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終わらないアンサンブル


演奏会の後日

学校の音楽室。

部活が終わり、帰り支度をする生徒たちの中で、一人だけ残っていた生徒が、航に声をかけた。

「先生…」

少し躊躇いがちに、でも真剣な目で。

「あのコンサートで……あの、誰も座ってない椅子に、写真がありましたよね」

航はゆっくり振り向いた。

「あれ、誰なんですか?」

航は椅子に腰を下ろし、楽器ケースに手を置いた。

「……昔、この町にいた子だよ…同じ中学の…」

それだけ言ってから、少し間を置く。

「音楽が好きで、すごく一生懸命で…あの曲はあのこのお母さんがあのこのために作った曲なんだ…一度だけ聞いたことがあってね…」


「彼女はね…」

航は続ける。

「音楽を続けたくても、続けられなかった。音楽が大好きだった…と思う…」

生徒は黙って聞いていた。

「でもどうして写真なんですか…あれは…」

生徒は何かを言いたそうにして、やめた。それを引き取るように航が話した。

「続けたかったからかな…続けてほしかったんだと思う…あのこのお母さんも僕も…あのこ、今はもういないから…」

そう言いながら航は頭の中であの曲を奏でていた。


航の最後の一言でだいたいの理由を感じ取った生徒は感がいい。

「わかりました!」

と明るく返事をして礼をして帰っていった。


翌日、部活が終わったあと、同じ生徒が再び航の前に立った。


「先生…」



「私迷ってたけど……やっぱり、辞めません!」

航は驚いて目を見開く。

「まだ、自分には音楽を続けてもいい環境があるって思いました。アナ先生から聞きました…あの写真の子のこと、先生のこと…先生が音大いかなかったこと…すいません…なんでも聞いちゃって…(笑)」


「アナ先生から?まいったな…まあ、そういうわけだね(笑)」


「まあ、だから少しでも君等が続けていけるお手伝いできればいいと思ってる…そのために教師になった…そもそも僕は競争は苦手だから…(笑)」


「私、続けますから!いろんな理由でやりたくてもできない人もいる…いろんな人いるんですもんね、私はまだまだやれる環境なんだなあとわかったから!」


航は、思わず微笑んでいた。


「そうか…がんばれよ…」


それだけで、十分だった。

生徒が去ったあと、音楽室には夕暮れの光が差し込んでいた。

譜面台の影が長く伸びる。

航は心の中で、そっと語りかける。

――ありがとう、琴音。

君の音は、ちゃんと届いてる。

今も、誰かの背中を押してる。

終わらないアンサンブルは、

また一つ、新しい音を迎え入れた。

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