恩讐の彼方
翔太が
「そういえばさ。この前
じいちゃんから面白い話聞いたぞ〜(笑)」
「最初から面白いっていうなよ〜」
「その面白いじゃなくて、いとおかし…の」
航が顔を向けると、翔太はゆっくり語り始めた。
だがなかなか言葉が出てこない
遠くからわずかだけと低い唸るような音が近づいてくるのがわかってるからだ
その音はいくら話しても相手には聞こえなくなるくらいの音になる
それがわかってるから翔太はわざと話を途中でやめた
その音やがて隣の人の声が聞こえなるく大きくなりそして遠ざかっていくと翔太は続きを始めた
戦後すぐ、
この町には占領軍がやってきた。
飛行場があったからだ。
翔太の祖父の兄は海軍軍人
戦後は旧軍人とその家族にとっては居心地の良くない時代だった。
ある日占領軍の将校一家が、町の家を借りて住み始めた。
その息子――
おじいさんは同じくらいの年の少年が、塀から外を眺める姿を、毎日見ていたという。
近所の子供達は面白半分でその子を見かけると石を投げつけるという荒っぽい始まりだった。
だが、翔太のおじいさんは、そこに加わらなかった。戦地帰りの兄からこう教えられていた。
「人を憎むな。戦争を憎め。相手を知れ。」
その言葉通りおじいさんはその子に対していた。ある日兄がその子を道場に連れてきた。そしておじいさんは、その子の相手をすることに…
おじいさんは米国と戦っていた兄がそんなことをするとは驚いた。
言葉は通じなかった。最初はぎこちなさばかりだったが竹刀を交えるうちに、互いになんとなく互いにわかるようになってきた。
毎日、無言のうちに打ち合い、汗を流した。
町の大人たちはいい顔をしなかった。
陰口も、嫌がらせもあった。
それでも、二人は剣を交え続けた。
そして――
別れの日。
占領軍がこの町を去るとき、
二人は静かに剣を合わせ、深く頭を下げたという。
「それから何十年ものあいだ忘れたことはなかったって
そして人生に一区切りついたときもう一度会おうと思ったんだって
そのうち仕事でアメリカに行くことになって、いって探し始めたんだ
でも全然わからなくて結局その時は諦めて帰国したらしい。
ところがだんだん年取ってくるとどうしても引っかかってきてなんとしても見つけてやろうと思ったらしい。
それでアメリカにしばらく行って探し始めた
なんとかわかったんで会いにいったら何年か前に亡くなってた
相手の人はアメリカに帰ってからも剣道続けてて
まぁ大変だったろうけどね
続けることは
アメリカだからね
それも敵国の武道だから
それでもなんとか続けてなんと段持ちになって道場まで作って何人も弟子育てて
その人もじいちゃんに会いたかったんだって
家族の人が教えてくれたって」
「じいちゃん、言ってたよ。」
翔太は、ふっと笑った。
「『あいつとは、言葉なんか一言も交わせなかった。
でも、一番大事なことは、ちゃんとわかり合えた』ってさ。それでもやっぱりもう一度会いたかった。もっと早くに会いたかった。あの時は言葉を交わさなかったかけど最期に一言でもいいから話ができたら」
「出会いはどんなのでもいみのない出会いなんてないかもしれんから大切にできるなら大切にしないとな
それから後悔しない出会いにしないと」
「まぁじいちゃんの話はこんなだよ
まさかじいちゃんにそんな人生があったなんて知らなかったよ
家族でも知らないことあるんだな」
そういう翔太はいつもの優しそうな顔だった
航は、初夏の空を見上げた。
陽炎のように揺れる空気の向こうに、
戦後の町を歩いた子どもたちの姿が、ふと重なった。
この地方の街にも戦争戦後の歴史が刻まれている。
何百年にもわたる歴史の1ページの一部にいずれそれもなっていくのかと航は思った。
遠くで太鼓が鳴った。
祭りの日は、もうすぐだった。
そして、町も、航たちも――
変わらぬものと、変わりゆくものの中で、音を鳴らし続けていた。




