第八話 新たな手がかり
アルベルトへの手紙を通して、クララの過去の恋愛を知ったエリアスだったが、なぜ二人が完全に途絶えてしまったのか、その真相は依然として謎のままだった。
そんな中、エリアスはクララの遺品の中から、古いトランクを見つけた。
鍵がかかっていたが、Rustyの器用な指先によって、見事に解錠された。
トランクの中には、色褪せた写真や手紙、そしていくつかの古い小物が入っていた。
その中に、一冊の小さな手帳を見つけた。それは、アルベルトが使っていたものらしかった。
手帳を開くと、アルベルトの几帳面な文字で、日々の出来事や考えが綴られていた。
異国での苦労、芸術への情熱、そしてクララへの募る想い……
読み進めるうちに、エリアスは衝撃的な記述を見つけた。
アルベルトは、異国で重い病に侵され、故郷へ帰ることができなくなっていたのだ。
「クララ、会いたい。もう一度、君の笑顔が見たい。でも、この体では……」
手帳の最後のページには、日付と短いメッセージが書かれていた。
「永遠に、クララを愛している」
エリアスは、言葉を失った。
アルベルトは、クララを想いながら、異国の地で静かに息を引き取っていたのだ。
なぜ、この事実がクララに伝えられなかったのだろうか?
Rustyもまた、手帳の内容に深く心を痛めているようだった。
「クララ様は、アルベルト様の死を知らなかったのですね……それは、あまりにも悲しいことです」
エリアスは、マリアに連絡を取り、アルベルトの手帳を見つけたことを伝えた。
マリアは驚き、そして悲しんだ。
「そんな……アルベルトは、ずっと前に亡くなっていたのね。クララは、最後まで彼のことを心配していたわ」
マリアは、アルベルトの死がクララに伝えられなかった理由を語ってくれた。
アルベルトの家族は、クララとの関係を快く思っておらず、彼の死を知らせなかったのだという。
エリアスは、祖母が抱え続けたであろう、報われない想いに胸が締め付けられた。
アルベルトは彼女を愛していたのに、その想いは永遠に届かなかった。
その夜、エリアスはRustyと共に、クララが描いた肖像画の空白に、そっとアルベルトの面影を重ねた。
二人は、時を超えて、ようやく一つの絵の中に並び立つことができた。
しかし、エリアスの心には、まだ一つの疑問が残っていた。
クララは、なぜRustyを創造したのだろうか?
なぜ、自分の記憶や感情の一部を、彼に移植したのだろうか?
手帳の中に、アルベルトがクララに宛てた、最後の手紙のコピーを見つけた。
それは、未完成のまま途絶えていた手紙だったが、最後にこう書かれていた。
「もし、私が先に逝ってしまったら……君は、決して一人で生きていかないでほしい。私の魂は、いつも君のそばにいるから――」
エリアスは、その言葉を読んだ時、全てを理解した気がした。
クララは、最愛のアルベルトを失った悲しみを乗り越えるために、彼の魂を宿す存在を創り出したのではないか。
それが、Rustyだったのだ。
Rustyは、クララの記憶と感情を受け継ぎながら、彼女の孤独を癒し、心の支えとなって生きてきた。
そして今、その役割は、エリアスへと引き継がれようとしていた。