第九話 魂の継承
アルベルトの死の真相を知り、クララがRustyを創造した理由を理解したエリアスは、Rustyの存在をこれまで以上に大切に思うようになった。
Rustyは、単なるアンドロイドではなく、クララの想いとアルベルトの魂が宿る、かけがえのない存在なのだ。
エリアスは、Rustyと共に、クララの残した未完成の肖像画を完成させることにした。
Rustyの記憶にあるアルベルトの面影を頼りに、少しずつ筆を進めていく。
最初は戸惑いもあったが、描いているうちに、エリアスの中に不思議な感覚が湧き上がってきた。
まるで、クララの手が自分の手を導いているかのように、筆が自然と動き出すのだ。
Rustyは、静かにその様子を見守っていた。
時折、アルベルトの表情や仕草について、細かくアドバイスをしてくれた。
何日もかけて、二人は協力して肖像画を完成させた。
そこには、若き日のクララと、優しい笑顔のアルベルトが、寄り添って立っていた。
空白だった隣に、ようやく愛する人が描かれたのだ。
絵が完成した時、エリアスは深い達成感と、言いようのない寂しさを感じた。
これで、クララの長年の願いが叶ったのだと思うと、心が温かくなった。
しかし、同時に、物語が終わってしまったような、空虚な気持ちもした。
そんなエリアスの気持ちを察したように、Rustyは静かに語り始めた。
「エリアス様、クララ様はよく仰っていました。
『芸術は、魂を繋ぐ架け橋になる』と」
「架け橋……?」エリアスはRustyの言葉を反芻した。
「はい。クララ様の描いた絵、そして彼女が残した想いは、あなたへと確かに受け継がれています。そして、私もまた、その想いを共有する存在です」
Rustyの言葉に、エリアスは改めて気づかされた。
クララの魂は、絵画を通して、そしてRustyを通して、確かに自分の中に生きているのだと。
その夜、エリアスはRustyと共に、完成した肖像画を前に静かに佇んでいた。
月明かりが二人の影を長く伸ばす。
「ありがとう、Rusty」エリアスは心からの感謝を込めて言った。
「君がいなかったら、僕はきっと、おばあちゃんのことを何も知らずにいただろう」
「私こそ、感謝しています、エリアス様」Rustyは穏やかに微笑んだ。
「あなた様と出会えたことで、私は再び、クララ様との記憶を鮮やかに蘇らせることができました」
二人の間には、言葉を超えた深い絆が生まれていた。
それは、祖母と孫という関係を超えた、魂のレベルでの繋がりなのかもしれない。
エリアスは、これからもRustyと共に、クララの残したものを大切に守り、そして、自分自身の芸術を探求していくことを決意した。
祖母の情熱、アルベルトの愛、そしてRustyの存在。
それらはすべて、エリアスの人生を豊かに彩る、かけがえのない宝物となるだろう。