天音VS翔太 R1
「航……さっきのパート練、テンポ乱れてたよ。ソロで満足しないで」
「……了解。ありがと」
「“ありがと”じゃなくて、直してって言ってるの。あなたのせいで全体が崩れるの」
他の部員たちが気まずそうに目を伏せる中、航はただ小さくうなずく。
ある日曜日の練習の休憩
「ごめん、今週は稽古が入ってて……」
楽器をケースにしまいながら、翔太が申し訳なさそうに言う。
その代わり
と言って翔太が取り出した
「はい差し入れ
じいちゃんが持ってけってさ
自家製の柿の葉寿司だけどね」
部員からオーという声があがる
「みんな頑張ってるのに悪いな
じゃ頑張ってな」
それを聞いた天音が、ピシャリと冷たく言葉を返す。
「……部活より祭りのほうが大事ってこと?」
翔太が驚いた顔をする。
「え? いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあなぜ平気な顔で“休む”なんて言えるの? コンクール前よ?」
他の部員たちが息を呑む中、天音は構わず続ける。
「音楽って、そんなに軽く付き合えるものじゃない。あんた、責任感じてる? みんな、あんたのパートをカバーしてるのよ」
翔太は押し黙る。そして、ゆっくりと言った。
「……俺にとっては、祭りも“音楽”なんだ。俺の家は代々、和楽器と祭囃子で生きてきた。そっちも俺の“責任”なんだよ」
天音は一瞬、言葉を失う。だがすぐに顔を背けるようにして呟く。
「……勝手にすれば」
静まり返る部室。
だが、航の視線だけが、そっと天音の背中に注がれていた。




