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打ち上げ

 コミケの閉会のアナウンスが流れ、大きな拍手が起こった。

 驚きはしたが始まりの時もこんな感じだったと思い出し、今度は碧も一緒に軽い拍手をした。


「いやー、夏コミも終わったなーっ」

「しかも予想では過去最高記録らしいぞ!」

「バンザーイッ!バンザーイッ!」


 碧のいたたサークル内だけではなく、その隣のサークル参加人たちともコミケ終了を祝い、そして労い合っていた。


「あいちゃん。コミケ、終わったな」


「うん」


 碧達もその空気に当てられて不思議な気持ちになる。

 そして、撤収作業を手伝っていた時だった。

 真尋は碧に声をかけた。


「蓮と碧さんも来るかい?この後打ち上げをするんだが皆が呼べと煩いんだ」


「うちあげ?」


 そう言うのあるんだという感想とともに、まさか呼ばれるとは思わなかった。

 確かにこのサークルのお手伝いをして楽しかったし、打ち上げがあるなら行きたいけど碧達は所詮部外者なのだ。


「ボクなんかが行ってもいいの?」


「何言ってんだ碧ちゃんっ!!」

「そーだ!碧さん、は俺らの女神様だぜっ」

「碧さんが来てくれなくちゃ打ち上げが始められんぞ!」


 碧が本当に参加していいものかと真尋の後ろにいる皆に目線を向けた。


 皆は碧をとっくに受け入れてくれるらしい。こういう体験、学校行事や部活動と言ったことに打ちん込んだ経験のなかった碧には新しい感覚であり、感動が芽生えていた。


 碧は今にも答えてしまいたい気持ちをグッと抑え代わりに蓮の顔色を伺った。


「いんじゃないか、いくか!」


「っ、うん!」


 碧は望む言葉を貰えた事に顔をくしゃりと笑顔で頷いた。蓮も行こうとは思っていたが、最初から物欲しそうに見つめられてはそう答えるしかない。それが可笑しくて碧の頭に手を置きぐしゃぐしゃと撫でた。


 周りから見ると子犬見たいだなんて感想が浮かんだが多くは微笑ましくその光景を見ていた。

 そんな2人の邪魔などはしなくないが、真尋はコホンと咳払いをしてから間に入った。


「でもその前にもうひと頑張りしないとね。撤収作業もあるし。

 今日の功労者は疲れただろうしそこに座っててもいいけど、蓮には机の片付けを手伝ってくれたら嬉しいな」


「あ、ああそうだな」


「え、大丈夫ボクも手伝うよ?」


「そうかい?ならそこら辺のダンボールを片付けてくれると助かるな」


 そう言って指さしたのは山ずみのダンボールの空である。幸い全て売りきったため持ち帰るようなものは無いが、それでもかなりの荷物である。


「うん、分かった!」


 碧は袖を方までまくり気合を入れて手伝いを行い始めた。ダンボールを片付け、ゴミの分別それからそれから・・・


 碧がエッホエッホと労働に勤しんでいると知らない人が目の前に現れた。

 と言うには少し語弊があるが、完全に知らないという訳では無く今日隣のサークルで参加していた人達である。


「すみません、少しいいですか?」


「えっ、あ、はい・・・」


 多少緊張することはあっても、完全に今日で慣れたのか、それとも完全に知らない人ではないのと合わせて話すことにそこまでの抵抗感が和らいでいた碧。

 碧には実感がないが明らかな成長がそこにはあった。


「今日ずっと隣で見てたんですけど、マジで紅羽ちゃんのコス似合ってますね!

 出来れば写真1枚いいですか?」


「写真、ですか?」


「はい!ちゃんと一眼レフもあるので!」


 そう言って首から下がった高そうなカメラを持ち上げてアピールする。

 それがなんのアピールになるのか分からないが「えっと・・・」と間を置いてからこくりと頷いた。

 そしてちょっぴり勇気を振り絞り自信なさげにピースを取った。


「・・・いい、ですよ」


「ありがとうございます!」


 そしてレンズを絞って碧には分からない設定をいじっている間同じポーズのままでいた。

 完全に蓮とは離れたところで行われるやり取り。蓮に頼ることなく行われるコミュニケーションには確かな成長がそこにある。

 そして碧のその後ろ姿を、後方親面で腕を組み蓮は見届けていた。





 そうしてこの始終を見ていた別のサークルの人も来て軽いカメコ列が形成され、結局困り果て蓮に泣きつく羽目になったのはまた別の話である。


 ☆



 お盆休に加えコミケ最終日という打ち上げ日和の今日、某駅前に構える小さな居酒屋にも団体で訪れる御一行があった。


 しかしこの面々は他とは少し異なり、年齢層がかなり若く高校生程の未成年の姿や、中学生、あるいは小学生にも見えるような少女も一緒であった。

 最初は店側も多少の懸念もあったが、入店時に未成年者の確認など丁寧な対応もあり安心し接客していた。


 更に普段は酔っ払いや年齢層の高い客をもてなす事が多い職場でもあり、今回のようなお客はとても癒しとなり対応していたのだが・・・、




「れん〜〜〜〜なんでいつも、もうっ、もう!」


「ちょっ!?あいちゃん落ち着いてくれ!どうなってんだ!」


 碧はいつもでは見せない大胆さと厚かましさで蓮の首へ手を回し抱きついていた。


 明らかにまともではないその様相には皆興味よりも心配がまさる。

 少し呂律が回らなくなり始め、顔は火照ったように赤くなる姿はさながら酔っ払いのそれである。


「なんでね、

 ボクの為にこんなにしてくれるのって!」


「あ、あいちゃん?落ち着いて?な?」


「落ち着いてるよ!

 なのに・・・ぼくなんて、ばかで、ぐずで・・・ひっく、なにをしてもダメダメだし、うぅ・・・」


 さらに泣きつくように今までの不満を爆発させていた。しかしそれも自身への被虐であり、それもまた碧らしいといえばそうだがそれでもとてもシラフとは思えない言動にみなが心配するがそんな言葉を聞こえないのか碧は更に蓮へと駄々っ子を仕掛け続けていた。


「お、お客さま!未成年の方への飲酒は困ります!」


「ち、違います!違うよな?誰かあいちゃんにお酒飲ませてないっすよね?」


「いや、そんなはずはないけど」


「俺も酒なんてあげてねーぞ?」


 お店の人に詰められ、蓮はすかさず周りへと確認をとる。しかしみんなは揃えて首を振り、それぞれの情報を提供しあった。


「そうだよね、ずっとそこでオレンジジュース飲んでたし・・・あれ?これビールじゃない?」


 そんな中、真尋が碧のいた席のグラスを揺すって確認する。するとそこにはオレンジジュースの代わりに明らかに炭酸の入った黄色い飲み物が置いてあった。

 その発言に一同ドキリとしたが、そこは明希が手を挙げ訂正を入れた。


「ちがう、・・・それはノンアル」


「ノ、ノンアル?紛らわしいよ!でもなんでだろう、碧さん頼んでたっけ?」


「それも違う、俺のをあげた。オレンジジュースだけだと詰まらない」


「何でまた!?」


 何の気なしに語るものだから皆納得しかけたが明らかにおかしい供述に真尋はすかさずツッコミを入れた。


「子供はビールに憧れるだろうし、1口飲むか聞いたら飲んだ」


「いやよく分かんないよ!」


 真尋と明希のよく分からないやりとりで更に混沌としていくが、それでも一同はひとまずの安心はした。しかしそれと同時にならどうしてという疑問が浮かんだ。


「多分・・・雰囲気」


「はい?そんなことある?」


「ある。その子話してて思ったけど催眠とかかけられそう。

 ・・・冬コミのネタ決まった」


「あーもうなんでもいいからあいちゃん止めてくれ!」


「れんっ、こっちみろー!」


 明希はクックックと何かを企むように邪悪に笑う。

 更にツッコミの供給が足りていない現状に加え碧が暴れるものだからもはや店側も引き気味に後ろへ下がって行ってしまった。

 そして真尋も頭を抱えそれ以外のものは皆酒が入っているためそれをエンタメとして楽しみ始める始末である。


 完全に味方を失った蓮はもはやどうしようも無いかと今の碧との対話を決めた。対話というかもは介抱というか、あやすというか。


「あ、あいちゃん?大丈夫そうか?」


 恐る恐る聞くと、碧はジーっと見つめた後に鼻を啜りながら感情のままに吐露をする。


「だいじょぶじゃ、ない・・・、全然大丈夫じゃないもん!

 れんはこんなにやさしいのに、ボクは何にもできてないし、

 れんがいなかったら絶対にボクなんてしんじゃうもん、ホントだよ?れんが死んだらボクもいっしょに死ぬんだからっ」


「お、おう・・・」


「ひゅーひゅー、愛されてんねー!」


「これ一種のヤンデレ的な?いいねーそう言うの」


 周りは口笛を鳴らして囃し立てるが、蓮だけはその話を茶化すことは出来なかった。何故なら碧との出会いを知る蓮にとってはその言葉もあながち嘘だと思えないからである。


「れん、信じてない?」


「いや、信じるさ。だから頼むから死ぬとか悲しいことは言わないでくれ」


「ふみぁ」


 蓮が碧を撫でると、目をとろんとおとし小動物かのように声を出す。


「じゃあさ、もっと・・・もっと命令してよ・・・」


「は、はい?」


「じゃあ、もっと命令して!

 ボク蓮に頼まれたら何でもするもん!なのに全然言ってこないし!

 ボクはこんっなにれんのこと好きなのに、れんはボクのこと好きじゃない?」


「いや、それはだな・・・」


 蓮は告白じみたその言葉にドキリとする。

 そしてあまり契約関連の話題をして欲しくないこともありその事に関しても胸がバクバクと鼓動する。

 そんな状態でしどろもどろになりながら頭をフル回転させるが答えを出し渋る。


 2人の会話を肴にして飲んでいた面々もなんだか不穏な空気を感じ始め、コミケのことやこれからの話題に華を咲かせていたが流石に皆会話を止めて聞き入ってしまう。


「な、なんか大丈夫そう?」


「蓮マジで夏休みの間に何があったの?」


「いい趣味をしている・・・」


 なんて皆多様な反応をしている中蓮は何を答えれば正解なのかと思案し続ける。


 も、もちろん碧の好きという意味は友達としてってことだよな?いやまさか今はまともな精神状態では無いとはいえここまで感情を顕にしている碧も初めて見るし、この意味はLoveの方でそれが今まで隠していた本当の真意という説もワンチャンか!?

 いや流石に願望がすぎるか。


 蓮は首を振り考えをスッキリとさせると改めて碧と向き合った。


「えっとだな、もちろん俺もあいちゃんのこと好きだぞ?」


 そうして導き出した答えはそんな面白みもない答えであった。しかしそれだけでも聞けて満足みたいで碧はパアッと表情を明るくさせると蓮へと抱きついた。


 もはやされさえ聞ければ他はどうとでもいいかと言う様に。


「ボクもだぁいすき!」


 すりすりっ。

 押し倒し、蓮は壁に腰かれるような状態でボクは膝の上に乗り、蓮の胸に顔を埋め、顔を擦り付ける。


 一つ一つの言動で皆の視線を集めているけどそんな事今の碧には目にも入っていないし聞こえもしない。

 もはや聞こえるのは蓮の全てのみである。


「れんのおとーー」


 もう既にクタクタで、朦朧とする頭で何とか理解出来たのはそこで聞こえる鼓動の音。

 そして人の、いや、蓮の温もりだった。


「・・・すぅ」


 そして、間もなくして蓮の上からは寝息が聞こえてくる。


「え?」


「寝た・・・のか?」


 一同感情のジェットコースターに当てられて完全に惚けてしまう。しかし1人が吹き出したように笑うと皆揃って笑い始める。

 一時はどうなるかと思ったが、終わってみれば明らかなキャラ崩壊で完全に今日見ていた碧のイメージが崩れ去った。

 もちろん悪い意味はなく、これは酒が飲める歳になるのが楽しみだと言った次第である。


「はぁ・・・、肝が冷えたぞ」


 蓮は一息付き碧の顔にかかった髪をそっと払う。するとそこにはやはり可愛らしい顔がのぞかせ、愛おしくも危なかっかしさに安堵が大きかった。


 しかし安堵したからか先程の碧の告白じみた言葉がやけに思い出される。


 ドキっ


 蓮は何とも言えぬ感情が湧き出したのを危ないと考えないように務めた。幸い真尋がこちらに近ずき蓮の悶々とした気持ちを紛らわせるように話しかけた。


「蓮、碧さんは大丈夫そう?」


「分からん、けど寝てるだけだし大丈夫だろ。特に今日は疲れたし、あいちゃん寝るのいつも早いから」


「そう?それならいいけど。

 だけど兄さんはもう一生碧さんにお酒飲ませちゃダメだかね?」


「お酒ではない・・・」


「それでもだからね?何か問題あれば次回のコミケはないよ?」


「それは困る」


 その言葉は相当効いたのか、本当に困った顔をしたので蓮も明希の扱い方が分かった気がした。

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