文武両道 自主自律
佐々木航が進学したのは、地域では有名な進学校だった。
毎年最高学府にも何人か進学していた。
城趾の中に立つその高校は、かつてのお城の名残を今に伝えていた。
校門をくぐると、広いグラウンドの向こうに、古びた天守台が小高くそびえている。
城そのものはもう無かったが、天守台だけが残り、校庭を見下ろしていた。
航が入った吹奏楽部は、そんな学校の中でも少し異質な存在だった。
校訓は「文武両道 自主自律」。
だが「文」は勉強、「武」は運動部を指し、文化部はおまけのような扱いだった。
そんな中、吹奏楽部だけは別格だった。
県内でも常に一位二位を争い、
地元では祭りや式典にも欠かせない存在だった。
卒業生の中にはプロの演奏家になった者もいる。
航は、そんな吹奏楽部に自然に惹かれ、迷わず入部した。
グラウンドの隅に立つ天守台は、トランペットパートの練習場所だった。
天気のいい日授業が終わると、部員たちは楽器ケースを抱えて天守台に集まった。
野球部がグラウンドで練習している最中に、
思いきりコンバットマーチを吹き始める。
当然、野球部からは「うるせーぞ!」と文句が飛ぶ。
だが、それに負けじと、吹奏楽部のトランペットはさらに音量を上げる。
すると今度は、野球部のキャプテンが大声を張り上げた。
「負けるなよ、野球部! 声出せ、声ー!!」
吹奏楽部と野球部、奇妙なエール交換。
そんな活気に満ちた校風が、航はけっこう気に入っていた。
---
吹奏楽部の練習場所は、主に音楽室や空き教室だった。
そして、敷地の端、林に囲まれた木造二階建ての旧校舎も使われていた。
エアコンのない旧校舎は、夏は地獄のように暑く、
冬は芯まで冷え込んだ。
それでも、木の床を踏みしめ、汗をぬぐいながら楽器を鳴らすその時間が、
航にとっては何よりも充実したものだった。
---
学校の裏手には、広い川が流れていた。
堤防に登れば、目の前に江戸時代から続く古い神社が見える。
その堤防の上空は、自衛隊機や旅客機の着陸ルートになっていた。
青い空に小さな白い点がみえると、みるみる近づいてくる。
旋回した時にはもう頭のすぐ上。
見上げると車輪がもう出ててその格納スペースまでみえる。
影がスーっと流れてく。
戦闘機が爆音を上げて頭上を通過する。
そのタイミングで航たちは堤防の上で思い切りホルンを吹いた。
「おい、今だ、いけー!」
「うるさっ!!って言われねぇよな、これなら!」
爆音にかき消される音。
だからこそ、思い切り音を出しても怒られない。
それが、航たち吹奏楽部の、密かな遊びだった。




