琴音再び
春の陽差しがグラウンドを柔らかく包み込み、風が校舎の窓を優しく鳴らしていた。
佐々木航は、スケッチブックを膝に広げ、鉛筆を走らせていた。写生大会といっても、描いているのはただ気まぐれに伸びる線の集まり。ではなく校舎だった…なんとなく線を描いては消しまた描いては消し、ついにはため息をついた。
「……これでいいのかな」
そんな独り言の直後だった。
ざっ、ざっ、と足音が近づいてきて──
「なに描いてるのー?」
突然、横からのぞき込んできたのは、琴音だった。
制服のリボンは歪んで、髪は風になびき、笑顔だけがまっすぐに航に向けられていた。
「おい、?授業中じゃないのかよ!」
驚く航をよそに、琴音は隣にちょこんと座ったと思ったらスケッチブックに指をのばし指でこすりだした。
「あーや、やめろ!おい、なに汚れるって!あ~」
「ふふーん〜」
屈託のない笑みと、くすぐったい笑い声。
航はふっと、唇をゆるめた。
怒るべきなのに、なぜか笑ってしまう。彼女の無邪気さが、何かの重りを外すように心をほどいていった。
周りの生徒もこの退屈な時間のイベント始まったみたいな感覚で面白半分でみてる。
そのとき、校舎から慌てて飛び出してくる人影があった。
「琴音さん!戻りなさい!授業中でしょ!」
先生の怒鳴り声に、琴音は「にへっ」と笑って、ぴょんと小さく跳ねるように身をひるがえし、グラウンドの反対側へ逃げ出した。
「まったく……」
航は呆れたようにため息をつきながらも、去っていく琴音の背中を、目で追っていた。
春の光の中、風に髪を揺らし、足取りも軽く走る姿──
それは彼の心に深く刻まれることになる、大切な記憶のひとコマだった。
。琴音の底抜けの明るさみたいなものにみんなやられてしまうんだ。──
航の紙には琴音の描いた指の跡が残っていた。航はそれを消そうとした手をやめた。
「また描くか…これは失敗だし…(笑)」
そう言うと航はスケッチブックをじっくりみていたが、その顔はどこか楽しそうだった。
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