琴音のミニトマト(笑)
そんなある日、放課後、航は琴音に声をかけた。
「なあ、見学、来るか?」
琴音は一瞬きょとんとした顔をした。
けれど次の瞬間、
ぱっと顔を輝かせ、コクンと大きくうなずいた。
その話をすると琴音の担任も部の顧問の先生も快く琴音の見学を認めてくれた--
その日から、
琴音は吹奏楽部の見学に加わった。
最初は合奏練習の時担任の先生と一緒に遠巻きに眺めるだけだった。
時々、練習の合間に航の方へ駆け寄ってきたり、
トランペットの真似をして笑ったり。
純粋に、楽しそうだった。
そのうちなぜか航の席の隣が琴音の指定席になっていた
奇妙な関係
琴音はただそこに座ってニコニコしてる
他の部員たちも、次第に琴音を「そこにいるのが当たり前」の存在として受け入れていった。
昼休み、校舎裏の畑
琴音は、小さなじょうろを両手で抱え、ミニトマトの苗に水をそっと注いでいた。赤くなりかけた実を見つけると、小さな手で葉をそっとかき分け、傷がついていないかじっと見つめる。
「琴音さん、がんばってるね」
背後から声をかけたのは、琴音の担当の先生だった。年配の、やさしい笑顔が印象的な女性の先生。琴音のそばにしゃがみこむようにして、視線をトマトに移す。
琴音はにこっと笑って、手にしたじょうろを持ち上げた。
「うん!お水あげたら、きのうより赤くなったよ。もうすぐ、たべられるかな?」
「そうだねぇ……おひさま、たっぷり浴びて、もうちょっとだね」
琴音は嬉しそうに頷いて、それからふと小さな声で呟いた。
「みんなにあげるの。ホルンのみんなと、先生にも」
「みんなに……?」
先生が少しだけ驚いたように尋ねると、琴音はまっすぐ先生の目を見て、大きくうなずいた。
「うん。航くんとか、部活のみんな、がんばってるから」
その目は、とても真剣で──子ども特有のまっすぐさが、痛いくらいに伝わってきた。
先生はふっと目を細めた。
「……そうなんだ。みんな喜ぶね、きっと」
それだけの言葉だったけれど、そこには言葉以上の思いが込められていた。
先生は琴音の無邪気さを、そしてどれだけ彼女が人とつながろうとしているかを、わかっていた。
だからその表情は、どこまでもやさしく、少しだけ切なくも見えた。
先生はそう思いながら、そっと手を伸ばして琴音の背をなでた。




