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夕暮れの渡り廊下の孤独な旋律



夏休みは毎日練習練習だがお盆が近づき

部活も少しだけ緩やかな空気をまとい始めていた。


航は、部活の休みの日自転車で

学校の近くを通りかかった。

野球部やサッカー部は練習をまだやってるみたいでグラウンドから元気のいい大きな声が聞こえてきていた。


まだやるのか…

尊敬するしかない。その運動部のやり方には…

そんなこと考えてると


ふと、聞こえた。


かすかな──フルートの音色。


「あれ…」


それは、風に乗って、漂ってきた。そして空に溶けるように、静かに流れていた。


おかしいなあ…部活休みなのに…

誰だよ…

聞いたことない音? こんなフルートいたっけ?


航は耳を澄ませた。

音のする方へいく。


旧校舎を抜け新校舎へと続く階段をそっと上った。

---

屋上に出ると、

夕焼けに染まった空が広がっていた。


その中で──


一人、制服の少女が、

フェンスに背を向けるようにして、フルートを吹いていた。


航は、物陰に身を隠すようにして、その音を聴いていた。


その音は、

誰に向けられるわけでもない。物悲しく、澄んだ旋律。

どこか心の奥を震わせるような音。

その音色は苦しい悲しい辛いといってるようなような気がした。

その反面自己主張の強さが際立つ音。



彼女の背中は、小さく、細かった。

だけど、そこには、言葉にできない重みがあった。

---


やがて、

渡り廊下の下を、運動部の生徒たちが賑やかに通り過ぎていった。


笑い声。

かけ声。

汗の匂い。


彼女はちらりと下を見た。


そのとき──


フェンスの鉄棒を、

小さな足で、

「ガンッ」と蹴った。 

フェンスの鉄の棒は鈍い音を響かせていた。


「え〜」


決して大きな音ではなかった。

でも突然フェンスを蹴るとい行為がフルートとその演奏に似つかわしなくて…

だけど、その一瞬になにかの感情が湧き出てることは航には感じ取れた。

彼女は歯を食いしばるような歪んだ顔をして、

それでも何も言わず、ただじっと立ち尽くしていた。


なにか心の叫びが、

声にならずにあふれ出している気がした。


航は、なぜか、

その場から動けなかった。--


やがて、

彼女は何事もなかったかのように、

またフルートを吹き始めた。


その音は、

さっきよりも、

ほんの少しだけ、震えていた。


航は、その場を離れなかった。


声はかけないほうがいいと思った。


あの孤独な旋律を、

壊してはいけない気がした。


彼女はフルートを片付け始めた


やばい

見つかると思った瞬間にもう気が付かれていた

思い切り睨んでいる

このままはまずいと思って航は声をかけた


「あ~ごめん僕吹部なんで…ちょっと気になって…結城さん?」


咄嗟に出てしまっていた

その生徒は

「はい」

とだけ返事して航の脇をさっさと通り過ぎようとした。

「先輩ですよね。これマイ楽器ですから…」


「あ…そうだよね…すごいね…好きなんだ…」


「……特には…」


彼女はいやいやという態度で返事をしていることが明らかだった。

航はこれ以上は踏み込めないし、踏み込みたくない…踏み込まないほうがいい…

でも彼女がフルートを独学でやる理由…


あのフェンスを蹴っている彼女は…

寂しさ。

羨ましさ。

怒り。

悔しさ。

そんな感情が入り混じったそんな顔つきだったような気がしていた。


航には結城梨沙のその感情がどこからか来てるのかはわかるわけがなかった…

ただ、彼女のフルートには孤独が似合っている…

周りのもの全てに壁を作って拒否するようなものを感じていた…


決して調和しない…

自分はここにいる…

勝手に聞いていろ…

私は私だ…


そんなフルートが周りの音とうまく調和するとは思わなかった…

彼女が周りに合わせてフルートを演奏している姿…

全く想像できない…

どう合わせるんだ…あの音は…

合わせてくれるようにも思えない…


航は自分が勝手に彼女の音を否定的に感じていることに自覚もなかった。


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