表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/44

紗良の選択3

「どうだった?」


同級生が声をかけてきたが、紗良は小さく首を振るだけだった。


「そっか……」


気まずそうに視線をそらされる。慰めの言葉すらかけてもらえないことが、かえって現実の残酷さを突きつけてくる。

新入部員が入ってくる。その彼らからも置いていかれる自分。


次第に、楽器をケースから出すのが億劫になった。吹いても、以前のように音が出なくなった。心が折れたせいか、息がうまく入らない。


それでも部活には行かなければならなかった。ただ座っているだけの時間が増え、周囲が演奏する音が遠く感じるようになった。


「なんで、私はここにいるんだろう……」


そんな考えが、頭から離れなくなっていった。


高校最後の定期演奏会。紗良は最後まで補欠のままだった。


演奏を終えたメンバーたちが達成感に満ちた笑顔で言葉を交わす中、彼女はそっと音楽室へ向かった。


静かな部屋で、クラリネットを取り出す。


——もう、これで最後にしよう。


そう思いながら、ゆっくりと息を吹き込んだ。


音は、震えていた。


ふと、背後から声がした。振り向くと、かつてのパートリーダーが立っていた。


「……まだ練習してたんだ」


「……うん」


「紗良の音、ずっと好きだったよ」


「……え?」


「表現が単調とか言われてたけど、私は紗良のクラリネット、すごく優しい音だと思ってた」


「……そんなの、初めて言われた」


「だろうね。だって、ここは結果がすべてだから」


彼女は苦笑しながら続けた。


「でもさ、頑張ってたことは、みんな知ってたよ」


紗良は、何も答えられなかった。



「もう、音楽を楽しいと思えなくなったんだ。」


紗良は、遠くを見るような目をした。


「だから……コース、抜けた。

今は、普通科で、一般大学を目指してる。」


無理に笑ってみせたが、

その笑顔は、どこか痛々しかった。

--


誰も、何も言えなかった。


航も、マイクを持ったまま、黙っていた。


あんなに音楽を愛していた紗良が、

こんな風に、静かに音楽から離れてしまった。


──音楽は、

好きなだけじゃ、続けられない。


そんな当たり前すぎる現実が、

航の胸にずしりと落ちた。

---


帰り道。


夜風に吹かれながら、航はふと思った。


「俺は──」


小さく呟いた言葉は、

夜の闇に溶けて消えた。


それでも、

胸の奥で、確かに何かが、灯っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ