冤罪
「それで、こんな子にメイドの格好をさせてご奉仕させてることに、何か深い理由があるなら言ってみて?」
楓が碧の部屋で腕を組み、仁王立ちをする。そして碧達は見下されながら正座をしながら縮こまった。
最初は「碧ちゃんはいいのよ?」と言われたが、碧が蓮の袖を掴んで離さなかったので一緒に並んで尋問タイムといった流れである。
しかし碧からするば何にも悪いことはしてないし、自供することなど何も無い。蓮のことを庇う弁護人になりたいところであった。
「別に、あの写真の事は怒ってないわ。
ただ蓮とこの子の関係はなに?家族のような間柄だとしても、なかなかあんなこと頼まないわよ?」
「そ、それは・・・」
楓はあの行動がどれだけイレギュラーなのかを説く。
しかしそれは蓮が悪い事など一切なく、大体は碧のことを思ってやってくれていることが主である。
「あとこの部屋どうしたのよ?」
へ、部屋?
「えっと、碧ちゃん、でいいわよね?」
コクリと頷く。
多分疑問系なのは呼び方と「ちゃん」付けでいいのかと言うことだろう。それに関しては蓮に言われ慣れてるし、もう今更なので肯定する。
「念の為に聞くけど、蓮にこの部屋に閉じ込められてる訳じゃないわよね?
家はどこ?お父さんとお母さんは碧ちゃんがここにいること知っているの?」
「い、家?」
「そうよ」
住んでるとこって意味だよね?
ここ、なんだけど・・・。
碧がなんて言っていいか分からず、楓の問いにずっと黙っていると蓮がたまらず口に出す。というか女児監禁容疑は見過ごせなかった。
「楓、ここは正真正銘あいちゃんの部屋だぞ?」
「蓮は何を言ってるの。
あっ、もしかしてここにご両親も住んでいたりするのかしらか?」
正直複数人が住んでいるようには見えない。ベッドや日用品も1つしかないからそう判断してもおかしくは無かった。
それにとても女の子の部屋には見えなかったのだろう。その感性は間違いでは無い。
だが碧の事情など知らない者からすれば、貧しいといった金銭的な事情があったりするのかもしれない。そんな背景を察してか楓はまずいことを言ったかもと内心焦る。
「あいちゃんにも色々事情があるんだ。それでここで一人暮らししてる見たいなんだけど、やっぱり1人だと不便が多くて俺がたまに来て様子見てるんだよ」
「1人って・・・え?本当なの?
だって碧ちゃん、小学生よね?」
「いや・・・さぁ?でもさすがに小学生はないと思うぞ」
え?
「そうなの?でもだからと言って一人暮らし出来る年齢じゃないでしょ?」
え?
「まぁ、それはそうなんだけど」
うーん、何だろう。
なんだかボクにとって沽券に関わるなにかを言われてる気がする。
でもあれ?蓮には16歳だって、前に言ったと思うけど。
「なんで蓮も分からないのよ・・・。
これは本人に聞いた方が良さそうね。
碧ちゃん。差し障りなければだけど、何歳か聞いてもいい?」
楓はしゃがみボクと視線を合わせて言った。蓮ならともかく、まだ会ったばかりの楓とは視線が合わせずらいので逸らしながらも返事をする。
「16、です・・・」
「え?ごめん、今なんていったのかしら?」
声が小さかったのかな?
ボクはお腹に力を入れ、頑張って声を出す。
「16ですっ」
ポカンとする楓。そしてついでに蓮も。
いやなんでさっきから蓮も驚くの!前に年齢を言ったことあるはずなのに。
けれど自分でも分かっている。童顔だし、背も低いし。その点楓も蓮も皆背が高い。
・・・さては信じられてない?
「は?でも一昨日初めて生理が来たばかりだったじゃないあだっ!?」
蓮が子気味よくスパンと頭を叩かれた。
「蓮、アンタは女の子になんて事言ってるのよっ。それにそういうのは遅い子だっているわよ」
「いてて・・・、確かにそうだな、すまん」
「でもそう言う事ね。それなら蓮があれを買ってたのも納得がいったわ。
正直なんで一人暮らししてるのかとか、聞きたいことは沢山あるけど流石に家庭の事情もあるから無闇矢鱈に踏み込むことは出来ないわ」
「実際のところ俺自身もあいちゃんの事情は聞けてないことが多いんだ。
でも、あいちゃんを見てるとなんかこう・・・ほらっ、放っておけないというか、助けたくなるだろ?」
「そう、ね。気持ちは分かるわ」
「だろー!」
「ええ」
蓮に言われるまま、楓はまじまじと碧のことを見る。それに居心地の悪さを感じた碧は蓮の袖をクイッと引っ張り、さらにピタリと体を寄せた。
「なるほど・・・」
楓は顎に手を当ててもの耽ける。
なんかすっごく見られてる・・・。
なんなの!?
碧はこれでもかと顔を逸らし続けた。
でも、話はこれで一段落したっぽいのかな?
碧は1度場の雰囲気の緊張感が緩んだのを肌で感じて、一息ついた。
よかった。これで蓮の冤罪も晴れたんだと。そう安堵した瞬間であった。
油断をした時が1番危ないと言われている通り、そうは簡単に問屋は下ろさないのが世の常である。楓の「そっか〜」という言葉が続いた後に、新たな火蓋は切って落とされた。
「そういうことなら私もに協力させなさいよ」
「は?」
なんて?
声は出さずとも、蓮と揃って驚いた顔を見せる。
「何驚いてるのよ、私ももう事情聞いたら他人事ではいられないし、困ってるなら助けたいわ。
それに女の子には女の子同士でしか相談出来ないことも多いのよ、本来月のものも蓮に話していいものじゃないわよ」
「た、確かに・・・」
蓮は納得しつつも、どこか意に染まらない反応をする。けれどそんな反応などお構い無し楓は続ける。
「それと」
「?」
二人揃って間抜けな顔を晒す中、楓は碧に近づき手を伸ばす。その先は頭?じゃない。その上のメイドカチューシャである。
「なんでこんなもの付けさせているかも聞かなくちゃいけないからね」
「ぎくっ!」
蓮は仰け反り怯えた顔で楓を見上げた。
ぎくっていう人初めて見た、何て碧が的はずれなことを考えているが、蓮の方は脂汗を流して言い訳を考える。
「大体はわかったけど、なんか2人とも怪しいのよね。見たところコスプレ好きって感じでもなさそうだし」
「ぐぅ・・・、そ、それは」
「それは?」
蓮が言い淀む。
よく分からないが、碧は自分のせいで困っているのだという事は分かっている。
今までほとんど黙ってたけど、ここは言わなきゃ。というか弁明する為にここにいるんだと、やっと出番が来たのだと息巻いているぐらいである。
蓮にはお世話になっているのだ。その恩を返せるとならばと手を挙げた。
「ち、ちがうんです!
これは・・・その、違くて。そうっ、ぜんぶボクのせいなのっ」
静かな部屋に碧の声がいやに響く。
「碧ちゃん?」
どうしたの?と伺う楓。
そして表情を失い、この後起きることを悟った蓮。
最後に我武者羅に声を上げた碧。
この三者の中に静寂が訪れ、そこで碧は再度声を上げ説明を始めた。
「ボクが、何かお返しをしたいって言ったの!」
「お返し?どういうことなの?」
「それは・・・その、ご飯とか。
あとナプキンの事だってそうだよっ。生理の事だって色々教えてくれたり、看病してくれたり、色んなもの買ってきてくれたりしてくれるの!」
「へぇ、それでそんな格好をしろって強要されたと」
フルフルフルと蓮が首を振る。
「違うっ、されてない。だけどボクにはこれしかないから・・・」
そう。これはそう言うお話になってるだけで、強要なんてされてない。それを踏まえた上で碧はお願いしているのだから。
だから、どれもこれも蓮が悪いことなんて何一つない。
「なんでそんな悲しいこと言うのよ・・・。
確かになにかお返ししたい気持ちも分かるけど、こんなやり方じゃなくてもいいんじゃないかしら?」
「ううん、これじゃなきゃダメなの。
だってーー」
「あいちゃ、ぐはぁっ!」
蓮は顔を鷲掴みにするように口を塞がれた。その為、続きの言葉は誰にも邪魔される事無く放たれた。
「だってそれがれんとの『契約』だから!」
「「・・・」」
蓮が力なく崩れ落ちた。しかし顔は楓に鷲掴みされたままなので宙ぶらりんの状態である。
「ボクがれんに助けて貰ったら、その分だけれんはボクに命令する権利があるの。
だから、今回も契約があったから命令されてただけで、れんは何一つ悪いことはしてないの」
一生懸命に説明する。
緊張のあまり、思いついたことをそのまま口に出しているところがあるので本当に伝わってるか分からないけれど、蓮の冤罪がかかってるのだ。ちょっとでも蓮の心象を良くしてあげたい。
ボクは怖くて閉じていた目を、少しづつ開ける。するとそこにはニコニコした楓がいた。
怒って、ない?
よかったぁ。どうやらボクの伝えたかったことは上手く伝わっていたらしい。
本当に蓮の力になれるか心配だったけど、話してみるものだと達成感に満たされた。
「なるほどねぇ。
ありがとう、話してくれてありがとうね碧ちゃん」
「うんっ」
ボクは元気よく頷いた。
「こういう事は、なかなか本人を目の前にして言うのは怖かったでしょう。
もういいわ、私がきっちり対応するから、あとは任せてちょうだい」
「・・・へ?」
「それで早速だけど、少しコイツとお話してくるわね。碧ちゃんはここでお茶でも飲んでいて、私たちはちょっとお話があるから」
「か、楓さん?」
「何かしら変態さん?」
「あの、耳をもってなにをあだっ!?いででででっ!」
楓が蓮の耳を引っ張って引きずった。
蓮は必死に四つん這いで着いていく。
あ、あれ?
ボク、ちゃんと説明出来てた、よね?
少し疑問に思ったが、依然として楓はニコニコとしていたので気のせい?という事にしたい。
偶に蓮は変なところあるし、ああいうのも一種のコミュニケーションなのかも・・・?
しかしもう2人は行ってしまったので今更碧にできることは無い。なのでお言葉に甘えて、少しお茶でも頂こうか。いっぱい喋ったから、喉がカラカラだったのだ。
碧は二人が部屋から消えていくのを見送った後、机に座りお茶をズズっとすするのであった。
その時な冷めたお茶は今のこの喉を潤すにはちょうど良かった。




