航の進路
放課後の旧校舎裏、進路面談が終わった帰り道
校舎の陰、柔らかい日差しの残る中。
航は一人、楽器ケースを肩にかけて帰ろうとしていた。
その背中に声が飛ぶ。
「……ねぇ、佐々木」
振り向くと、天音が立っていた。腕を組み、口元は硬い。
「音大、やっぱり行かないの?」
「うん。教師を目指すことにした」
航の穏やかなのびのびとして明るい答えに、天音の表情がゆがむ。
天音は少しひきつったような笑みを浮かべていた。
「……やっぱり。あんたのそういうとこ…ほんとムカつく…あんたって、結局そういう人だったんだ」
「え……」
「“好き”って言ってたよね、音楽。環境も才能もあるくせに、“趣味”に逃げる。全部持ってるくせに、それを捨てる選択ができるあんたが、……私は、羨ましくて、憎らしいの」
持てるものの余裕…そう感じてしまう…なんで航はそんなに音楽に対してフラットなのか…欲がない…
欲がない…そういうところがムカつく…自分の才能に疑問持ってても、それでも諦めきれずに、必死に食らいついて限界を超えようと誰もが必死なのに…
「……」
「私の兄は、全部失って終わった。続けたくても、壊されて終わった。私は兄の分も抱えて進もうとしてる。でも、あんたは──自分から手を離すんだ」
天音の声が震えていた。
怒りというより、悲しみに近い何かが混じっていた。
航はゆっくりと答えた。
「……俺も、音楽を続けるつもりだよ。形は違っても。誰かに“続けられる道”を伝えられるような人になりたい。それで困ってたら助けられる人になりたいし、背中を押してあげたり手助けしてあげたりしたいと思ってる。」
沈黙が落ちる。
天音は、少しだけ目を伏せた。
「……それ、ずるい答えだよ。……でも、ずるいって思う私は、もっとずるいのかもね」
そして、微かに笑った。
こいつはたくさん持ってるものを人のために使おうとする…自分のためじゃなくて…持ってないものからみたらこんな贅沢で、バカにしてることはない…
憎いとかはない…そうだ…天使?(笑)キモいけど…自然にそういう人のためにってなるのはもうそういえしかないだろ…
航の天使姿をついつい想像してしまった天音はその気持ち悪い姿に苦笑するしかなかった。




