幼馴染
碧が体調を崩した日から数日たった某日。
その日も燦々と太陽が照り付ける中、碧の部屋に訪問者が訪れる。
「ただいまー。あいちゃんお使い行ってきたぞー」
蓮も慣れたもので、チャイムを鳴らすことも無くここが自分の家のかのように入ってきた。
「おかえりなさーい」
ボクはそんな蓮のかげ声に元気よく答えパタパタと玄関まで走り、両手に抱える食材や日用品の入っている袋を受け取りに向かう。
「そうじゃないだろ、あいちゃん」
「ん?・・・あっ。お、お帰りなさいませ、ご主人さま。お荷物はお持ちいたします!」
「うん、よろしく頼むよ」
「はいっ」
もうこのやり取りでわかる人はいると思うけど。
そう、契約によりボクは今、蓮の1日メイドをしているのだ。
流石にメイド服は着ていないけど何故か蓮持参のメイドカチューシャだけはつけている。それでいて服はTシャツ姿という摩訶不思議格好な格好になっていた。
蓮にこんな格好でいいの?と聞いたら問題ない!っと答えたのでこれでいいのだろう。
まぁ、ダメだと言われても女物の服何て持っていないんだけどね。
でも蓮的にはいつかメイド服やナース服を揃えてやると息巻いていたりする。
「れ・・・、ご主人さまはこのあと何かご用事はありますか?何もなければお茶の御用意します」
「午前中の間は何も無いかなー、どうせこの後帰っても暇だしお茶でももらおうかな」
「はいっ。ご主人さまは椅子におかけになって待っていてくださいね」
「うん、ではそうさせてもらおうかな」
蓮が答えてからボクは一人忙しなく台所に向かい、そしてじょぼじょぼー、っとお茶とお菓子の準備をする。そしてそれを蓮へと持っていった。
「そうだ、ご主人さま?」
「ズズーッ、ん?どうした?」
蓮は早速お茶を飲みながら碧を見た。
「そういえば最近、アニメが見られるっていうサブスク?ってやつ入ったんだ」
「おっ!もしかしAアニメストアか?」
「あ、そーそれ!
よく分かったね?」
「まぁな」
と得意げに鼻先を擦る。
ちょっと碧の前で博識っぽくみせたがアニメサイトと言えばその辺が挙げられる為、対して凄くはないのだが言わないでおく蓮。
「それじゃああれだな。
今度から一緒にアニメ見れるな」
「うんっ。
時間だけはいっぱいあるからね。れんがオススメなやつあれば、ボクなんでも見るから」
「そうだな〜。それなら社会現象起こしてるような定番から見てみるか?
とは言っても、人によって好みはあるから合わなかったら全然見るの辞めてもいいからな?」
「へ?うん、分かった!」
オススメしたら意地でも見そうな碧に、蓮は念の為に釘を刺す。本当に分かってるのか分からないがまぁその時になったらまた言えばいいかと蓮は話を終える。
「それとな蓮じゃなくて、ご主人様だぞ」
「あ、はい、ご主人様!」
ご主人様呼びにご満悦になる蓮。
蓮は堪らず碧の頭を撫でようと手を伸ばすが、カチューシャが妨げになりピタリと手を止った。碧も碧で撫でられるかと思ったのにされないので消化不良気味だった。そこを蓮は碧の頬に手を回し、撫で始める。
体調を崩した時にしてくれたそれは、その時の安心感からか今こうしてされるだけでどこか気持ちがいいし、落ち着ける。
碧はその気持ちよさに目を細める。
さらに、蓮からの撫でるという行為は碧の行動が蓮に気にいられた時や、ご褒美を貰う時にしてもらうことが多く、碧にとってその行為は自己肯定感を満たすものと刷り込まれている。
だから碧もこの時間は大好きなのだ。
そんな時ーー
ピンポーン
2人の空間に、突如としてドアチャイムの音がボクの部屋に響いた。
こんな事は普通の人であれば良くあることだけど碧の部屋でそれは普通ではないのだ。宅配で何かを頼んだ覚えもなかった。
「・・・」
「あいちゃん、俺が出ようか?」
「ううん、ボクが出るから大丈夫だよ」
蓮は少し戸惑った碧を見てなにか察しての提案なのだろう。けど碧はそれを断り玄関へ向かう。
そしてゆっくりと、顔が全部見えそうで見えないように少しだけ開ける。
「ど、どちら様でしょうか?」
「すみません・・・って、女の子!?」
「へ?」
碧が相手の顔を確認すると、綺麗な女性がそこにいた。勿論面識は無い。
しかし相手は碧の顔を確認するやいなや、態度が豹変する。
「ごめんなさいね、ちょっと失礼するわよ!」
「っ!?」
多分相手は高校生ぐらいの女性。その女性は失礼すると言い無理に玄関のドアを大きく開いた。
その時ボクはドアノブを強く握ってたいたものだから、ドアに引かれる様に引きずられ転がった。
「んにゃっ!?」
「なっ!?」
その女性は四つん這いに転がる碧の姿を見て再度驚きの声をあげた。
「〜〜っ!?」
な、なんなのこの人!!
その女の人はすごい形相で碧に迫る。
「あいつは何をしてるの!!こ、こんな少女にこんな格好させて・・・。ま、まさか手を出してないでしょうね・・・。君、大丈夫?なにかされてない?」
「ーーひっ」
目の前の女の人が何かを言っているけれどボクはよく分からない。そして何かを言い終えるとボクの方に手を掴み強く揺さぶり始めた。
碧は何をされるか分からぬ恐怖に腰が抜ける。
「ほ、本当に大丈夫?立てそう?」
また何か女の人が言ってる。
また何か女の人はボクに手を伸ばしてきている。
ど、どうしよう・・・。
「やめ、さわ、ないでぇ」
目をギュッと瞑り叫ぶ。
こんな所でそんな言葉を言えばご近所にも響くのだがそんな事を気にする余裕など全くない。
その姿はまるで誘拐寸前の子供のような弱々しい姿であり、流石のその女性もさし伸ばしていた手を引っ込めた。
「っ!ごめんねっ、ほら、私離れたから、ね?怖くないよー」
その女性は近づいていた歩みを止め、逆に後ずさる。そして両手を上げて無害だとアピールをし始めたが、それに気づける余裕はなかった。
けれどそんな時、碧の部屋からドタドタと足音が近づいて来た。
「あいちゃん、声が聞こえたけど大丈夫か!」
「れ、れんっ!」
ボクもここまでか!と、そう諦めかけた時に蓮の声だけは碧の耳へと入ってきた。
碧は立つことは諦めて蓮の声のする方へ這って向かう。そしてすぐ後ろに蓮を見つけることが出来た。
「れん・・・、れんっ、知らない人が、ボ、ボクの部屋に入ってきてね、それで、それでねーー」
ボクは蓮の足元まで来ると蓮の足をよじ登るようにして足を震わせながらも立ち上がる。
そして玄関にいる女の人から隠れるように蓮の後ろに隠れる。思わず蓮の服を強く掴んでしまいTシャツはヨレヨレだ。
けどボクはそんなことにまで気を回せず、蓮の後ろという一番安心できるところで心を落ち着かせ、この嵐のような出来事が過ぎ去るのを待つことを決めたのだ。
「大丈夫か、あいちゃん。玄関に知らない人ってだ、れ・・・!?」
蓮は取り乱すボクを落ち着かせながら、ボクに促されるままに玄関に目を向けると蓮が油の指していないロボットのようにガタッ、と身を震わせた。
「蓮、アンタ何してんの?」
「な、何で楓がここに・・・」
そして騒がしかった玄関にはふと、静寂が訪れた。
え、なに?知り合いなの?
ボクは付いていけず、ことの成行をただ見守ることしか出来ない。
「そんなの決まってるじゃない。最近知らないところに入り浸ってるって蓮のお母さんから聞いたのよ。
そ、それに・・・、アンタがこれを買ってたって、和葉ちゃんが・・・」
蓮が楓と呼ぶその女の人は、スマホを取り出し蓮にある画像を見せる。
それは蓮が女性コーナーで、ナプキンを手に取り吟味している画像であった。
あっ。
「!?ち、違うんだ!これは別に俺が欲しかった訳ではなくてだな!」
「分かってるわよそんな事。男がこれを買うなんて指図目彼女の為ぐらいよ・・・。
それで蓮が入り浸ってる所を見に来たら、こんな・・・、前からアニメが好きでまさかとは思ってたけど、とうとうこんなの幼い子に手を出していたなんてね」
本当に悲しがっているのだろう。
楓と呼ばれた女性は怒りも通り越し、そして目を虚空へと向ける。
多分その目は蓮の将来を見通して哀れんでいる目であろう。とても悲しい目をしていた。
「れん、あの女の人、誰なの?」
ちょっとした修羅場を見て碧も落ち着きを取り戻した。
だからこの女の人が蓮を遠いい目で見ている間に知り合いなのか聞く事にした。
「俺の幼なじみの長瀬 楓だ。家が隣で同じ如月学園に通ってるんだ」
幼馴染?そっか、それなら安心、なのかな?
楓さんは綺麗な黒髪にポニーテール。
スタイルもボクなんかとは違ってすらっと高く、更には出ているところは出ている。
そんな黄金比と言えるような感じ。
「・・・・・・かのじょ?」
「え、いや違うぞ?」
「そっか」
碧は意味もなく聞いてみた。決して他意はない。
ただ目の前の女性は超が付くほどの美人だし、蓮もイケメンだから、もしかしたらとも思ってしまったのだ。
でもまぁ、そうなんだ。ただの幼なじみね。
「だから、楓は危険じゃないから安心してくれ」
「うん、わかった」
碧が頷くと蓮は「そうか、偉いぞー」と褒めて落ち着かせてくれた。最初こそ取り乱したが、こうして蓮と話せて落ち着いた時からは、実はもう大丈夫な人だって思ってはいた。
蓮への言葉はキツイけどそれもどこか勘違いしてるみたいだし本当に心配してるからこそだ。
碧も早かった鼓動は平静を取り戻し、張り詰めていたものが完全に緩みきる。そこで蓮にとある提案をする事にした。
「れん。一旦家に上がってと、言ってください」
蓮に小さな声で言う。
「いいのか?」
「うん。いい人、なんだよね?」
「ああ、それは保証する。ただお節介過ぎる所が玉に瑕だな」
それは・・・欠点なのか何なのか。
でも蓮にとってお母さんみたいな立ち位置っぽいのは予想出来た。
「楓、こんな所で話すのも悪いしあいちゃんから許可ももらったから続きは中で話そう」
「あいちゃん?あぁ、その可愛らしい子ね。
いいわ、そうしましょう。私も沢山聞きたいことがあるし」
「ーーませ」
「え?」
「いらっしゃいませ、だってさ」
「え、えぇ。こちらこそおじゃましますね、あいちゃん?」
楓はにこりと笑いかけてくれた。
その笑顔だけでこの人が良い人だって教えてくれる。でも生憎と碧は弩級の人見知りであった。思わずサッと蓮の後ろに隠れてしまう。
しかし隠れてから印象が最悪なのでは無いかと思い後悔する。
しかし後悔するだけではだめだ。何かよく分からないけど、蓮が責められているのは碧に責任があると見受けられたからだ。
蓮がこの部屋に入り浸っているのも、ナプキンを買っていたのも、ボクにこんな格好をさせているのも、全て理由がある。
ちゃんと本当の事を話せば、あの楓って言う人も理解してくれるに違いない!と、意気込んだ。
そして、ボクは考えが甘かったことに気付くまでそう時間は掛からなかった。




