまったのだ。しかしすぐにそれがただ大人な対応をされているだけだと考え、しかしそれに甘えてしまおうか、しかし自身がした事の情けなさに気まずく結局は何も言えずにいた。
蓮は苦しそうな顔をした後、結局伝言など見つかることはなく、みっともなく無責任な事を言ってしまう。
「・・・いや、いい。
だけど、すまん・・・あいちゃんのこと頼む」
「ふーん、とりあえず分かったわ」
楓はその回答で相当拗れてるのだろうと察し、これ以上は詮索しないでおくことにした。
しかし蓮の言葉に関しては碧との関係を無責任に投げ出すかのような言葉は全く納得できるものではなかった。
「でも謝る言葉だけはちゃんと考えとくのよ?
どうせあんたが悪いんだから」
蓮の事を信じていない訳では無いが、これ程までに悔やむのならば何かしら蓮の言動に葛藤する何かがあるということだ。だから踏ん切りをつけさせるために背中を押す言葉だけを言い残し、立ち上がり自分の席に戻って行った。
そうして蓮との会話はこれ以降はなく、淡々と登校日がすぎていくと放課後となったのだった。
☆
楓は有言実行と碧の住んでいるマンションへと訪れていた。そしてスマホを見ると、結局一度も反応のないメッセージ画面を見つめてため息を着く。
「碧ちゃん大丈夫かしら。
来たはいいけど鍵が閉まってたら結局入れないし」
あまり留守なんて事は考えられないが、何があってもおかしくないので最悪なことは考えておくに超したことはなかった。
そうしてエレベーターを使い碧のいる階層まで登ると、よく知る番号の部屋の前に立ち止まる。念の為にスマホを見たがやはり返信はない。
それなら仕方がないと、ピンポンと家のチャイムを鳴らした。
「・・・」
おかしい。
楓はドアに耳を寄せ、人の気配があるかを確かめるがそんなことは無かった。
少なくともチャイムの音で出ようと言う素振りはない。
楓は念の為に部屋の番号が合っているかを確認するが、やはり間違いはない事に一先ずは安心するが結局は現状は変わらないのでなんの安心にもならなかった。
そしてまたチャイムを鳴らし、声をかけた。
「碧ちゃーん、楓だけどいるかしら?」
「・・・」
反応はない。
困った。もしかして本当に留守なのだろうか?
これでは一度帰ろうかと思ったが最後にものは試しとドアの取っ手を回すことにした。
すると予想に反してスムーズにガチャりと開く音がしたのだ。
「あれ・・・?空いてる」
楓はドアを捻ったはいいもののどうしたらいいかも分からず、しかしここまで来て何もせず帰るのも何か違うと思い思い切ってガチャリとドアを開く事にした。
しかし必要最低限に、顔だけ覗かせる分だけ開けると中は電気もついておらず薄暗い雰囲気に包まれていた。
「あ、碧ちゃん?楓だけど、入ってもいいかしら?」
ここまでしてもやはり反応は無かった。
楓は恐る恐る中に入ると、ゆっくりドアを閉めた。
「お邪魔しまーす」
そして静かにそういうと、一先玄関で顔をひょいひょいと動かしできるだけ遠くを見ようとするがいまいち分からない。
なので靴を脱ぎ、恐る恐る中へ入っていく。
すると中は妙にひんやりし、閉じられたカーテンが風でなびいていた。
窓が空いている。
ドアが開いているのもそうだけど、留守にするには妙に不用心である。
「碧ちゃーん、いるー?
勝手に入っちゃってるけど、大丈夫かしら?」
そんな事後報告しても意味などないが、あちらがまだ気づいておらず、急に現れてびっくりしてしまう可能性もあるので出来るだけこちらの存在を示したかったのだ。
しかしここに来ても反応はないし、なにかの事件性まで疑い始めた。
それに部屋を見渡しても、碧の家は性格上かなり几帳面に整頓が行き届いているはずだが、所々脱ぎ捨てられたものや食べ残したもの、それから食器が放置されており、あまり碧らしくないとも感じられる。
だからといって極度に荒らされた痕跡はないから空き巣の類でもない・・・はずである。
もしかして誘拐?
それならばこの状況も合点が行くが、そんなことがあるわけないと頭を振って嫌な発想を止める。
いや、もしかしたら寝てるだけかも知れないし。全く、碧ちゃんはお寝坊さんなんだからと自問自答する。
そして楓はゆっくりと、不安な気持ちで碧の部屋を探索する。そして最後に寝室を見ようと扉を開いた。
しかし、結局ベッドにもそれらしき影はなかった。寝ていればベッドにそれらしい膨らみがあっても良いのだが、そのようなものはなかった。しかし念の為に確認しに行こうとしてーー
「きゃっ!?」
楓は何かに足を取られて盛大に転けた。だが幸いなことに転けた先はベッドであり、ボフンと跳ねるがむち打ちとなった事には変わらない。
「いつつ・・・、何よこれ」
楓は鼻を抑えながら涙目で自分が転けた原因を探した。
しかしそれは探すまでもなかった。何故ならそれは人の大きさほどでありーーというか人そのものであった。
その倒れている人は明らかに力なく床に倒れており、足にかけたにも関わらず未だにそれは変わらない。むしろグダッと体があらぬ方向に体が曲がり、それが余計に屍のそれを助長する。
し、しししし、死んでるーーーー
「きゃぁーーーーーっ!!?」
閑静な住宅街に、甲高い悲鳴が木霊するのであった。
と、いう訳もなく。
楓も一時は取り乱したが、流石に我に帰れば冷静な判断能力も戻ってくる。
「うそ、え?あ、・・・碧ちゃん?」
暗闇に目が慣れ始めた楓が改めてその人影を見ると、見慣れた白い肌と髪であった。顔はうつ伏せになっているので分からないが見間違えるはずもない容姿をしている人物である。
「碧ちゃんなんで倒れてるの!?」
楓はすぐさま碧に駆け寄り抱き抱えると、意識は朦朧としているがやはり見慣れた可愛らしい顔がそこにはあった。
しかしかなりの疲労感とやつれた顔をしており、尋常ではない様子がそこにはあった。
時折漏れる苦悶な声と表情から今すぐどうこうと言う危険はないことは分かって一安心である。しかし本当にどうしてしまったのだろう。
楓は優しく揺すり覚醒を促した。
「碧ちゃんしっかりして!どうしたの?具合悪い?病院行こうか?」
「・・・ぅ、ん・・・」
碧は体を揺さぶられやっときを強くもてた様で薄く目を開き楓を認識するが、何故ここにいると言った疑問すら持てずただぼーっと見つめ続けた。
しかし意識があるかないかはかなり大きく、それだけ確認出来ただけで安堵から涙が出てきてしまった。
「あぁ、碧ちゃん良かったぁ」
そして碧の胸に顔を埋め、シミが広がる程に泣いてしまう。碧は未だに焦点があっていない遠いい目をしているが、それでもポツリと呟いた。
「かえ・・・で、?」
「っ、そう!私よ!分かる、碧ちゃん?」
「・・・ん、、うぅん。ーーーぁ」
「?」
「ーーーーたぁ」
「え?なに?」
ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「おなか、・・・すい、たぁ」
「え、えぇ・・・」
楓は眉を寄せるのであった。




