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コミケ

 〜某SNSにて〜


『練乳まろんの売り子可愛すぎてやばw』


 1枚の写真と共に、そんな投稿がなされた。


 そしてその写真には紅羽のコスプレをし、更にその同人誌を売る少女が映っていた。

 その少女は確かに可愛らしく、それを表すかのようにその投稿にも数多くの反応が寄せられた。


『可愛すぎ!もし良ければどのような名前のレイヤーさんなのか教えて貰えませんか?』

『ご本人登場でワロタw』

『ガチロリじゃん!練乳まろん、行きます!』

『俺さっき行ったけどいなかったんだけど; ; 』

『見た見た!ここの列ヤバすぎて行けんかったヤツー』

『お品書き見に行ったらもうほとんど売り切れてて泣いた』


 その様な投稿が続くなか、1人の投稿でさらに盛り上がることとなる。


『あれ、この子ってあれじゃね?前に掲示板で見た子』


 そうして投稿されたのはいつかの碧が隠し撮りされた時の写真であった。

 その画像が投稿されると見覚えのあった者や初めて見た者達が更に盛り上がる事となり、この投稿は万バズを果たすこととなった。


 もはやこの動きは止められず、投稿主ですら『ちょw通知鳴りっぱなしで草』と言う投稿がなされるまでに至り、収集がつかないものへとなっていく。



 そしてそんなことになっているとは知らない渦中の碧達のもとへ、数多くの者が押し寄せることとなった。



 ☆



 そんなこんなでただいま接客中である碧達一行なのだが、


「すみません!写真1枚いいですか?」


 そんな何回目か分からない注文に蓮がボディーガードを務めるようにグイッと飛び出し説明を始めた。


「写真はいいですけど、内輪でやってるだけなのでネットやSNSにあげるのはダメですよ」


「あ、そうなんですね。分かりました!」


 そうしてパシャリ。


 多分一生分写真撮られた気がする。

 最初はダメだと言っていたのだが、隠し撮りなどが横行したためあえてNGの線引きを引くことでこの事態を収集しようと試みた次第である。しかし果たして守られているかは分からないが。


「あの、俺あんまコスプレとか興味なかったんですけど、一目惚れしました!何か活動とかアカウントってあったりするんですか?」


「あの、そういうのは無くて。

 あくまでボク、売り子?なので・・・」


 これもまた何回目という質問も、蓮から教わった定型文で返す。アドリブには弱いがこうして構文が決められていると人と話すのも緊張することはなくなり始めた碧。


「そうなんですね、でももしアカウントとか出来たら一生推します!」


「あ、ありがとうございます」


 なんて自分でもアイドルか何かかと苦笑いしながら手を振ってお見送りをした。

 そして「ふぅ」と一息つく。

 そして気晴らしに周りの風景を見るが、どこを見ても人だし遥か先まで続くこのサークルの列が見えて気晴らしにはならなかった。


 お昼頃までは最後尾という看板が近くに見えていたというのに、何故か自分が手伝う時に限って人が多くなるのだからハードモードである。


「あいちゃん、平気か?」


「うん、思ったよりは、でも不思議。

 今こうしていると自分じゃない誰かになってる気持ちになって、あまり怖くない、かも?」


「あー、コスプレあるあるだな。

 内気な人もコスしてる時は別人の様に性格変わる人もいるみたいだぞ」


「へぇ、そうなんだ」


 流石に今日見たコスプレイヤーの人達みたいにポーズを決めたりするのは抵抗があるが、それでもその気持ちも分からないことはなかった。


 と言っても今の碧はコスプレと言うコスプレをしていないのだが、人々に自分とは違う人物と認識されているだけでこうも気持ちがかわるなんて不思議なものである。


 そう思えるのは自分だけではないのだと知ると、途端に気持ちが楽になる碧。それどころか心の気持ちが言語化されスッキリとした分更に積極的にもなれる気がした。


「新刊セットください!あと既刊もあるやつ全て貰ってもいいですか?」


「あ、はい!」


 そんなことを考えていると、次々と人がやってくる。そう言われると真尋がササッと言われたものをまとめて碧に渡す。

 そしてそれをお客さんへと手渡した。


 因みに全セットで5000円である。

 正直べらぼうに高い金額に対して最初は手が震えたが慣れてしまったのが悲しい。

 それに最初は抱き枕カバーなるものを売っていたのだが、布1枚に10000円を超える金額で泡を吹いた。しかも速攻売り切れるし。


 バイトもした事ない碧にとってそんな金額はそうそう手に出来ないため、こうしてやり取りしている間にもおかしいと思うのだがそんな疑問は碧だけみたいでそんなの関係なしに売れている。


 そうして今目の前にいるお客さんに対して碧は商品を手渡し、そして貰ったお金を真尋に渡した。

 因みに商品とお金を何故碧を経由するかと言うと、それは圧倒的にお客様からの要望があったから仕方が無かったりする。

 最初こそ碧は接客はしておらず隣で新刊セットを持て椅子に座り、客寄せパンダとしていたのだが買ったあとに碧と一言でもお話をしたい人達は購入後も粘りそこに居座ることとなったのだ。


 流石にそれでは回転率も落ち、最後尾が見えない遥か彼方へと遠ざかってしまったことに対処すべく、購入と事務的とはいえ会話する機会を一石二鳥にする案が通った事による形である。

 最初こそ碧も緊張したし、それ以上に蓮が猛反対したのだが先程も説明したような変化が碧の中でもあり、こうして順調に丸く治まっていた。


 しかし中にはいわゆる厄介客もおり、たまに蓮により強制連行されていくのを引き気味に手を振って見送るのも見慣れた光景となりつつあった。


 そうして幾人かの対応をしていた時である。


「あのー、この前どこかでもコスしてました?街中で」


「はえ?」


 購入したものを手渡している最中にそんな事を言われてしまった。


「いや、ほらこれ」


 そんなことを言い出しお客さんが見せたのはかなり前の、この姿になって初めて買い物に出かけた日の写真であった。

 今では考えられないが、蓮から逃げ出した時に街中へ迷い込んでしまった時の写真であった。

 大都会の中を現実離れしたような姿の碧が、不安そうにしている姿はまるで異世界から迷い込んでしまった住人の様であり、実はあの時プチバズりしたものでもあったりする。


「これ!最初見た時に可愛すぎてずっとファンだったんですよね!

 あれから探しても全く情報ないし、なんならAIとかで作られた偽物なのかなって思ってたけどこうして会えて感動しちゃって。何なら写真よりも可愛すぎてビビりました!

 いつもこのサークルでコスしてるんですか?次も来ますか?絶対冬コミも行きますよ!」


「そ、それはえっと・・・、れ、れん!」


「はーい、そこまでね」


「あ、あぁすみません、興奮して。

 でもマジで今日出会えてビックリしました!お願いです、写真1枚だけでいいので!」


「そ、それなら」


 そうしてパシャリ。

 その人はそれはもう満面の笑みで手を振って去っていった。最後までなにか叫んでたけど最早早口なのと興奮して何言ってるか分からなかった。

 害意のある人ではないが勢いが凄かった・・・。


「あの時の写真結構見てる人いるもんだな、ネットこえー」


「うん、というか写真撮らてたんだね、あの時」


「まぁ最近は何かと動画とか回す人いるからなー、多分今日も言ってはいるけど何人かはSNSあげる人も出てきちゃうかもな・・・。

 本当に良かったのかあいちゃん?」


「えっと、まぁ・・・。上げて欲しい訳じゃないど、でも真尋さん達の助けになるならそれでもいっかなって、それにーーううん、何でもない」


 それに案外楽しいかも、なんて。

 もちろんチヤホヤされてと言う訳では無く、こうして皆に頼られる事に喜びを感じているのであった。昨今ではあまりいい表現をされないがやり甲斐というものを実感していた。


「そうか、あいちゃん立派になっちまって」


 蓮は碧の頭をグリグリと茶化すように強く撫でる。普通の女の子であればそれに対して嫌な気持ちにもなるかもしれないが生憎碧には効かないどころかむしろ嬉しそうに享受する。


「あと、明希さんからこんないい服も貰ったから。その分働かないと」


 そうして碧が見せたのは紅羽がデカデカとプリントされた痛シャツであった。

 それも夏服の白セーラー服姿に雨に滴り肌が透けたちょっとセンシティブ目なイラストである。

 知ってか知らずかその肌の透け感がキャラそっくりの碧が着ると碧の肌も透けて見えるような錯覚を起こし、少し良くない気持ちにさせる逸品であった。

 しかしこれを指摘するとそう考えてますと言っているようなものであり、お客からも相手の年齢が不明な為・・・、と言いつつ未成年なのは分かってはいても暗黙のルールとして誰も指摘しないしセクハラじみた発言はしないという連携が生まれていたのである。


 因みにこのTシャツは爆売れどころか一瞬で在庫が消え去ったと言う。

 それと作りすぎたと心配された新刊も売れに売れ、残り僅かとなり今や残りの分で列を打ち切りしている状態となっている。


 ここまで来ればやり切った様なものなので接客も歓談がてらと落ち着いた雰囲気で対応していた。


 そんな中である。最近は増えてきたとはいえ完全に男性向けの場所では見ることが少ない女性方の番がやってきた。

 それもブレザーをかなり気崩したギャルみのあるお姉様方であった。

 もちろんそれはコスプレである。


「えー、それどこのウィッグ使ってるんですか?」


 机越しに身を乗り出し零れそうな胸がチラチラと見えるのを視線を逸らす碧。今の体が女の子であっても男であった感覚は常に持っているので興味のある無しに関わらず直視できないでいた。


「こ、これはその・・・ウィッグじゃなくて本物の髪で、」


「やばー!染めてんの?めっちゃ綺麗じゃん!

 しかも全然傷んでないしすごー」


「そ、そうかな・・・」


 なんて完全にギャルに絡まれた根暗くんの如くぎこちなく笑った。

 碧はここに来て意外な事実に気づいた。オタクの相手より、女性の・・・それもギャルに弱いことである。

 それは昔学校に通ってた時から苦手意識を持ってはいたが、それでもこうして対面すると蛇に睨まれた蛙のようであった。


「ウチらなんていっつもウィッグなんだけどさー、そこまでのナチュラルさなんて全然出ないよ。

 ほら髪型作るために分け目変だしガチガチー」


「へ、へぇ」


「今度一緒にコスしようよーよ、ね?これうちらの垢だから良かったら見に来て。

 あ、Xあるー?ない?じゃあLINE交換しよーよ」


「えと、えっとーー」


「ん、あざー。今度ウチらも永遠の輝石で合わせやるからやろやろー、そんじゃバイバーイ!」


「ば、ばいばい・・・」


 そんなお姉様方はニッコニコで去ったいった。完全に最初から最後までペースをのまれ、放心状態のまま魂が抜けたように口を開けたまま燃え尽きる。

 一瞬だったのに濃すぎる。覚えた定型文も使えないし。それに蓮も相手が女性だと無理やりいき剥がすことも出来ずに手をこまねいてしまっていた。


「す、すまんあいちゃん」


「・・・うん」


 まぁ相手は優しそうだったし。

 碧はもう少し呆けていたかったが時間はそんなに待ってはくれない。

 もう既に新しいお客さんが目の前に来て品書きから指をさして注文を始める。


「すみませーん、既刊のこれとこれください」


「あ、はいっ」


 こうして、碧の売り子は続くのであった。


 ☆


 そうして結局最後の一人が終わり、全てを売り上げた碧達は拍手と共に本日の実質的な終了を告げた。

 そして碧たちは軽い片付けを始めたのだが、サークルのメンバーは皆碧達にお礼を言いに集まり始めた。


「碧さんおつかれ、お陰で今回は全部売れてすごい反響だったよ」


「うん、悪くなかった。俺が描いたイラストの服を着られると感無量」


「お疲れ様ー、すごい良かったぞ!」


「まぁ人気すぎて死ぬほど忙しかったけど贅沢な悩みか」


 真尋や明希だけではなく、それ以外のスタッフさんにも労を労われる。聞けば皆は明希の大学生仲間の様であり、絵を描く訳では無いが多少のお駄賃で手伝ってもらっているらしい。

 あまり人気のない頃からの付き合いなようでかなり仲の良さを感じる。


「しかも碧さんの素顔はそんな感じだったんだね。

 もちろん会った時もすごく可愛い子だとは思ってたけど、正直ビビった・・・」


「うん・・・なんつーか、アイドルとか有名人って実際に会うとオーラあるとか言うけどこういう感覚なのかなってなるは」


「な!未だにこれ何かのドッキリとか疑ってるもん、モリタリングする系てきな?」


 そうしてみんな分かりやすくキョロキョロと辺りを見渡しカメラを探す。

 しかしそんなものある訳でもなく、碧は何言ってるんだと大袈裟で笑う。


 しかし蓮の方は全くそんなこと思っていないみたいで、鼻高々に胸を張って威張る。


「だろー、うちのあいちゃんは世界一なんだぞ」


「ちょっと、れんってば・・・」


 いちばん身近な人に言われると何ともこそばゆい。碧は蓮の脇をツンと続きツッコミを入れる。

 それに合わせるように真尋も蓮へチャチャを入れる。


「ほんとね、蓮ってばいつこんな子を引っ掛けてきたの?前からの知り合いでは無いよね?」


「ん?んー、まぁそうだな。

 まぁそこは俺とあいちゃんだけの秘密よ」


 蓮は自慢げにそういうが、真尋はその言葉に悩むように顎に手を当てた。


「まさか・・・、いやっ、やっぱりいい!

 あんまり深入りすると俺まで共犯にされたらかわない。でも下手して捕まらないようにね?」


「いやいやいや、お前は俺をなんだと思ってんだ・・・」


 まるで犯罪者予備軍かのような扱いに流石に不満気な蓮。しかし冗談と分かっているのか真尋を小突く様にやり返し、皆はそれを見て笑った。

 碧はそんなやり取りだけで仲がいいのだと感じられ、少しだけ妬けるのであった。

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