お火焚き神事
—翔太から連絡が来た
「ちょっと付き合ってくれないかなぁ」
翔太は伝統芸能を担ってきた家系だけあって地元の伝統行事にも詳しかった。
「俺達来年3年で受験だし、ちょっと縁起担いでみないか…みんなには内緒だぞ(笑)」
「いいのか?」
「いいんだよ、他のやつらは(笑)地元なんだし欲しければもらいに来ればいいんだし、知らない奴が悪い(笑)それに航には知っといて欲しかったんだ…」
あ…そういうことか…
翔太は俺が外から来たからそういうこと言うんだな…
翔太の言葉にはどことなく棘?のような皮肉があったような気がしてた。
それもなんとなくわかる…
結構この街には何百年にもわたる歴史が今も残っている。
しかし、地元の人はそれをあまり大切に思ってる人はそう多くは無いようだった。そんな感じをいつも感じていた…
それは外から見るとその歴史がとても素敵な唯一のものに思える…
だが街を歩いてみても地元の人がそう感じて誇りに思っているのが感じられない…
そんな雰囲気…風景だから
アピールしてるようにも見えない…
それくらい歴史の重みをあちこちに感じさせるような演出はなかった。
新幹線も空港もあるのに…もったいない…
航はいつもそう感じていた。
たぶん翔太は代々伝統に携わってきた家系としてそんな街の雰囲気が腹立たしかったのかもしれない…
翔太に言われて行くことになったのは高校とは川を挟んで対岸にある神社。受験の神様と言われる神社だ。
毎年初詣になるとその年の受験生がたくさん祈願に来る由緒正しいお社だ。
昔は殿様が船でお城からお参りに来てたらしい。それを宮司や禰宜など一同が敬々しくが正装でお迎えし本殿に…
そういう話を聞くと思わず風景を想像してしまう…
なんかいいな…
外から来た者にとってはそういう歴史の風景がすごく大事なものに感じる…
翔太に言われてついていくと本殿の前に人だかりが。人だかりの真ん中には鉄製のお釜。日本昔ばなしか時代劇の長屋のシーンででくるそのお釜が台ににのせられていた。
本殿から祝詞が聞こえ、笛や太鼓の音も。
実は翔太はアルバイトでここで笛を吹くという。
航は初めて来てなにがなんだか分からないまま人だかりの外側にいた。
「悪いけどバイト終わるまで待っててくれないか。終わったらすぐいくから」
その言葉通り待っていると翔太が来た。
頭には烏帽子下は袴
その姿は歴史上の人物のようだった。
またそれが様になってるから翔太はすごいと思った。
「今から梅の木炙るからそれ持って帰ってよ。雷除けだけどまあ雷落ちない、受験にも落ちないって。これ俺のこじつけだけど(笑)」
そんなことを言ってると本殿からこれもまた立派な装束の宮司さん?が厳かに大事そうに火を掲げてきた。
その火であのお釜の下の枝木に火をつける。火はだんだん大きくなる。
「お釜の中はなんだ?」
「もち米。もち米のお粥作るんだよ。それ食べると無病息災になるって言い伝え(笑)」
もう11月
天気は悪くないがずっと外にいるとだんだん寒さを感じる
でもお釜の焚き火のおかげでどことなく暖かさを感じられた。
焚き火は勢いよく燃えている。
係の氏子さん?が梅の木の枝を火に入れる。パチパチとなる。先の方しか入れない。人だかりの人が手を出すとすぐに取り出して次々と来た人に渡していく。
係の人は渡しながら
「炙ったほうを下にしてご自宅にお飾りください」と説明している。
そうこうしている間にお釜から湯気が上がってきた。蓋を取ると一気に蒸気があがる。
その蒸気は暖かそうだった。
係の人が今度は女性陣が次々と出来上がったお粥をパックに詰めていく。
さっき梅の枝をもらった人は今度はそのお粥をもらっていく。
翔太が航に枝とお粥を渡してくれる。
手に取ったお粥はちょっと熱かった。枝はもう熱さも何もない。
「翔太は?」
「俺はあとからもらうからいいんだよ。」
翔太は祭りの笛もやって、この神社でも笛。
続けるのはすごいことだと思った。祭りも神社も何百年と続いてる。人の一生はそれに比べたら短いし、ましてや楽器を続けるなんてあっという間の一瞬の出来事。
航は帰り道。橋から神社を眺めていた。新幹線の野太い通過音が聞こえてくる。と思ったら羽田便かな?新幹線との合奏はなかなかタイミングが合わないと聴けないなあ…と思いながら。
「神社の神様もまさか上を飛行機、すぐ近くを新幹線が通るとは思ってなかっただろうな」
周りがどれだけか変化しても多分この神社はここにあるし、翔太のような人物がいる限り祭りも神社も続いていくんだろうなと思った。




