お土産
楓との買い物を終えてから次の日。
碧はひと仕事終えた充実感でその日はとても良い目覚めを迎えていた。
「んぅぅ〜〜っ」
伸びをして、乱れた布団を直したらご飯を食べる。
うん、いつもより美味しい。
食べ終われば食器を洗い、顔を洗い。そして窓を開けた。
雀が鳴いてる、ふと気が付けばベランダの手すりに雀が身を寄せあっていた。
可愛い。カーテンを開けたのに逃げることもなく、お話しているようである。碧はそんな雀達に微笑みかけると時計を見た。
時刻は朝の8時。
少し早いかな?送れる時に送ればいいか、と碧はスマホを手に取った。
何を送るのか?それは蓮へのメールである。
最後に蓮と会ってから3日が過ぎ、そろそろ会いたくなった碧は今日は会えないだろうかと言うメールを送る。勿論契約によるお使いも兼ねてである。
だけどそれはオマケであり、本命は昨日買った衣装を着て見てもらうためである。
碧は名前も知らぬが一時は地雷系ファッションまで着こなした碧であったが、実際に購入したのはかなり大人しいものであり、例をあげれば装飾の少ない白いワンピースなどがある。
そんな衣装でも碧が着ればモデル顔負けな着こなしであり、碧自身も気に入っているためどんな反応をするのか楽しみなのであった。
そうして送り終わればまだかなとソワソワしながら返事を待った。
そして昨日買った服や下着を広げては衣装を合わせ、ニマニマしながらまた広げたり畳んだり何を着ようかと悩んでいた。
そんなことをしていると時間が経つのは早いもので、送ってから1時間程でメールの返信が届いた。
「きた!」
碧はすかさずスマホを見る。するとそこには蓮からのメッセージがそこにはあった。
やったやった、と碧は今まで行っていたことを全て投げいってそのスマホに夢中となった。
そしてメッセージの内容を目で通していく。
「・・・へ?」
だがしかし、最初の1文を見た瞬間に碧の胸は大きく跳ねた。なぜなら「すまん!」という謝罪の分から始まっていたからだ。
『すまん!
俺実は昨日から旅行行ってんだ!たぶん次帰るの2日後だと思うからそれまで会えないと思う
ご飯足りそうか?
足りなきゃ楓にでも頼むから、なんでも言ってくれ!それとお土産は任せろ!』
そしてその文章と共に数枚の写真が添付されていた。そこには飛行機とヤシの木の道、それと綺麗な海の写真である。
うん、めっちゃ沖縄。
あれ、でもおかしいな。綺麗な海のはずなのに、色がモノクロでしか見えない。
碧は外を見ると、先程まで綺麗に映っていた風景も色が消え失せていた。もちろん物理的にではなく、心象風景の碧の瞳を通して見えたものではある。
終わった・・・。
碧は昨日までの達成感が手のひらを返すように疲労感へと変わる。
もはや蓮のメッセージに返事をする余裕もなく、スマホの画面が自動ロックになるまで放心し続けるのであった。
☆ 〜蓮 side〜
蓮は今家族と家族旅行の真っ只中であった。
殆どを移動に費やした一日目が過ぎ、2日目にして本格的な旅行が始まった。今日はマリンスポーツや海水浴の予定である。
そして予定どおりシュノーケリングやカヤックをした後、手頃な海水浴場でリゾート気分を満喫していた。だがそんな最中でも蓮はビーチにてスマホ片手にパラソルの下にいた。
「・・・」
見るのは昨日から全くと言っていいほど変わらないトーク画面である。
ほぼ最後のメッセージから丸1日。しかしそこに碧からの返信はなく、最後に埋め合わせと代わりに会える日時を伝えたメッセージにも反応所か既読すら付かない有様であった。
「はぁ」
蓮は頭を抱え、本格的に良くない事になっていると予感していた。
これは嫌われたと言うより、碧の性格からして塞ぎ込んでいたり、あまり良くないことを考えているのかもしれない。
やっぱり旅行に行く前に言っとけばよかったか?しかし碧から会おうとしてくれるかも分からないのに、自分から会えないとか言うのってどこか自意識過剰で恥ずかしいかなとか思ってしまったのだ。
心配だ。
しかし出来る手はもう打ち終わっているのだ。楓にも相談してみた。しかし楓は「あんたも相当溺愛してるわね」と言い、たまには距離を開けるのもいんじゃないという方針だった。
碧が蓮に依存するように、蓮もどこか碧に傾倒している事を自覚した。
「まぁそうだよな。
あと1日。明日で帰る事だし、その時に会える喜びもひとしおだと思うか」
蓮はスマホをバックにしまい込むとビーチパラソルの下から出た。そして関東圏では見られない綺麗な海へ駆け、遊びを再開するのであった。
そして時は進み旅行最終日が訪れた。
最終日は主に首里城等文化的な観光地を巡った後、国際通りで買い物を行った。
そこでは家族自由行動となり、出店をブラブラ物見する。それと同時に友達に向けてお土産も決める。
主に親しい者のみにだが、勿論そこには碧へのものも買う予定である。
1つは定番のお菓子。そしてもう1つがなかなか決まらない。果たして何がいいか。
試しに可愛らしいネックレスを手に取ってみた。それは2匹のイルカがハートを作っているものだった。可愛いけど・・・うーん、これはちょっとーー
「ーーちょとキザ過ぎない?」
「っっ!?」
蓮は声にならない悲鳴を抑えながら声の方向を見た。するとそこには垢抜けた大人の雰囲気を醸し出す女性がいた。
楓も大人っぽいがそれでもメイクの仕方や所々のポイントで高校生とは違う雰囲気がそこにはあった。
普通ならこのような女性に話しかけられればドキリともするが蓮は心に波風1つたてずに呆れたように答えた。
「わ、分かってるよ。
そっちはそっちでお土産でも買ってろよ、姉貴」
蓮がそう言うように、彼女は今年で大学生となる蓮の姉、五十嵐 琴音という。
そんな姉に余りにも包み隠さない感想にこっ恥ずかしくなる。しかもその感想は俺も思っていた事だけに。
ここで俺もそう思っていたと弁明しても後出しだし、何も言わなくてもセンスを疑われたままになる。
蓮は八つ当たり気味にそう答えると、そのネックレスを元の場所に戻す。
「別に不貞腐れなくてもいいじゃない。
それにキザな物でも渡し方だし、彼女ちゃんが好きなら別にいーんじゃない?」
「彼女じゃねーし。
で、でもそういう系ってなんだよ・・・」
「んー、ロマンチストな感じ?」
なんだよそれ・・・。
いまいち要領を得ない答えに蓮は少し文句を言いたくなるが、言わない。面倒くさくなりそうだし。
だがそう思えばあいちゃんはどういう系統になるのだろうか。可愛い系なのは間違いないのだが、どこかそれとは違って見える。
先程から選びあぐねていた事もあって、蓮は完全に分からなくなってしまった。
そこで蓮は若干尺だが、行き詰まっているのも事実なので琴音に聞いてみるこもにした。失敗するよりはマシである。
「なぁ、姉貴。ちょっといいか?」
「ん?どしたのよ」
「ちょっと相談があるんだ。
とある子にお土産を買おうと思ってるんだけどどういうのが似合うか教えてくれ」
「ほほー。それは面白い」
姉貴は顎下に親指と人差し指を当てながら目をキラリと煌めかせた。その反応に若干の心配はあるがコホンッと咳払いをしてから説明を始める。
「その子は可愛い系ではあるんだけど、だからと言ってそれだけじゃないんだ。それとプラスして少し浮世離れした感じの子なんだけど、その場合はどんな贈り物が合うと思う?」
「えーなにそれムズい。
浮世離れってどんな感じ?ちょっと変わってたりとか?それともミステリアスな感じ?」
「えーと、そうだな。
あんまり今まであったこと無いような女の子なんだよ。全然ミステリアスとかじゃなくて、むしろ凄く人間味があるんだけど、だけど掴みどころがない感じ?違うか?
うわ、めっちゃムズいわ。やっぱ無しでいいか」
碧の事を言葉で表そうとするが、いまいちピンと来るものが見つからない。頭がこんがらがって来たところで、蓮は考えることをやめて断念した。
「なるほどなるほど。つまり私の弟はそういう変わったところにハートを射止められちゃったのね」
「ぶふっ!
は、はぁ!?何言ってんのっ、そういう話じゃなかっただろ!」
「まーまーそう慌てなさんな。
でもそれだとアドバイスするのは難しそうだね。でも、具体的には出来ないってだけで抽象的にならしようかな」
琴音は蓮が慌ててるのをケラケラ笑いながら、蓮の背中を叩いて誤魔化した。少しイラつきもしたが、その後に続く言葉で有難い言葉が貰えると思って怒りを飲み込んだ。
しかしタップリと半眼で睨み抗議の意を表す。
「私から言えることはね、やっぱり自分のことを思って送ってくれるなら何でもいいかなー」
「えぇ・・・、なんだよそれ。それじゃあ振り出しに戻ってるぞ」
「でもさー、私はどこまでいっても相手の顔も知らないわけだしさ。勿論、蓮がその子を家に呼んで紹介してくれるなら考えようもあるけどね」
「だからそんなんじゃないって。それにするにしても友達として家に呼ぶから、迷惑かけないでくれよ」
「ふふ、待ってるわね」
すごく信用ならない。もし碧が家に来るようなことがあれば、絶対に姉のいない日にしようと誓った。
と、そう言えばそんな事考えている場合ではなかった。
蓮は琴音の言葉を聞いて納得する部分もあった。だがそれは分かっていても、行き詰まっているのだからいいアドバイスが欲しかったのだ。
そんな蓮の消化不良気味の顔を見て察したのか、琴音は少し熟考して更に続けた。
「でも、それだけだとやっぱ味気ないよね。
だからもう1つアドバイスするならだけど、1度彼女ちゃんの気持ちになって考えて見た方がいいかもね。
彼女ちゃんが蓮のお土産に何を期待しているのか。例えば花より団子な子に花をあげても仕方がないでしょ?蓮がセンスのいいお土産にこだわるのもいいけど、それならお菓子をいっぱい買ってあげた方がいいとおもうな」
「何を欲しがってるか?」
「そ。例えば今の蓮を見てる限りずっと会いたいって思ってたでしょ?今回の旅行ずっと上の空だったし」
「なっ、そ、そんなこと・・・」
「いーのいーの。もし私が蓮にお土産買うなら繋がりを感じられるものかな?例えば・・・」
琴音はそう言いかけたが、「これ以上は野暮か」と笑ってから、そして手を振って「じゃ、あとは頑張ってね〜」と言い残してどこかへ行ってしまった。
なんなんだよ一体!
蓮は大切な所で何も言わない姉に文句を言いたかったが、しかしそのアドバイスがためになるのも事実だった。
蓮は琴音の言う通りに考え方をシフトし、どんなものならば碧は喜ぶのか、あげた時の碧を考えながらお土産を考える。
さて、どんなものを喜んでくれるか。
そこで碧の人柄、そして何を求めているかを考える。
多分、可愛すぎるのはちょっと気が引けそうな気がする。それにキザな物もダメだ。
ここにあるものはどれもいいものなのだが、それを踏まえて選択肢を排除しながら考える。が、だがそれ以降がなかなか進まない。
蓮は腕を組み何かいい考えが降ってこないか気晴らしに店内を見渡していると、店の壁に綺麗な海の写真が飾られている事に気がついた。
綺麗だ、まるで昨日シュノーケリングした海を思い出す。色鮮やかな珊瑚礁にユラユラと揺れる水面と魚。あの感動を共有できたなら。
それにこの青、碧の瞳の色に似ている美しい色をしていた。そんな色を見ていると碧との懐かしさと、それと会いたい寂しさが押し寄せる。
ダメだ、今はこんなことしてる場合では無い。
ついつい見入ってしまったが今はお土産を買わなければ。
そうしても視線を商品棚に目を戻すと、やけに目に止まるものがあった。
それは周りとは異彩を放って見えた。何故ならば、先程見た海の風景を、閉じ込めたような琉球ガラス玉のネックレスがあったからだ。
雫型で宮古ブルーを閉じ込めた美しいガラス細工。まるで海の中にいるかのように、幾層にもなる青色があり、そして波紋が重なり合うように鮮やかな模様が光に当てられ輝きを放つ。
そして何より碧の瞳によく似ていた。吸い込まれるような瞳と同じ。
蓮はそれを手に取って、照明に重ねてみるとその輝きはいっそう増した。
これ、いいかも・・・。
蓮はまるで運命的なものを感じていた。
その雫も大きすぎず、それでいて美しさを秘めるのにちょうどいいサイズ。その主張しすぎない塩梅に碧が気に入ってくれると確信した。
それにこの海を見るが難しい碧に、外の美しさを見せてあげられることが出来る。自ら閉ざされた部屋の中にいる碧だが、ふとした時に外への憧れを持っているのは知っていた。余計なおお節介かもしれないが、これは碧の求めるものに当てはまるのでは無いか。
さらに横にその黒い琉球ガラス玉バージョンもあった。こっちは自分の瞳と合わせて、ペアルックで買えばかなりオシャレなんじゃないの?
よし、買うか。
蓮はこれを見つけられた事を運命だと思い、それを手にレジまで向かう。
そして意気揚々と財布を取りだして会計を待った。
あ、そういや値段見てなかったか。まぁいいか。今は念願のお土産を見つけられたことで気分がいい。ちょっとやそっと気にしなーー
「はい、こちら二点で18000円になります」
「ーーい゛っ」
蓮は想像より遥かに高い値段に硬直した。
いや、金はある。あるにはあるが、念の為と親から旅行前に至急されたボーナスがあるから何とかなるが。
しかしその値段は学生には如何程か高い。
く、くぅ・・・。
だ、だいじょぶだ。せっかく見つけたのだ。それにここで出さねば男が廃る。
蓮は清水の舞台から飛び降りるように財布からお金を出し会計を済ませた。減ったのは札が数枚であり、物理的には重さはほぼ変わっていないはずなのだが、妙に軽く感じてしまうのであった。




