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第18話 “トマトが銀河を冷ます”──焦げそうな宇宙を救ったスープの奇跡

銀河統一ブレッド・アコードが締結されて一週間。

地上も空も穏やかでした。

畑では新しいトマトが実り始め、私はせっせと収穫していました。


そこへ、マリアが駆け込んできました。


「お嬢様ぁ! たいへんです! 宇宙で“パン雲”が暴走しています!!」


「……パン雲?」


「はい! 聖女様の晩餐で生じた“香りの残滓”が、

銀河規模で発酵を続けているのです!」


「まぁ……膨らみすぎましたのね」


ベルナーが青ざめました。


「このままでは、パン雲が恒星を包み込み、銀河をオーブン状態に!!」


「それは焦げますわねぇ」


「焦げるどころか、宇宙焼成です!!」


マリアが震える声で言いました。

「お嬢様、今すぐ“冷却手段”を――!」


「そうですわね。……じゃあ、トマトですわ」


「トマト!?」


「トマトの水分は熱をやわらげますの。

冷ましながら、味を整えてくれるのですわ」


ベルナーが叫びました。

「聖女様、“宇宙トマト投擲作戦”を発動します!!」


「……名前が物騒ですわね」


――――――


その夜。

私は再び宇宙船“アウロラ号”に乗っていました。


外の光景は――赤く、まるで焦げかけのパン。


「……だいぶ焼けてますわね」


「温度上昇率、毎秒一度! 星々がこんがり状態です!!」


「では、トマトソースをかけましょう」


私は笑って、赤い果実を手に取りました。

艶やかで、生命そのもののような色。


「――いざ、投入ですわ!」


トマトが宇宙へ舞い、破裂し、光を散らしました。

無数の赤い滴が、焦げたパン雲を包み込みます。


「お嬢様! 温度が下がっていきます!」


「まぁ、いい香りになってきましたわね」


マリアの通信が届きました。

「……“宇宙がトマトスープの香りに満たされた”と報告が……!」


「うふふ、皆さまお腹が空きますわねぇ」


――――――


王都。

広場に設置された望遠鏡で、人々が空を見上げていました。

星の海が、赤いスープのようにきらめいています。


セレスティーナが涙をこぼしました。

「殿下……トマトが、宇宙を冷ましておりますわ……!」


「いやもう、何をどう受け止めれば……!」


アルノルトは頭を抱えながらも、微笑みました。


「……でも、きれいだな」


「ええ。“焦げた世界に、やさしい色を”ですわね」


――――――


トマト雲が沈静化したあと。

星々の種族たちは再び通信を送ってきました。


『あたため、まって、しんじる、そして……ひやす。

われら、まなびました。』


「まぁ、応用が早いですわね」


『われら、あなたを記す。“冷静の女神”として。』


「……名前の温度差がすごいですわね」


マリアが笑いながら言いました。

「お嬢様、宇宙がスープに感謝しております」


「まぁ、それなら作ったかいがありましたわ」


――――――


帰還後。

私は静かな畑で、夜風を吸い込みました。


焼ける香り、冷める風。

そのバランスが、ちょうどいい。


「焦げても、冷ましても、世界はまたおいしくなりますのね」


マリアが微笑みました。


「ええ。お嬢様のスープで、銀河がひとつになりました」


私は日記を開いて書きました。


――トマトが宇宙を救った。

――でも、スープは地球のほうが美味しい。

――明日はパンを焼こう。焦げないように。


空を見上げると、赤と金の星々が湯気のように瞬いていました。

宇宙も、そろそろ食べごろですわね。

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