天音VS航 R2
そこには天音と航だけ
夕暮れの旧校舎裏、楽器を片付けながら。
なんとなく気まずい航はちょっとダレ気味
「……今日はちょっと疲れたなあ…」
しまったと思ったその瞬間天音が食ってかかる。
「……なにそれ。甘えてんの?」
「いや、そうじゃなくて……」
「“疲れた”って…そんなの言い訳…そういう言葉、大嫌いなの」
航「……」
なんのことなのか、航に分かるはずがなかった。
でも
天音のその言葉の、視線の奥に、一瞬だけ“泣きそうな影”が見えた気がした。
「……なんであんた、音大行かないの?」
本多天音が突然声をかけた。
いつになく張り詰めた声音だった。
「え、……まぁ、趣味で続けてもいいかなって。音楽、好きだから」
航がいつも通りの調子で返すと、天音の表情が鋭くなる。
「……ふざけてんの?」
「……え?」
「好きって言葉、便利ね。あんた、恵まれてるのに。才能も環境もある。それで“趣味”とか言えるの、むかつく…」
航が言葉に詰まる。
まただ
「なあ…なんでそんな言い方になるわけ?
なんか悪いことした?なにがそんなに気に入らないわけ?」
航ももういい加減にして欲しくてはっきりすることにした
「はっきりいってくれよ!俺も困るよこんなんじゃ!」
天音は一瞬戸惑ったが吐き出すように言った。
「さっきも言ったけど、ほんとムカつく…」
「だから、そこはっきりさせたいんだ…」
「あんたバカなの?あんたのことどう思ってるかさおしえてあげようか?」
「才能もあって環境もあるのにそれに甘えてる穀潰しだって」
航はあまりのひどい言われように愕然とした…
ショックだった…
穀潰し…最近なかなか聞かない…死語?
それでもこれはひどい…
「誰がそんなこと言ってるわけ?」
「私が言ってるの!」
航はもう呆れるしかなかった…
天音はどうかしてる…
もうバカバカしい…
「あほらし!帰るわ!」
航はそう捨てゼリフを言うとさっさと帰って行った。
思い切りドアを閉めて…壊れてもいいくらいに…
その音が辺に響いた。
それは静かな中で異質な響きだった。
天音は口を尖らせていた。
が、すぐに肩を落として大きなため息をついた。
なんで…
私は航を許せないんだろうなあ…
許せないに決まってる…あんなお気楽なやつ…
優しい兄貴だった。
優しすぎた…
ずっとクラリネットやってて音大行った。
小さい頃から私に教えてくれた。
だから私も今やってる。
でも…
壊された…
負けた…
教授に毎日怒鳴られて…
夜中泣きながら磨いてた。
ある日、黙ってクラリネットをケースに仕舞って──それっきり
私は、あの人が楽器を捨てたのが悔しくて仕方ない。
だから音大を目指してる。
一流には優しいだけじゃない、強さも必要だ…
“好き”なんて言葉で済ませるあいつにだけは、負けたくない…許せない…
あいつはなんでも持ってるのに…
天音のその目には熱い決意と痛みが滲んでいた。




