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新たな出会い

「ひゃぁああーーっ!?!!」


 碧は目覚め早々、悲鳴をあげた。


 何故なら目覚めてすぐに目に入るのは人、人、人。人の波であった。


 あまりの情報量にまるで水でもぶっかけられたかのように目が覚めた。

 碧はこの場から逃げ出そうと立ち上がったが、どうやら今まで鉄パイプの椅子に座っていたみたいで、更に後ろへ下がろうとするものだから案の定気付かぬまま足に絡む。


「きゃっ」


 ガシャンと言う音と共にかん高い声がやけに響く。


 いたいっ!


 碧は地面に転ろがりながら、足に絡むパイプ椅子に目をやった。具合の悪いことに絡んだ後に折りたたまってしまったのか、少し複雑になっている。


 と、取らなきゃ。


 碧がパイプ椅子に手をかけようとした。その時だ。


「あれ、大きな音がしたけど大丈夫?」


 ダンボールの向こうから、男の人の声が聞こえてきた。碧を心配する声だ。しかし直ぐに蓮のものでは無いことは分かった。


 そしてその声の主が向こうからとうとう顔をのぞかせた。

 その男は年若くメガネをかけた青年であった。一見蓮と同じぐらいの年齢に見える。


「ーーーーっ、」


 しかし、やはり蓮では無い事に碧は絶望した。

 誰だろう。それにこの訳の分からない状況と足に自由が無い事に恐怖する。


「寝てる時に落ちちゃったのかな?

 えーと、碧さん?でいいんだよね、大丈夫?」


 その男がジリジリと距離を詰める。

 その事で碧はパニックに陥り、内心はただ恐れ会話どころでは無い。


 碧は本能的に逃げようとしたが、相当変なハマり方をしたのか足の関節が思うようには動かなかった。寧ろ力を入れる度に鈍痛が走る。

 最早逃げることは諦め、震えながら怯える目でその男を見上げていた。


「め、めちゃくちゃ怯えられてるし・・・。

 ほんと蓮のやつ全然大丈夫じゃないじゃん。俺コミュ力雑魚なんだけど」


 男は怖がらせている事を察すると、その場で動きを止めて複雑な表情を見せた。そして顎に手を当てブツブツとここにいない人物へと悪態をつける。


 しかしその言葉の中に、目ざとく碧はひとつの単語に反応した。それまで男の言葉なんて耳に入ってこなかったのだが、その言葉が耳に入ると震えがピタリと止んだ。


「・・・れん?」


「え?」


 声のかけ方で悩んでいた男は、碧側から会話が投げられたことに驚いてからこのチャンスを生かすべく大きく反応して返す。


「蓮?そうっ、俺、蓮のクラスメイトの友達!」


「ともだち?」


「そそそ!蓮の友達の真尋。佐藤 真尋。

 碧さんがここに来た時に自己紹介したけど、覚えてる?」


 自身のことを指さし、真尋と言った男はここぞとばかりに碧へと寄る。蓮という言葉がでて、明らかに警戒心が薄れたのを感じたのだ。


 碧も世界で一番安心出来る人の名前を出され、完全に緊張が解れたことで真尋の言っている言葉を考えた。


「・・・ごめんなさい。覚えてない、です」


 碧は申し訳なさそうに言い、更に真尋の他にも分からないことが多いので聞いてみる。


「あ、あと。その・・・、ここって、どこですか?れんは何処ですか?」


 碧は懇願するように真尋へと尋ねる。それだけ蓮に会いたいのだ。しかし真尋は少し考える素振りをした後、「その前にちょっと待ってね」と未だに碧の足に絡みついたままだったパイプ椅子を取ることを優先した。先程から見えずとも膝上までめくれ上がったスカートが目に毒であったのだ。


 それに一時的にサークルの角にダンボールやパーテーションを立てプライベート空間を作っているが、完全に隠せてる訳ではないので先程からお客さんにチラチラと見られてて居心地が悪かったのだ。


 サークル参加している関係上、先程からお客さんが購入する度にあの眠り姫は?と話題だっただけに、あまり注目を浴びると言い訳に困るのだ、それにコミュニケーション好きなタイプでもないしと真尋の考えもあったりする。


 そんなこんなで碧の足を椅子から解放し、椅子に座り直させやっと本題へと戻った。


「そうだね。まず場所何だけどここは『練乳まろん』っていうサークルの中だよ。

 あと蓮は何処だろうね、島の方にいたのは見たからそんな時間かからず帰っては来ると思うけど」


「?」


 れ、練乳まろん?島?何だろうかそれ。

 聞き慣れない言葉だけど、真顔で言うものだから一般用語か何かなのだろうか?

 しかし場所以上に蓮の所在が分からない事に落ち込む。


 結局場所も蓮の所在も何も分かるものがない。

 真尋も妙な反応に求められた答えが出来ていないのだと知り、さらに詳しく話すことにした。


「碧さんは蓮と一緒にここに来た時の事は覚えてる?」


 碧は首を横に振った。


「そうかー、んーどうしよう」


 真尋は芳しくない反応に悩み始めた。なんて言おうか、碧がどこから分からないのかが不明なため何を説明していいのか分からない。

 そして腕を組んで考えた後、一定以上から思考を放棄し蓮へと丸投げしてしまおうと考えた。


「うん、蓮を呼んだ方が早いから呼んでみるね」


 真尋はそう言うとスマホを取り出し、連絡先から蓮へと電話をかける。すると数秒足らずでスピーカーの向こうから電話に出る音がした。


『どうした真尋!

 あいちゃんになにかあったのか?』


 そんな興奮気味な声が鳴り響き、喧騒にまみれたこの場所でも微かに碧の耳にも届けられた。

 それを聞いただけで碧は心臓が高鳴るのを感じた。


 れん・・・。


 電話を代わって話したい気持ちに駆られるがグッと我慢し成り行きを眺める事にする。


「蓮?今どんな感じ?帰ってこれそう?」


『今か?今は壁を回り終わったから島を巡ってる所だ。それよりもあいちゃんは大丈夫か?』


「あぁーそう。碧さんなんだけど、起きたみたい何だけど状況がよく分かってないみたいだから来てくれると助かるんだけど」


『すぐに行く!』


 ブツッ


 真尋は返事を返す暇もなく切られた電話に、呆けてしまう。そして通話の切られたことを表す画面が表示しているのを確認し、碧と顔を見合せ手肩を竦めた。


「・・・まぁ、こんな感じだから多分すぐ来ると思うよ」


「は、はい・・・」


 碧はなんて返していいか分からず相槌で答えた。


「・・・」


「・・・」


「・・・えーと、とりあえず冷たいお茶あるから。蓮が来るまで休んでてね」


「あ、はい。ありがとう、ございます・・・」


 これといって話すことも無く気まずい空気を察してか、真尋は思い出したかのように話を切り出すと、ボクにお茶を預ける。そして「ちょっと忙しいからまたね」と、軽く手を振りながらパーテーションの裏へと消えていった。先程見た人の行列の対処に行ったのだろう。


 そんな後ろ姿に軽くペコリとし数秒。長い息を吐いた後体からを抜き、お茶に唇を湿らせるのであった。


 そこで一息付いていると、パーテーションの隙間から目覚め(ざま)に見えた人の行列をどこか他人事のように眺めていた。


 時に目が合い、少し目を逸らしながらもう少し隠れられる場所に行きたいなと周りを見渡すがかなり狭い場所でこれでもいっぱいいっぱいだと諦める。

 寧ろ、定期的にこの置き場所から新しいダンボールを持ち出すために現れるスタッフさん?みたいな人が来る度にただ休んでるだけのボクとかち合い気まずくなる。

 スタッフさんは野暮ったい髪の毛をしていて、目元まで隠れている。何を考えているのか分からなくて少し不気味である。


 そう言う居心地の悪さもあり、気まぐれでダンボールの中を覗いてみると、そこにはかわいい女の子の描かれた本がぎっしり詰まっていた。


 え、この本どれだけあるの・・・?


 周りを見るだけでダンボールが10以上あるからその多さに驚嘆する。

 興味深そうにダンボールを覗いているものだから、たまに来るスタッフさんが困ったようにキョロキョロとした後、「ん」と無愛想ながらに本を1冊渡してくれた。


「あ、ありがとうございます・・・?」


 そう言い受け取ると、暇なので早速中を覗くことにした。

 するとそこにはフルカラーで描かれていた女の子がいっぱい描かれていたのだ。

 しかもその中の女の子は生き生きとしており背景まで拘って描かれているものだから感銘を受け見入ってしまう。


 そんな様子に気に入ったのか、そのスタッフさんはうんうんと満足気に頷いた。

 その様子を見て、ただのスタッフさんではないなと思い作者なのかもと言う疑問が湧いた。


「すごい、です、

 これ、あなたが描いてるんですか?」


 ボクがそう尋ねると、スタッフさんは頬を指で掻きながら言う。


「・・・半分?共同作だから。でも、こっちは、全部そう」


 半分?

 そう言いその人が別のダンボールから新しい本を取り出した。するとそこにはボクが描かれた表紙の本である。


『メイドの紅羽とイケナイ主従関係 』


 一瞬ドキッとしたが、そのタイトルを見てそう言えば蓮がボクに似たキャラがいるとか何とか。その名前が『紅羽』だったことに思い至ると合点がいった。


「それ・・・、最新作」


 へぇ、と1冊目が当たったため2冊目もワクワクする。

 この本も表紙の女の子がすごく可愛いし・・・って自分で言うのは少し解せないけど期待はできる。


 どんな内容なのかなーと本を開けようとすると


「兄さん、こっちタペストリーも完売だよー。新刊の在庫あとどれ位ありそーーーうぉっ、何やってんの!?」


「わっ!」


 その瞬間、真尋が現れ声を荒らげるものだから碧は椅子の上で飛び上がる。

 そして碧から持っていた本を取り上げると、兄さんと呼ばれた男を叱りつける。


「これはダメでしょ!?何考えてんの!」


「いや・・・、なんか興味ありそうだったし」


 え?と真尋がこちらを見るものだから、碧はなんの事だと首を傾げる。


「いやいやいや、まじで何も分かってないじゃん!明らか年端もいかない子に見せちゃいかんでしょ」


 呆れたようにその男を叱りそれに対しシュンと丸くなる。

 なんか年端もいかない子と呼ばれた様な気もするが、相手が蓮ならいざ知らず今出会ったばかりの人に何か言う気にもならず何が何だか分からず眺めていた。


「兄さんの描くやつみんなR指定なんだから、そこら辺気をつけてくださいよ、まったく」


「はぁ、・・・でもそんなの守ってる奴いない」


「それはそうとなんも分からん子に見せるのは話が違うでしょ!それただのセクハラ!」


「真尋のイラストばっか褒められててずるいし」


「知らないよそんなの」


 未だに続く口論に碧はもはやはその内容すら聞かずに空を見あげた。


 あー、お空綺麗だなぁ


 なんて、完全に現実逃避をしているととうとう碧のお待ちかねの人物が現れた。


「おいおい・・・、急いできたのに何やってんだ?」


 その人物は手一杯にトートバッグやら何やらを持ちきれないほど抱え、少し荒くなった息を整えながら現れた。

 多分急いできたのであろう。しかしこの現場を見て呆れながらに言う。


「っ、れん!」


 碧はその人物・・・、蓮を視認するやいなやトテトテと駆け寄るように蓮の元へ行く。


「おお、あいちゃん!元気そうだなー良かった!休憩してもダメなら帰ろうなんて思ってたけど大丈夫そうだな、心配で気が気じゃなかったぞ」


 と言う割には蓮の手には購入したものが所狭しと抱えていることに少し半眼で目をやりながらも、再会できたことは嬉しいことには嬉しいので蓮の荷物を代わりに持ち蓮の手を引きながらサークルの中にもどる。


「蓮じゃないか、どう?欲しいものは手に入ったかい?」


「おおう、バッチリよ。

 ほい、これ真尋とアキさんに頼まれてた分」


「おお、あざす!」


「・・・かたじけない」


 そう言ってアキと呼ばれた真尋の兄はちょうど手元にあった本を蓮に差し出した。あの『メイドの紅羽と主従関係』という本である。


「お礼という訳では無いが、まだおすそ分けできていなかったはず。これを」


「っ!?・・・いいんすか?」


「いい。好きな物は共有」


 蓮はそれを差し出されると慌てたように碧の顔と何回も往復させて見る。

 しかしそこには依然となんのことか分からないといった様相の碧を見て、少し安心したようにコソコソとお礼を言い受け取った。


 それを碧はいーなーと眺めながら、だからと言って自分もねだるほど厚かましさもないので何も言わずに羨んだ。


 後で見せてもらおっと


 碧はそんな事を考え後の火種となる危なかしいことを考えながら蓮に尋ねる。


「れん買い物行ってたの?

 ボク寝ちゃてたみたいだけど、ごめんなさい」


「ああ、いや別に気にしないでくれ。むしろ引率する立場なのに完全に迂闊だった」


 蓮はいそいそと本を鞄の中にしまい、碧と同じ高さまでしゃがむと顔色を見ながら安心して言う。


 そして、ついでにと碧が混乱していたことを聞きこれまでの話を聞かされることとなる。


 どうやら目的地は元々ここであり、そこで着いたと同時にふらつき軽い熱中症の症状を見せた碧に、救護室に向かうかと提案するとここで休むと言い出したとのこと。

 その時に何を思ったのかは分からないが、多分蓮の買い物の邪魔をしたくなかったのだと思う。


 そして完全に休むと同時に眠り姫となってしまったのだとか。


 でも幸いなことに少し仮眠を取るとスッキリしていることから、その選択は間違いではなく全てが終わればめでたしと言うものである。


 そして場の整理が終わり落ち着きを取り戻したところで、改めて碧たちの自己紹介へとなった。本当は碧以外は2度目であるしする必要も無いが肝心の碧が忘れているのだから仕方がない。


「こほん、それじゃあもう1回名乗らてもらおうかな。俺は佐藤 真尋、蓮のクラスメイトで同じオタク仲間ね」


 そう言って名乗った真尋は「そらからー」ともうひとりの方に視線を送る。しかし一向に喋らないのでまたも真尋が紹介を始めた。


「えー、この変な人が俺の兄さんで佐藤 明希。ペンネームはそのまんまアキなんだけど、俺と絵を描くからこうしてコミケにも出てるんだ」


 その紹介に明希はぺこりと一例するのみである。しかしそこそこ歳が離れているようで、聞けば既に21となり真尋とは5つも離れているとの事。なんだか個性がある2人だけど、それでも噛み合っているみたいで見ていて面白い。

 碧はフムフムと観察してから自身の自己紹介を行う。


「ボクは、小日向 碧っていいます。

 れんの・・・友達です」


 友達という言葉でチラチラと蓮を見ながら言い切る。未だにその言葉に緊張してしまうが、蓮はそんなことなど当たり前だと言ったふうに話を続けた。


「あいちゃん、2人ともすんげぇ絵が上手いんだぜ、それにネットでもめちゃくちゃ人気でこうしてコミケに出れば壁になるぐらいなんだぞ」


「へ、へぇ…。あ、確かに本見せてもらった!凄かった」


「え!?」


 蓮は度肝を抜かれたようにリアクションを決め、蓮はギギギッとぎこちない動きで碧を見る。

 すると碧はピョンピョンとかるく跳ねるようにテンションを上げながら言った。


「絵すっごく上手でびっくりした!

 背景も凄いし、女の子も可愛かった!」


「み、見たのか?」


 蓮は先程受け取った本が入ったバックをさすりながら真尋に視線を向けた。

 それに対して真尋は首をブンブン振り訂正を入れる。


「違う違う!兄さんとのイラスト集の方ね!

 兄さんの薄い方じゃないから!」


「そう、見せようと思ったら止められた」


「な、なるほど…」


「?」


 蓮は胸を撫で下ろし、人心地と息を吐いた。

 その反応に碧も流石にもう1冊の方が気になり始め始める。そういば先程も取り上げられて結局見れずじまいだったのだ、表紙の絵はあんなに可愛かったのに、内容もさぞいいに決まっている。


「れん、そう言えばさっき貰ってた本、良かったら見せて!」


「っ!?だ、ダメダメダメ!それよりもほら、今日の戦利品なんだかこんな可愛いのもあったぞ?」


 そう言って取り出したのは缶バッチである。

 その絵柄はまたも紅羽というキャラであり、蓮がどれだけそのキャラが好きなのかが分かる。しかしそれとこれとは話は別である。


「えー、ボク本の方がいいな。

 もちろんれんが読み終わってからでもいいけど…あっ、お金出した方がいい?」


「いやそういう問題じゃなくてな?

 えーと、あー真尋!」


「ちょっ、なんで俺!?」


 蓮は埒が明かずに真尋の方に話を振った。

 真尋もその理不尽さに噛み付いた。そうして二人がかりで碧へ説得が行われ、碧はその後も不承不承と言った感じではあるが引き下げさせることに成功したのであった。


 因みにその間も明希は何処吹く風と明後日の方向を眺めていたりしたのはまた別の話である。

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