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別れ

「お疲れ様でした」


「おつかれー」

「また次のイベントでまた会おう」

「そうだね、また来てよ。その時はまた碧さんにもよろしくね」


「ああ。あいちゃんが行きたいと言えばだけどな」


「それでも構わないよ。それじゃあまた学校で」


「じゃーな」


 ・


 ・


 ・


 とこっ、とこっ、とこっ


 定期的な上下の揺れで微睡みの中から徐々に覚醒していく。


 んんっ・・・


 まだ目を開ける気にはなれず、この心地よい微睡みを存分に味わうことにした。

 上下の揺れがゆりかごのようで気持ちがいい。


「ん?」


 窓を開けっ放しにしたのかな。

 たまに吹く風が肌寒いけれど目の前の温もりに抱きつき我慢しよう。硬いけど大きくて安心感があった。


「あいちゃん?」


 んぅ、あったかい。

 あともう少し、あとほんの少しだけでもいいからこうしていたい。


 そんな小さな幸せにボクは感謝しながらあと5分とお決まりの事を思い、この夢のような時間を揺蕩う。


「あいちゃん、起きたのか?」


「んっ・・・、あとごふん・・・」


「ご、五分?」


 あれ?目覚まし時計が喋った・・・。


 喋った!?


「えっ!?って、うあぁぁぁっ!!」


 眠気も吹き飛び起き上がろうとした瞬間、体のバランスを完全に崩し碧は転げ落ちた。


「いたい・・・」


 お尻から落ちたおかげで少しは衝撃が和らげたと思うけどやっぱり痛い。

 碧はお尻を擦って痛みを誤魔化す。


「あいちゃん!大丈夫かっ?」


「あれ、・・・れん?な、なんで」


 上を見上げると蓮がいた。

 蓮は驚き心配した様子で碧に手を貸し立たせてくれる。どうやら碧は蓮に背負われてたようだであった。


碧の頭は完全に覚醒しそういえばと微かに残る最後の記憶を呼び覚ます。


「それにみんなは?ボク、打ち上げにいたのに・・・」


「それはさっき終ったぞ。だから俺らは解散して今帰るところだ」


 いや帰るって言っても。

 ここは最寄りの駅から家に帰る帰途であり、打ち上げ会場から電車を乗り継いで行かなきゃ行けないはずなんだけど・・・、そんな寝ることある?


いくら疲れててもそんなことあるかなぁ。


「そうだっけ?ごめんね。ボク、何だか記憶がおぼろげで・・・」


「あ、あいちゃんは疲れて寝てたんだっ!だからあんまり思い出せなくても無理ないぞっ!!」


「そ、そうなんだ?」


 碧が思い出そうとすると蓮が身を乗り出す勢いで近づき、何故か必死そうにそんな説明をした。


 怪しい・・・。


 碧は蓮の顔を目を細めて疑いげに見つめる。

 そうしたら蓮は誤魔化すように目線を逸らし、口笛を吹き始めた。あからさますぎる。

 さらに怪しいと思ったけど蓮が詮索して欲しく無いようだしやめておこう。


 まぁ、少し想像は出来る。

 どうせまたあのサークルのメンバーに弄られて、恥ずかしいことでもさせられたのだろう。


 あのサークルの中では碧達が一番年下組だし可愛がられたのだろうか、それに真尋の兄である明希という人はかなりのクセがあったから、振り回されても仕方がない。


 理解のある碧は蓮の嫌がる事はしないでおこうと、フフンと鼻を鳴らす。それにふと、思い出すのも悪くはないかと密かな楽しみにしたり。


 けどそうか、ボク寝ちゃったんだ・・・。

 楽しみにもしてたのに。


 碧がしょんぼりとしていたのが分かったのか、蓮がいつもの様にボクの頭を撫でた。


「皆がまた来てくれだってさ。また売り子さんをやって欲しいって言ってたぞ」


「ほんと?」


「ああ、本当だ」


「・・・そっかー」


 嬉しい。

 まさか人と何かを成し遂げるってこん何も楽しいことなのだと初めて知った。

 アニメやドラマなどの学生を題材にしたもので、部活などに打ち込む姿にどこか知らない世界の話だと冷めて見ていた。

 しかしそんな事もあっても悪くないかなって、思い始めていた。

 完全に碧にとっては失われた学校生活。


 今日みたいになにかに一生懸命になって、こうして蓮の隣を歩けるのならーー


「あいちゃんっ」


「っ…、ど、どうしたの?」


「いや、あいちゃんがすっげぇいい顔で笑ってくれてたからさ。それ見てたら俺も嬉しくなってなっ!」


「えっ、顔って、ひゃっん!?」


 蓮は碧を掻っ攫う様に抱き上げた。


 な、なにごと!?


「良かったなーっ!最初は無理だったら帰ろうと思ってたんだ。

 けどあいちゃんは俺の予想以上頑張ったっ!皆とも仲良くなるだけじゃなく手伝いまでして」


「う、うん。ボク、がんばったっ」


 自分で言うのもあれだけど確かに碧自身も驚きなのだ。お話すらまともに出来なかったのに、友達にもなれたのだ。いっぱいの知らない人とも話せたのだ。


「なぁ、あいちゃん」


「なぁに?」


「今日、楽しかったか?

 コミケの事もそうだけどさ・・・。外の世界、と言うか、皆ともいること。いろんな人と出会って、話して、色んなことしたことだ」


 蓮は少し碧に対して伺うように言う。

 けどそんな心配は必要なかった。とっくに碧の答えは一つなのだから。


「うんっ!すっごく楽しかったよ。ボク、蓮とまた行きたいな」


「あぁ・・・、ああっ!また行こうなっ!!」


 蓮は少し涙ぐんだ。碧よりも楽しそうに笑い、碧も心がきゅっと締め付ける思いが込み上げる。なんだかどれだけ蓮に心配を掛けていたかわたかった気がした。


「れん・・・、ありがとうっ」


 ボクは少ししゃくり上げる様にそう返した。


 あれ?

 おかしいな。

 泣きそうになりながら喜ぶ蓮を見いたら碧まで泣きそうになってしまった。


 それ以降は無意識下に閉じ込めていた感情が吹き出した。


 今までの感謝が、急に溢れ出したのだ。

 けれどいつもは恥ずかしくて言えないことが今なら言える気がする。


 だから言ってしまおう。

 ボクの気持ちを。


「ボク、いっぱいの仮が出来ちゃったね。こんなの、ボク返しきれない・・・。

 そのぐらいの事を蓮はしてくれたんだよ?

 ボク、蓮と出会えて本当に良かったって思ってるんだ。だからね、ボクと出会ってくれてありがとう。こんなボクだけど受け入れてくれてありがとう。

 外の世界を、教えてくれて・・・、ありがとね、れんっ、」


 碧は心の中にある思いを言葉にする。むしろ乏しい語彙力が今ほど憎らしく思ったことはなかった。もっと碧に学があれば、自分の全てを蓮に伝えられたのに。

 しかしそれでも、今まで言いたかったことは言えた。


 涙が頬をつたり、顔がくしゃっとなってしまうのを我慢し、なるべく笑顔で言った。

 嗚咽混じりに言った言葉は本当に蓮に通じたか分からないけれど。

 本当に笑えていたのか分からないけれどっ、


「ああ・・・、どう致しまして。そして、こちらこそありがとな、あいちゃんっ」


 そういい笑ってくれた蓮の顔を見たらそんな心配は吹き飛んだ。


 ☆


「あいちゃん、ここまででいいか?」


「う、うん・・・」


 あの後蓮が危ないからと碧の住んでいる家まで付いてきてくれた。

 あれからというもの、どうも気持ちが高ぶり蓮ともっと一緒にいてお話したいと思ってしまう。


 だからちょっとだけど長く一緒にいれると喜んだけれどもう終わりが来てしまった。


「あの〜、あいちゃん?」


「?」


「手を離してくんないと帰れないんだが・・・」


「あれ!?ご、ごめん」


「いや、いいよ」


 碧はそう言われずっと手を握りしめていたことに気がついた。

 そして握る手を緩めると蓮の手を触る感覚がスルリと抜けるように無くなった。


「・・・っ、」


「それじゃああいちゃん、今日はここまでだ。

 多分あいちゃんも疲れてると思うから、ゆっくり休んでな、お休み」


「う、うん・・・」


 蓮は最後にしゃがみこみ碧と同じ目線に合わせると頭をポンポンとして微笑みかける。


「そんじゃ、な!」


 蓮は立ち上がり、背を向けつつも首だけで振り返り手をフリフリする。


 お別れなんだ。あたりは暗いこともあり、そして先程まで騒がしく泣いたり笑ったり、感情のままであったこともあり急に訪れる孤独の実感が心に影を落とす。


 ーーいやだ、まだ、ずっと一緒にいたいっ


 碧は気づけば縋るように手を伸ばし、1歩足を踏み出していた。そして、


「ま、まって、行っちゃ・・・やだ」


 っ!?


 碧は口元をおさえた。


 最後にボソッとだけど思っていたことが口から出てしまった。蓮には今まで色んな恥や迷惑をかけてしまった関係だけど、それでも寂しくて離れたくないなんて恥ずかしい。


 碧は恐る恐ると蓮の顔を覗くように見た。


「ん?何か言ったか?」


「・・・」


 はぁ・・・、

 あのドキドキを返して欲しい。

 恥ずかしいことを聞かれたと焦ったボクがバカみたいじゃないか。


「・・・バカ」


「えっ、お、俺何かしたっ!?」


 蓮は突然碧に罵倒されて焦り始めた。


 た、確かに何もしてなかったけど・・・。


 考えたら蓮は碧に何もしてないしずっと優しくしてくれていたのに悪口を言うのは良くなかった。

 しかし無性にむしゃくしゃしたから仕方がないと、反省半分言い訳半分。


 でも、やっぱどうせなら聞こえてくれていればよかった。そうすればずっと一緒にいようといえたのにーー


「・・・」


「あいちゃん?すまん。謝るから赦してくれーー」


「・・・しいの」


「?」


「さびしいのっ!・・・なんだかまだ蓮にいて欲しいのっ、」


「っ!?」


「だ、だから今日は、ずっとボクと一緒にいて欲しい・・・」


 い、言えたっ!

 こんな年でこんなことお願いするなんて恥ずかしいけど今日だけでも1人でいたくないのだ。ここで言わないで後悔するより言ってしまった方がいい。

 それにダメかどうかなんて蓮が判断するのだから言うだけタダである。


 碧は恥ずかしさを我慢するために服を握りしめ、目をつぶりながら言った。


 その緊張が少しは和らぎ徐々に目を開けるとそこには、今まで見たこともないほど顔を真っ赤にして壊れたロボットのような蓮がいた。


「なっ、なっ、なっ・・・、///」


「?」


 蓮は口元に手の甲を寄せ、それでは隠しきれないほどに真っ赤にさせてワナワナさせていた。


「れん?」


 碧がガタガタとぎこちない動きをする蓮を心配して頬に手を伸ばすと蓮に手を両手で掴まれた。


「あいちゃん!」


「は、はいっ!」


 すごい形相で言うものだから碧も返事に力が入ってしまった。


「お、俺も、一緒に、いたい・・・」


 なんだか碧より蓮の方が 恥ずかしがっている。それよりも蓮も一緒に居たいと思ってくれていたなんて。

 それが恥ずかしがっているのか、そんな姿を見ていたら段々と碧の方が余裕が生まれてきた。


「いいの?」


「お、俺こそ・・・」ごにょごにょ


 なにか尻すぼみに何か言っている様だけど聞こえはしない。でも拒否反応を示しているわけではない。


「それじゃあ、よろしくね!」


「あ、ああ」


 そして碧は手を差し出すと、蓮はその手を見ながらゴクリと唾を飲み、そして手を取ると2人で碧の住む家に向かうのであった。

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