表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/20

第4話 “巫女”っていうより、“ただの農家ですわよ!?”

露の光る畑に、私はクワを構えました。

土の感触、草の香り。

――これが一番落ち着く時間ですわ。


「お嬢様、本当に畑仕事を……? “外交の巫女”が?」


「ええ。にんじんたちが呼んでますの。

放っておくと、拗ねますわよ?」


マリアは天を仰ぎました。

「拗ねるのは作物ではなく、各国の大使たちでは……」


……まあ、似たようなものですわね。


私は軽やかにクワを動かします。

コツン、サクッ、コツン。

すると、なぜか周囲から拍手が湧きました。


「巫女様! その動き……祈りの舞のようだ!」


「土を愛でる姿に、神々の息吹を感じます!」


……また何か誤解されてますわね。


「違いますの。ただの農作業ですわよ?」


「“労働こそ神聖”という新たな啓示だ……!」


「はい!? そんなつもりでは!」


でも止めても聞いてくれません。

気がつけば畑の周りに、神官、外交官、兵士、画家まで集まっていました。

どうやらスケッチ大会が始まったらしいです。


マリアがこっそり耳打ちしてきます。


「お嬢様、“リリアナ式農耕信仰”というものが……広まりつつあるそうです」


「農耕信仰……?」


「ええ、“勤勉と収穫の神リリアナ”だとか」


「……なんだか肥料の名前みたいですわね」


――――――


その頃、王都・王太子執務室では。


「なぜだ!!!」


アルノルトの叫びが響き渡りました。


「リリアナ教の教本が出回っております!」


「早すぎる! どこで印刷した!?」


「“善良なるパンと農耕の聖女”――と、殿下の肖像も添えられております」


「なぜ私までっ!」


「“堕落した元婚約者”として反面教師に……」


「ぐぬぬぬぬ!」


セレスティーナが紅茶を啜りながら微笑みます。


「殿下、これが“真実の愛”の代償ですわね」


「笑うなセレスティーナ! お前の名も“虚飾の令嬢”として出ているぞ!」


「えっ!?」


二人の悲鳴が王宮にこだましました。

外交問題の次は宗教問題。

王国は、もはや慢性的にざわついています。


――――――


「お嬢様、また人が……」


「まあ。今日は商人さんも?」


「はい。“リリアナ式農具”の特許申請に来たとか」


「農具って……ただのスコップですわよ?」


「“神聖な道具”と呼ばれております」


私はスコップを見つめました。

いつも通りの鉄製。持ち手が少し削れている。

これが神具……? ちょっと汚れてますけど。


「お嬢様、いっそ商標登録を――」


「いけませんわマリア。それでは信仰に便乗した商売になります」


「……! その清らかな発言がまた信徒を増やしてしまいます!」


もう止まりません。

私はただ畑を耕したいだけなのに、耕すたびに新しい宗派が生まれます。


遠くから賛美歌のような声が聞こえました。


“リリアナ様は今日も働く、パンを焼き、畑を耕す――”


……ちょっと韻が甘いけれど、まあいいですわ。


「マリア。にんじんの収穫、手伝ってくださる?」


「喜んで。……神の御業のお手伝いを」


「ただの草取りですわよ」


――――――


その日の夜。

私の元にまた手紙が届きました。

封蝋には王家の紋章。差出人は――王太子殿下。


『お願いだ、頼むからもう何もしないでくれ。

何もしないことが、今いちばん平和なんだ。

どうか、どうか休んでくれ。』


「まあ……心配性ですわね。優しい方」


「お嬢様、それ心配ではなく悲鳴です」


マリアのため息が聞こえました。


私は微笑みながら、手紙をそっとテーブルに置きます。

その上に置いたのは――今日収穫したにんじんの花束。


平和の象徴って、案外オレンジ色なのかもしれませんわね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ