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先輩は続ける



秋も深まり、空気はすっかり冷たくなっていた。


航は湖を一周する道をサイクリングしていた。

遠くに山並みがみえる

頂上はわずかに雪をかぶっていた

大会が終わってから、どこか心が晴れなかった。


部活では、遥先輩の噂が静かに広がっていた。


──金髪の派手な男と車に乗っていた。

──その男とショッピングモールで仲良く買い物していた。

どう見ても年の差がありそうなどこかのおじさんと…


そんな話を聞くたび、

航は胸の奥に鈍いものを感じていた。


あの遥先輩が。

あれほど必死だった遥先輩が。


本当に、そんなふうに変わってしまったのだろうか。

そんな噂の反面

全国模試ではいつも上位に入ってる

それがもしかして噂を歪めてたりもするのかもしれないと思っていた。


いや、でも金髪ぐらいはどうでもいいと思うけど…


湖畔の小さなカフェ。

湖ときれいな山並みが一望できる。

今日も結構賑わってるなあ…

と思ってたらお客さんが二人出てきた。


あれ?


──遥先輩?

──そして、ちょっと派手な金髪の男?


航は思わず、自転車を止めた。


遥先輩は、なにか男に向かってにこやかに話しかけた。

男はうなずき、

大きなケースを受け取って車へ向かった。


──あれは、ホルンだ。


航は、息を呑んだ。


そして、

遥先輩がこちらに気づいた。


「──あれ? 航くんじゃん!」


手を振って、屈託なく笑いながら近づいてきた。


航は、戸惑った。

こんなに明るい遥先輩を見るのは、初めてだった。---


「久しぶり。」


近づいてきた遥先輩は、

秋風に揺れる髪をかきあげた。

少し髪が赤味かかって見えるのは夕日のせいか。髪の色かわからなかった。


「部活、頑張ってる?」


「……ええ。まあ。」


航は、うまく言葉が出なかった。


遥先輩は、ふっと笑った。


「私の噂、聞いてるでしょ?」


「……」


航は答えられなかった。


「べつにいいんだ、誤解されても。」


遥先輩は、笑ったままだった。

でも、その笑顔はどこか遠くを見ているようだった。確かにうちの学校の女子にしてはイケてる感じなのが航にもわかるほど遥先輩はオシャレだった。


「一緒にいたのはね、私のお父さん。

小さい頃に離れちゃったけど、今は時々会ってるの。」


「……そう、だったんですか…」


航は、少しだけ肩の力が抜けた気がした。


「でも、みんなに変な置き土産しちゃったなあ。

ごめんね。」


遥先輩は、悪戯っぽくウィンクした。


そして、少し空をみあげながら誰かに言い聞かせるように

真剣な声で言った。


「──私、ホルンはやめないよ。」


「部活は三年間で終わるけど、

音楽は一生続けられるんだって、

最近ようやくわかった。」


その言葉は、

まるで湖面に静かに広がる波紋のように、

航の胸に染み込んだ。


航は、ふと梨沙のことを思い出した。


あの、

誰もいない屋上で、

寂しげに、それでも懸命にフルートを吹いていた彼女。独学であれだけ吹けるのに頑なに部活を拒否していた。


──続けるって…



航は、

ようやく少しだけ、

何かを掴みかけた気がした---


「じゃあ、またね!」


遥先輩は軽やかに手を振り、

父親の待つ車へ走っていった。


沈みかけた夕陽が、

遥先輩の髪をより一層赤くに染めていた。


航は、

その背中を、

いつまでも見送っていた。


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