それぞれの進路
旧校舎渡る風はすっかり涼しくなってきた。
航たちは、よく部活帰りに学校のすぐ前にある庭園のベンチで話をしていた
部活の帰り道に、こうして雑談するのが、最近の日課になっていた。
吹奏楽部では、冬の定期演奏会に向けた練習が始まっている。
だけど、空気はどこか、去年とは違っていた。
──進路。
それぞれの胸に、重たくのしかかっていた。---
「……もう、俺たちも決めなきゃな。」
ぽつり、と翔太がつぶやいた。
その言葉に、誰もすぐには答えなかった。
庭園の道を、小さな列になって下校する小学生たちが歩いていく。
その姿を、みんな無言で眺めた。
ふと、誰かが言った。
「去年の今頃、三年の先輩たちも、こんな感じだったんだな……」
その一言に、航は心の奥で、
──遥先輩の姿を思い出していた。
顔を腫らし、唇を切って、
それでも最後まで、何も言わなかった先輩。
好きなだけじゃ、続けられなかった音楽。
あの光景が、まるで昨日のことのように甦った。
アナ・ミウラは、小石をつま先で蹴りながら言った。
「私、教育学部に行く。
音楽、ちゃんと教えられる先生になりたいから。」
「でも、音大は無理だよ。お金もかかるしさ。」
苦笑いしながら、
それでもまっすぐな目をしていた。
--
伊藤沙耶は、ぎゅっと両手を握りしめた。
「私は、防大に入りたい。
でも、筆記試験も体力も、全部厳しいって……」
「やっぱり無理かもって、思うこともあるけど、
でも諦めたくない。」
夕陽に照らされた横顔は、
小さな決意で震えていた。---
翔太は、深く息をついた。
「……地元に残ろうかな、って思ってる。」
「県外も考えたけど祭りがあるしさ。
伝統、守りたいんだ。」
二百年続く祭りの笛の音が、
彼の血に流れているのだと、航は思った。
航は、仲間たちのそれぞれの想いを、
黙って聞いていた。
それぞれが、
誰かに強制されたわけじゃない。
だけど、
誰もが「好き」だけじゃ進めないことに気づいていた。
選ばなきゃいけない。
進まなきゃいけない。
遥先輩が、
その背中で教えてくれたように。
──音楽を続けるのは、
簡単なことじゃない。
でも。
それでも。
「俺たちは、まだ音楽が好きだ。」
航は、
静かにそう思った。
庭園の木々が風で心地よく音を鳴らして
どこまでも高く、広がっていった




