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プロローグ
地方都市。
かつて城下町として栄えたこの町は、今では人通りもまばらで、かつての活気はほとんど消えていた。
ただ、古い町並みや神社、そして伝統だけは、途切れることなく今も残っている。
佐々木航は、そんな町に家族とともに引っ越してきた。
父の転勤だった。
小さな製造工場に勤める父の異動で、航はこの土地にやってきた。
新しい学校。
知らないクラスメート。
馴染みのない町並み。
期待と不安が入り混じる春の朝。
転校手続きを待つ間、航は校舎の隅にある音楽室で過ごすよう指示されていた。
誰もいない音楽室。
白いカーテンが、静かに風に揺れていた。
航は、持ってきたホルンを取り出した。
小さいころから両親に教わりながら吹いてきた楽器。
静かな空間に、ホルンの柔らかい音がそっと響き渡る。
(これから、何が始まるんだろう――)
そんな想いを胸に、航は今日も、音を鳴らしていた。




