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本多天音は逃げない



2年生が後輩に囲まれて遥先輩の話をしているとに本多天音は一人譜面に向かっていた。

-全く騒々しい。時間の無駄。

天音にはそうとしか思えなかった。


本多天音は譜面を見つめたまま、指を止める。

練習も終わり静まり返った音楽室。夕暮れの光が譜面に影を落とす。


──本当に、あの人は“逃げた”のかな。

天音は遥先輩のことを考えていた。


知ってる遥先輩はそんなことない人だと思った。

私ならどうするか?


そう思った瞬間、胸がぎゅっと締め付けられた。ある人のことを思い出していた。

あんなにどれだけでも練習して練習してやってたのに…勝手に幻滅して、勝手に失望して。勝手に諦めて。逃げて。

でもあの人は、何も言わなかった。ただ、背を向けただけ。


そしていま、自分はまだここにいる。

でも、進むのが怖くないわけじゃない。


「……私は、逃げない。そう決めたから」


けれど、その決意の奥に、ほんの少しだけ、涙がにじみそうになるのを感じて、天音は深呼吸した。


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