音楽隊を目指す少女
吹部にはいろんな部員がいる
この高校は周辺の地域から進学を目指して生徒が集まってくるからだ
航たち吹奏楽部は日々の練習に追われていた。
学校の敷地の端、
林に囲まれた木造の旧校舎。
ピンク色の板壁の塗装は何度も塗り直されている
緑の中でそれはかなり目立つ存在だ
白い窓枠と黒い瓦屋根がアクセントになっている
夏になると、外よりも暑いその校舎で、
汗まみれになりながら航たちは音を重ねた。
その中でも、ひときわ努力を重ねる部員がいた。
伊藤沙耶――
小柄で、いつも元気いっぱいの女子部員だ。
だが、彼女の胸には、しっかりとした目標があった。
---吹奏楽部の練習は厳しかった。コンクールに向けての合奏、パート練習、個人練習……。それに加えて、朝練の前にランニングをし、夜にはジムで筋トレをしていた。
「お前、本当に吹奏楽部員か?」
同級生の坂本亮が苦笑しながら声をかけた。彼は陸上部員で、グラウンドを走る沙耶を見かけるたびに驚いていた。
「吹奏楽って意外と体力勝負なの。特に私は目指すところがあるから」
は笑いながら答える。
「目指すところ?」
「うん、自衛隊の音楽隊」
「マジか、それはすげえな」
亮は感心したようにうなずいた。「でもさ、お前、無理しすぎんなよ。体を壊したら元も子もないぞ」
「……うん、気をつける」
放課後。
航が音合わせをしていると、
外から誰かが全力疾走してくる音が聞こえた。
「ぜぇっ……ぜぇっ……」
旧校舎に向かって汗だくの沙耶が駆けてきた。
「また走ってたのかよ。」
航が呆れ気味に言うと、
沙耶はにっと笑った。
「当然!と言いたいけど、部活に遅れるのは嫌だからね〜5分前の精神だよ(笑)」
「それは海軍とか海自だろー(笑)」
「よく知ってるね〜さてはオタクか〜(笑)」
沙耶との会話はいつもこういうのりになるから航は沙耶と話すのが結構好きだった。
---
この町には、自衛隊の航空基地がある。
青空を切り裂く戦闘機の爆音は、
航たちにとっては日常の風景だった。
だが、沙耶にとっては違った。
航空音楽隊――
そこは、彼女が目指すべき憧れの場所だった。
「親父がさ、音楽隊にいるからね。
子どもの頃、演奏会見に行くの楽しみでさ。もうすっかりオタクよ(笑)」
沙耶は以前話していた。
「でも、今は簡単じゃないんだよ。
試験、めっちゃ厳しいし。音楽だけじゃなくて、走力も筋力もいる。」
航は、空を見上げた。
夕暮れの空を、旅客機が大きな影を引きながら滑る。
「それでも、やるんだな。」
「当たり前でしょ!」
沙耶はきっぱりと言った。
「憧れだから夢だから挑戦しないわけないじゃん、私がやるしかないじゃん。」
その言葉には、
年齢以上の重さが宿っていた。---
腕の筋肉を震わせながら、
唇を真っ赤にしながら、
それでも音を響かせる。
夢に届く日まで
爆音の中で吹くホルンの音のように、
彼女の音はまっすぐに空へと伸びていった。
同じ年なのにもうはっきり目標があるやつもいる
そう思いながら航は紗耶のまぶしい後ろ姿をみていた
沙耶はある日の練習中に長時間の吹奏に加えて、前日のトレーニングの疲労が残っていたのか、突然目の前がくらりと揺れた。
「……っ!」
次の瞬間、視界が暗転した。
気がつくと、そこは保健室だった。
「バカだなお前は」
聞き慣れた声がした。沙耶の父親誠がベッドの横に座っていた。
「……お父さん?」
「顧問の先生から連絡を受けてな。無理しすぎだ」
「でも、私は……」
言いかけると、誠は静かに首を振った。
「確かに音楽隊は体力も大事だ。でもな、一番大切なのは音楽を愛する心だ。無理をして体を壊したら、演奏すらできなくなるんだぞ」
父の言葉に、沙耶ハッとした。
「お前の努力はすごい。でも、無理に追い込むことが努力じゃない。正しい努力をしろ」
その言葉が、沙耶の胸に深く刻まれた




