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登校日

「はぁ・・・あっちぃ」


 俺は制服のボタンを半分開けてそこからパタパタとノートで風を送る。


 ミーン、ミンミンミンミン


 この音の元凶を窓から探すけれど見つからない。まぁ、見つかったところでどうしょうもないことだが。


「おはよー」

「おっはよっ!超久しぶりじゃん?」

「うん、めっちゃ久しぶりー」

「おい、お前少し背が伸びたんじゃねーか?」

「マジで?」

「おう、まじまじ」


 一番最初に来て、静かだった教室が段々と煩くなる。


「おっはよぅっ!蓮、元気にしてたー?」


「ああ、まぁぼちぼちかな」


「蓮、久しぶりー、って何その髪!?めっちゃ金色なんだけど!」


「あ、ああ。心境の変化、かな?」


 クラスのみんながチラホラと俺に挨拶をするが、当たり障りの無いように返す。


「かえで〜。蓮が、蓮が不良になっちゃったよっ!」


 挨拶した中の1人である果穂は登校日だというのに元気がいいなぁ。俺なんて憂鬱でしかないのに。


「そ、そんなに強く引っ張らなくても・・・」


「蓮がっ!蓮がっ!」


「えっ?あー、髪染めたこと?」


「知ってたの?」


「まーね。蓮もそういうお年頃なんだよ」


 なんだよそれ・・・。


「ほっ、ほ〜ん。流石は幼なじみ、なんでも知ってるぅ」


 俺の周りで果穂と楓が俺の髪についてのやり取りを聞きながら、頬づえをついて外を見つめる。

蓮はその会話に上辺だけで付き合いながら、目だけは外を見つめ黄昏ていた。するとそんな蓮の異変を目ざとく気づくものがいた。


「碧ちゃんのこと、考えてるの?」


「っ!?か、かえで・・・」


 まさか学校でその名前を聞くとは思っておらず、ドキリとするがその声の先に目を向けると楓がおり納得した。だが見るからに反応してしまい恥ずかしく、周りを見てみるが俺の周りには既に楓しかいなかった事に安心する。


「なによ、私が居るの分かってたくせに。

 まるで話しかけられたくなかったみたいよね」


 俺は『碧ちゃん』という言葉にオーバーにリアクションを取ってしまった。確かに、あいちゃんのことは考えていた。正確にはあの夜の出来事だけど・・・。


「その髪、碧ちゃんの為に染めたんでしょ?金色と銀色で綺麗だよ」


 楓は俺だけに聞こえるように、耳元に口を近づけて小さくそう言った。


「うるせぇ」


 俺がそっぽを向くと楓は俺の頬に指を突き刺してくる。


「かわいい」


 無視だ無視。何故か今日は妙に楓が俺のことを弄ってくる。

 けど無視してれば次期にーー


「碧ちゃんと喧嘩でもしたの?」


「っ、」


 ああ、また反応してしまった。何故楓は昔から妙に勘が鋭い。


「別に喧嘩ってわけじゃないけど・・・」


「そうね。碧ちゃんに喧嘩なんて出来るわけがないでしょうね」


「・・・っ」


 キーンコーンカーンコーン


 蓮が何も言えずにいるの、半月ぶりに聞くチャイムの音が聞こえた。


「それじゃあ私は自分の席に戻るわねっ」


 楓は手を振りながら自分の席に帰っていく。


「はぁ、」


 俺は頭を抱える。先生が今日の予定や報告を話しているが全く耳に入ってこない。


 ーー図星だ。


 楓の言ったことは当たってる。


 絶対あいちゃん落ち込んでるだろうなぁ。

 くそっ。自分が嫌いになる。

 何でこんなことになったかなぁ・・・。


 自分の中で整理しようにも、改めて考えるとダサすぎて恥ずかしい。

 蓮の自意識過剰で暴走し、碧に無理やりに自分の欲求を押し付けてしまった。


 分かっていたはずなのに。


 碧からのスキンシップの殆どは友達としてのものであり、そこには少しの男女としての好意は含まれていない。なのに、そう思いながらも淡い期待を捨てきれなかった。


 正直に言おう。

 俺は最初っからあいちゃんのことが好きだった。確かにあの時助けたいと思い契約したのは本当だし、そこに下心は無かった。


 無かったはずなのに、無理だった。


 そういうことをするとあいちゃんが悲しむと分かっているのに思いは止められなかった。


 どんどん近づくほどあいちゃんも心を開くようになって、俺だけに見せる笑顔も、俺の為にしてくれるご奉仕もいつしか耐えるのが辛いと感じる様になった。

 しかしだからと言って欲求の赴くままこうどうしてもそれは互いのためにならないことも察していた。


 けれどあの夜は、分かっていたのに「もう帰ってもいい」と言われて悲しくなった。

 心が崩れていくような感覚になったのだ。もし今夜、全ては蓮の勘違いで本当に碧が蓮を求めいたとしたら?

 碧のその言葉に蓮はどうしたらいいか分からなくなる。


 そうして、確かめずにはいられなくなった。

 一歩間違えればこの関係が壊れてしまう。そう思いはしたが止められなかった。

 だから気づいた時には押し倒していた。


 押し倒していた時に小さくな悲鳴が聞こえる。


 最低だ。


 俺はそんな嬌声に思わず興奮してしまう。呼吸は荒く、心臓が張り裂けそうなほど激しくなる。


 そして押し倒したあとは足と手を抑えた。逃げられないようにするためだ。


 そして触れ合う手足からあいちゃんの温もりを感じる。

 柔らかく、白い肌。少し力を入れただけで傷ついてしまうのではないかと心配になる。


 そして押し倒してから少し落ち着くまでずっとこの体勢だった。


 その間あいちゃんはなんの抵抗もせず、ただか細い声で「れ、ん・・・?」と微塵も疑うということを知らぬ声で俺の名を呼ぶ。


 荒く押し倒してしまったためか服が翻しへそと、白磁のように白い太ももが付け根まで見えてしまう程スカートがめくれていた。


 そんな光景に、落ち着かせた心は再度熱がついたように燃え上がった。確かめたかっただけなのに、もうこのまま流されたい欲求に駆られる。

 その時だったーー


「れん、やっぱり体が変なの?」


「っ、」


 思わず息が止まりそうになった。

 もっと聞きたいと思っていた声であったのに、好きな人の声であるはずなのに俺の心の熱は完全に消えた。


 もしあの時、あいちゃんが少しでも顔を赤くしてくれたり、目を閉じてくれていたらどれだけ嬉しかっただろうか。


 その後はそのフラストレーションをぶつける様に碧の首元を舐めて食む。そしてその興奮のまま胸へと手を伸ばしーー




 俺は何をしてんだと絶望した。




 確かめる為とか言って言い訳し、片思いのはけ口に陵辱しているのと変わらないじゃないか。


 ああ、分かっていた。分かっていたはずなのに・・・。


 俺はあいちゃんになんとも思われていなかったんだ。

 あいちゃんは確かに無防備な所はあるけれど、それはあいちゃんが俺になんの興味も持っていなかったからだったのかも知れない。


 もうそれ以降は頭が真っ白だった。


 ダサすぎるだろ・・・、俺。



 あいちゃんと出会って、初めて本物の恋を知ったのだ。


 しかし、そんな相手にドキドキさせることは愚か、異性としても見られていなかったのだ。

 まだ告白して振られた方がましだろう。


 けど、あいちゃんは悪くない。悪くないのに、俺の都合で避けてしまっている。


 もう自分が嫌で嫌でしょうがない。


 あいちゃんも今頃ショック受てるだろうな・・・、はぁ〜〜くそっ、もう俺クソすぎんだろ!


「ーーし、」


「っ?」


「五十嵐!返事をしろ!」


 あれ?

 気づけば教室が静かになっていた。

 そして見渡すと俺以外は皆、起立して俺のことを見ている。


「起立だっ。いつまで夏休み気分でいるな」


「は、はいっ!」


 考え事してて全く気づかなかった・・・。


 俺はその場で「すみません」と謝り規律した。

 先生は「分かったならいい」と言ったが、周りからの刺さるような視線が痛かった。


 しかしだからだろうか、そんな蓮をひときは刺すように見つめる楓の視線も気付かずにいた。

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