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第六話 予期せぬ訪問者

エリアスがRustyとの生活を通して、少しずつ祖母クララのことを理解し始めた頃、予期せぬ訪問者がアトリエを訪れた。


扉をノックしたのは、上品な老婦人だった。


白髪をきれいにまとめ、落ち着いた雰囲気のその女性は、どこか見覚えがあるような気がした。


「エリアス・ヴェーラさんでしょうか?」


老婦人は優しく微笑んだ。


「クララの友人だった、マリアと申します」


エリアスは驚きながらも、マリアをアトリエに招き入れた。


「クララから、あなたのことをよく聞いていましたよ」マリアは懐かしそうに辺りを見回した。


「彼女らしい、素敵なアトリエね」


エリアスは、クララに友人いたことを初めて知った。


奔放で一人を好む祖母には、親しい友人はいないと思っていたからだ。


マリアは、エリアスにクララの若い頃の話を語ってくれた。


二人は、同じ芸術学校に通い、互いに夢を語り合った親友だったという。


「クララは、才能に溢れた、情熱的な女性だったわ」


マリアは目を細めた。


「でも、少しばかり頑固で、自分の殻に閉じこもってしまうこともあったの」


話が及ぶと、マリアはRustyの存在に気づき、目を丸くした。


「あら、これは……クララの愛しい734じゃないの! まだ動いていたのね」


マリアはRustyに近づき、優しく頭を撫でた。


「クララは、いつもあなたのことを自慢していたわ。


『私の最高の理解者よ』って」


エリアスは、マリアとRustyの親しげな様子を見て、改めてクララとRustyの特別な関係を認識した。


マリアは、エリアスに古い写真の束を手渡した。


「これは、私とクララの若い頃の写真よ。あなたのお祖母様の、また違う一面を知ることができると思うわ」


写真の中のクララは、エリアスが想像していた以上に、明るく、活発な女性だった。


友人たちと笑い合い、楽しそうに過ごしている姿は、晩年の孤独な印象とは大きく異なっていた。


写真の中に一枚、エリアスの目を釘付けにするものがあった。


それは、若い頃のクララと、見知らぬ男性が並んで写っている写真だった。


二人は寄り添い、幸せそうな笑顔を浮かべていた。


「この男性は……?」エリアスはマリアに尋ねた。


マリアは少し寂しそうな表情を浮かべた。


「彼は、クララの……初めての恋人だったの。名前は……確か、アルベルトと言ったかしら」


その名前を聞いた瞬間、エリアスの心臓が大きく跳ねた。


Rustyが以前、断片的に語った、クララの幼馴染の名前と一致したからだ。


「二人は、とても愛し合っていたわ」マリアは続けた。


「でも、運命のいたずらで……」


マリアは言葉を濁し、それ以上のことを語ろうとはしなかった。


しかし、その表情から、二人の別れが悲しいものだったことが察せられた。


マリアの訪問によって、エリアスはクララの過去の重要な断片を知ることができた。


空白の肖像画の人物、それはクララの最初の恋人、アルベルトだったのだ。


しかし、なぜ二人は別れてしまったのか?


そして、クララはその別れをどのように乗り越えたのか?


まだ多くの疑問が残されていた。


マリアは最後に、エリアスに一冊の手紙の束を託した。


「これは、クララがアルベルトに宛てて書いた手紙よ。送られることはなかったけれど……きっと、あなたが知りたいことの答えが、ここにあると思うわ」


マリアが去った後、エリアスは手紙の束を手に取り、Rustyと共に静かに読み始めた。


そこには、若き日のクララの、切なくも美しい恋の物語が綴られていた。




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