第12話 “聖女、夢の中で国際会議を主催する”──寝言が外交文書に!?
昼下がり。
今日は天気がよく、風がやわらかい。
私は縁側でお茶を飲んで、マリアに言いました。
「ねむいですわねぇ」
「……お嬢様。いま世界が“聖女安眠祈願週間”に入っております。
つまり、“お嬢様が寝る”ことが国際的行事です」
「まぁ、光栄ですわね。では期待に応えて寝ますの」
「ほんとうに寝るんですね!?」
私はクッションを抱いて、ごろん。
日差しがまぶたをあたためていきます。
パンも焼けてるし、畑も静か。最高ですわ。
そして――夢を見ました。
――――――
夢の中。
大きな円卓。
両側には王族、神官、外交官、兵士。
……全員、どこかで見た顔ばかりです。
「ええと、ここはどこかしら?」
「“夢界国際会議”でございます、リリアナ様!」
夢のマリアが笑顔で答えました。
「各国の代表が、聖女様の夢にて政策を協議しております!」
「夢の中で!? 私、寝てるのに!?」
「はい、寝てるからこそ中立なのです!」
「理屈が寝てますわね!!」
壇上の使節が立ち上がりました。
「リリアナ様、本日の議題、“パン関税の撤廃”について!」
「関税? ……パンは皆で食べればいいじゃありませんの」
「全会一致で可決!!」
「はやっ!?」
次の代表が叫びます。
「では次に、“にんじん価格安定法”を!」
「にんじんは家庭菜園で十分育ちますのよ?」
「それだ!!」
「リリアナ式自給自足条約、成立!!」
拍手が夢の空間を満たしました。
私は額を押さえました。
「……夢なのに、なんでこんなに現実味が……」
夢マリアが小声で囁きます。
「お嬢様、これは実質、外交の場です。
各国が“リリアナ様の夢でのみ和平が成立する”と信じております」
「そんな非現実的な……」
「いま、王都の記者が寝ながらメモを取っています」
「それ、夢日記じゃありませんの!!?」
――――――
翌朝。
私は目を覚ますと、机の上に分厚い書簡の束が積まれていました。
「……マリア、これ何かしら?」
「“夢界会議決定事項”の正式記録です」
「はぁ!? 夢だったんですのよ!?」
「はい。ですが、各国が“夢中条約”として批准いたしました」
「夢中……!? 夢の中!? それ洒落になってますの!!?」
ベルナーが涙ぐみながら報告します。
「お嬢様、世界史に新しい時代区分が追加されました。“夢界期”でございます!」
「ちょっと待ってくださいまし!? わたくし、ただ寝ただけですのに!!」
「ええ、寝ただけで外交成立です!」
「どんな世界ですのここは!!」
――――――
王都。
アルノルト殿下は寝不足の目で報告書を睨んでいました。
「……夢で外交が成立してる……?」
「はい。各国代表が同時に夢の中でリリアナ様と対話したと……」
「そんな馬鹿な……俺は見てないぞ!」
「殿下は寝落ちのタイミングを逃されたようです」
「夢の参加タイミング!? 会議アプリか何かか!?」
セレスティーナが真顔で言いました。
「殿下、いまや夢が国境を越えましたの。
“精神的インフラ”の整備が進んでおります」
「誰が整備してるんだよォ!!」
――――――
夕方。
私は日記を開きました。
――今日は夢の中で会議をした。
――パンが自由貿易になったらしい。
――にんじんの価格が下がった。良かった。
――起きたらハーブティーが冷めてた。
「……夢も、現実も、忙しいですわねぇ」
マリアが言いました。
「お嬢様、今夜から“国連夢界支部”が設立されるそうです」
「支部って、夢の中に!?」
「ええ。寝れば入れるそうです」
「まぁ、便利ですわねぇ……でも寝不足は敵ですのよ?」
「お嬢様が言うと説得力が違います……」
私は紅茶を飲み干し、静かに微笑みました。
世界が眠る夜、私は安心してもう一度まぶたを閉じます。
――どうやら、今日も平和ですわ。




