天音VS航 R1
昼休みの音楽準備室
2年生はもう進路の話題があちこちを占領していた頃
部員たちの間でも進路の話題は日常生活だった
航はどうするか迷っていた
聞かれたらいつもだいたい冗談めかして言うことになっていた。
航「音大? うーん、行けって言われてるけど……将来の安定考えたら普通の大学かなー」
周囲の数人は笑う。
が、天音だけは違っていた
黙って荷物をまとめながら天音は航に向かってつぶやくように聞こえるように思い切り苦々しく話し始めた
「……バカにしてるよね、努力してる人間を」
航「ん? 天音、怒ってる?え、そういうつもりじゃ──」
天音「そういうつもりがないから腹が立つの。じゃ、先に帰る」
彼女は背を向けて出ていく。航はなにがどうなったのかわからずポカンとしたままだった。
これが航と天音のすれ違いのはじまりだった。
--放課後、旧校舎の練習室。
全体練習が一段落し、個人パートに分かれての調整が始まっていた。
航がホルンを調律していると、クラリネットの音が途中で止まった。少しして──
「佐々木、さっきの合わせ、三小節目、テンポ走ってたよ」
後ろから天音の声が鋭く飛ぶ。
「え? ……ああ、ごめん、意識してなかったかも」
航が申し訳なさそうに笑いながら振り返ると、天音は眉をひそめたままだった。
「“意識してなかった”って……それ、音楽やってる人の言葉?」
航は返事に困って視線をそらす。
「別に責めてるわけじゃ──いや、責めてるか。音大行く気ないって人に言っても仕方ないかもね〜」
その一言に、練習室の空気がわずかにぴんと張る。
周囲の部員たちがそっと目線をそらす中、航だけが天音の表情をしっかりと見ていた。
その奥にあるのは怒りだけではなく、焦りや傷のようなものに見えた。
「……」
結局、航は何も言わず、静かにチューニングを再開した。
航には気付いてなかったことがあった。




