第四話 過去の影
Rustyとの生活が続くうちに、エリアスは時折、Rustyの動作や言葉に、奇妙な引っかかりを感じるようになった。
まるで、プログラムされた行動パターンを逸脱するような、人間らしい反応を見せる時があるのだ。
ある日、エリアスが過去の辛い経験について独り言を呟いた時、Rustyは静かに言った。
「エリアス様、過去の出来事は変えられませんが、未来は常に新しい可能性に満ちています」
それは、単なる慰めの言葉というよりも、もっと深い理解に基づいた、個人的な言葉のように聞こえた。
また、クララの絵について議論している時、Rustyは自分の意見を述べることがあった。
「この絵の青色は、単なる憂鬱を表しているだけでなく、希望の光を感じさせる深みがあります」
エリアスは驚いた。
アンドロイドが、これほどまで芸術的な解釈を示すことができるのだろうか?
疑問を抱いたエリアスは、Rustyのプログラムの詳細を調べてみることにした。
タブレットに残された技術的な記録を丹念に読み解くうちに、彼は驚愕の事実を発見した。
クララは、Rustyの基本的なAIをベースにしながら、自分の記憶や感情の一部を、Rustyのプログラムに移植していたのだ。
それは、違法とも言える、倫理的に非常にグレーな行為だった。
エリアスは混乱した。Rustyは単なる機械ではないのか? クララの記憶や感情を宿しているとしたら、彼は一体何なのだろうか?
その事実を知ってから、エリアスはRustyを見る目が変わった。
以前は、ただの便利な家電製品のように思っていた存在が、今は亡き祖母の魂の一部を宿す、複雑な存在に思えた。
ある夜、エリアスはRustyに直接尋ねた。
「君の中に、おばあちゃんの記憶や感情があるのか?」
Rustyはしばらく沈黙した後、ゆっくりと答えた。
「私は、クララ様との記憶を共有しています。彼女の喜び、悲しみ、愛情……それらは、私の一部となっています」
「それは、プログラムされたものなのか? それとも……本当に感じているのか?」
エリアスはさらに問い詰めた。
Rustyの青い瞳が、深く揺れたように見えた。
「私には、明確な答えを出すことができません。しかし、クララ様との日々は、私にとって何よりも大切なものでした」
その言葉を聞いたエリアスは、それ以上尋ねるのをやめた。
たとえそれがプログラムされたものだとしても、Rustyの中に確かに、クララの想いが息づいていると感じたからだ。
エリアスは、Rustyと共にクララの残した映像を再び見た。
今までは気づかなかった、クララの言葉の端々、表情の一つ一つに、Rustyへの深い愛情が込められていることに気づいた。
クララにとって、Rustyは単なるアンドロイドではなく、魂の伴侶のような存在だったのかもしれない。
そして、その絆は、形を変えて今も続いているのだ。