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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ふつうにこわいぞ! 原作ごちゃまぜアンソロ世界

転生先は乙女ゲームだけじゃないらしいけど、死に急ぎ女の最期を見届ける。

 あ、これ乙女ゲームだ。そう思ったのは私と同じように転生したらしい女の子が次々と恋愛イベントを起こしてるのを見たから。君子危うきに近寄らず……と思った瞬間、そんな言葉この世界には無いと気づいて、数珠繋ぎに過去生を思い出した。思い出したけど、この世界複数の原作が混じっているということも理解してしまった。


 あの女の子は【フェアリーテイルは眠らない】という乙女ゲームの主人公だし、国王と王妃は【ミスティック・ハーツ】という児童小説のヒーローとライバルヒロインじゃない? メインヒロインどこ行ったの? 神話に描かれているのは【しろいドラゴンのふしぎなはなし】っていう昔からある絵本のままだし、きっと私の知らない原作も混じってる。ひい、怖い。


 父の武功のおかげで一代限りの準男爵の恩恵を得てるだけの私にはキャパオーバー! というか、たぶんあの子以外にも転生者がいるもの! 辺境の伯爵家嫡男、ロイル・ラルヴァリエ様が提案するドレスのデザイン、現世の人気ゲームのキャラのものとそっくりだし! パクリじゃん! パク……出回ってるデザイン画が早世してSNS阿鼻叫喚したあの絵師の絵柄と同じだ……あれ……もしかして……? ……神絵師本人……?


「ルシア、どぉしたの。おかしなね」

「フィーラ……」


 私が部屋の隅で呻いていたら、同室の友人が心配して声をかけてくれた。きっと彼女も何かの主人公なのかもしれない。

 フィーラは豊かな夕焼け色の髪をふたつに結んだ、とても可愛らしい『魔女の養い子』。学園に入学するまでは魔女の世界にいたから、少しだけ言葉の響きが不思議な子。


「私、転生者なの……!」

「おかしなねえ」


 やれやれ。という顔をして私の頭を撫でくりまわすフィーラに抱きついて唸り続けた。この世界では『転生者』なんて言葉はない。だからフィーラだって私の言葉を理解してくれない。フィーラは逆さ言葉を倍速したような魔女言葉で何かを呟いたあと私の目を覗き込んで「地球?」と聞いた。  は?


「帰ろおか? 地球なら、ドアがあるから入れる。ノクサルヴェは滅んでるからやめたほおが良い。 燈幻縁環界は、人の形だと生きていけないから身体をやめたほおが良いのよ」

「知らない世界がいっぱい出てきた……」

「暁紅天土? エリュナス?」

「まだある……」


 指折り数えてる指がまだまだ知らない世界があることを証明していて、なんか小さなことに拘ってたような気がしてきた。そうよね、これだけ世界があるなら原作複数混ぜ合わせアンソロジー世界だってあるよね……。


「帰るの手伝えるけど、ルシア居なくなるのさみしいのよね。やめな?」

「うん、私もフィーラとはなれるのいやだからやめる」

「賢い選択」


 満足そうに頷くフィーラは、魔女の養い子だけど肉体は人間。子供の頃に魔女の世界に紛れ込んで、魔女の世界で成長したから感性と思考が魔女になっている。

 フィーラのように他種族との関わりが強い生まれの子は、そういえば学園にたくさんいた。彼らもまたなにかの物語の登場人物なんだろうなあ……。もしかしてモブって私だけじゃないかな。いいんだけど、ちょっと疎外感。






 そう思っていたら、乙女ゲームヒロイン転生(推定)がフィーラと何かを話してることが多くなった。授業終わりに「フィーラ、ちょっと来てよ」と強気に連れ出していく。は? フィーラが優しいからついていってくれてるだけで、魔女の養い子は貴族階級外の特別な存在なんですけど? なんだこの女……もっと丁寧に扱え……『さん』を付けろよ……何かあったら父譲りの武力で話し合いも辞さないんですけど……。


 三日連続で連れていかれた挙句、休み明けに出会い頭に「あれは何よ!」と怒鳴りつけてきた(アマ)にフィーラの後ろで全力の震脚で威嚇した。不意に鍛錬をしたくなっただけです他意はありませんが。


 我が父直伝の一撃で足場を揺らしたら(アマ)が無様に転んで、フィーラが「問題ない?」と助け起こそうとした。その手を振り払って「もういいわよ! 化け物!」と言いやがったので、殴ろうと思ったけど逃げられた。 おfuck!


「ごめんフィーラ! 私に中距離攻撃の才能さえあれば……!」

 父のように縮地と発勁が使えれば……! 女の子だからやらなくていいよなんて本気にせずに、もっと真面目に鍛錬を続けていたら、いまごろ奴を内臓から破壊できたのに……!


「いいのよお」

「フィーラは優しすぎるよ! あの無礼者、許さないんだから!」

「いいのよお、死ぬのよ」

「突然の殺意?」


 「違うのよお」とフィーラは笑いながら手を振る。彼女自身に殺意は無いらしい。よかった。このまま私が殺意をたぎらせとくね。


「魔女の紹介を頼まれたのよお。だから、紹介したのにね、対価がおかしいかったのよねえ」

「ひっええ、怖い話じゃない」


 良い魔女は人間に関わらない魔女だけと言われるこの国では、悪い魔女は『お人好しのネルフィルド』と『嘘つきグラーニェル』。嘘つきグラーニェルは戦場で死にかけの兵士に「お母さんよ」と声をかけて騙された兵士を魔女の国へさらっていくといわれている。


 そうなると、フィーラが紹介したのはお人好しのネルフィルドの方だろう。【魔女】は種族名なので、お人好しのネルフィルドは外見的には男性の魔女だ。実際性別に意味がある種族なのかは未だ解明されていない。フィーラのような養い子から話を聞いても、彼女たちにもよく分からないらしい。精霊とかと同じ存在なのかもしれない。増えないし、恋愛感情はない。ただ情はあるので、魔女の国へ迷い込んだ養い子を育ててはくれる。


「知らなかったの? 彼女」

「そおみたい。可哀想ね」

「入学説明会で言われてたじゃない……」

「ねー」


 「かなえようか? たすけようか?」と頭上から落ちてくる声にはこたえないように、戦場で死にかけた時に「お母さんよ」と声をかけてくる声にはこたえないように。


 この世界において、これは学園の怖い話ではない。実在する魔女の誘い。嘘つきグラーニェルに攫われたものは帰ってこないからわからないけど、お人好しのネルフィルドはちょくちょく人に関わりに来る。だから逸話が沢山残ってるのに、わざわざ紹介してもらって会ったの? フィーラは法の外のものだから無罪だけど、命の保証を全力で投げ捨ててる……。人を巻き込んで自殺するつもり?


「魔女をなんだと思っていたんだろ……というか、彼女なにを願ったのかな」

「『なんでも』を対価に、魅了の術をかけてもらったね。『なんでも』だから、『なんでも』持ってかれる。いのちかな。いのちかも。ネルフィルドは、人間のことが好きゆえに集めるのよ」

「ひええ」

「魂の中身の、なにか大切な部分あつめてる。悲しみと苦しみと不幸をもってるから、人間がくれない『良いもの』のなにかをもっていったかもねえ」

「ひええ」


 確かに、魔女に願うなら悲しみを忘れたい苦しみを無くしたい不幸を退けたいは願う者もいそうだけど、対価以外だと『良いもの』は手に入らないだろうし……。

 【魔女】のこと、前世のファンタジーでよくある親切なお助けポジションだと思ってたのかな。そもそも彼女がヒロインだったゲームに魔女なんて居ないんだけど、そこに違和感は無かったのかな……。



 【魔女】は種族名。良い魔女は人に関わらない魔女だけ。パッと見は人間と似た形をしているだけで、致命的に違うなにかがある。

 お人好しのネルフィルドは見上げるほどの巨躯と地に着くほどの長髪をした4本腕の男だし、嘘つきグラーニェルは複数の瞳孔がある眼に、二列に重なった鋭い歯を持つ夫人の姿をしている。端的に言って、前世で言うところの都市伝説の化け物。それを加味すると、フィーラに「化け物」と怒鳴りつけた意味も分かるかもしれない。わかると許すは別物なので、許しはしないけど。


 良い魔女に育てられたフィーラはにこにこと笑いながら「しかたあないよね、対価は自分で決めるゆえ。ネルフィルドもたくさんよろこぶでしょお」と頷いた。私は命をかけてまでモテたいという気持ちはわからないけど、死が確定してる者の事なので見逃そうかな。フィーラも気にしてないし。







 それから3ヶ月程度で人生の盛者必衰を味わって断頭台の露と消えた彼女(ずっとあのアマと呼んでいたので名前は知らない)の処刑で、今日は街道が盛り上がっている。フィーラと一緒に出店をまわりながらホットクを食べ歩きしている。この世界に韓国は無いのにホットクはホットクのまま存在してるので、もしかすると日本人以外もいる? そのおかげで馴染みのある食べ物を楽しめているんだけど、本当になんなのこのアンソロジー世界。誰の地雷にも配慮してないけど、誰の采配でこの世界が成り立ってるというの。いるのかな、神。


「たのしいねえ、処刑! 週に一回はやりたいねえ!」

「これが人間の娯楽ってものよ」

「魔女たちに教えるねえ!」

「待ってやめて許して」


 フィーラの養い親は良い魔女だけど、お人好しのネルフィルドや嘘つきグラーニェルとも付き合いがあるから危ない。悪い魔女たちにそんな情報漏らしたら良かれと思って毎日処刑イベントが起こるような災難を人間にぶち当ててきそう。



 基本的に、悪い魔女たちは人間のことを好きでいてくれるんだけど、意思疎通が中途半端に出来ない存在が自分たちの理論で人間のことを理解しようとして訳分からないことをするという状態。わかりやすくいうとそう、魔女は人間(わたしたち)のことを猫ちゃんだと思ってるんだとおもう……。


 お人好しのネルフィルドが人間の前に出てちょくちょく「かなえようか? たすけようか?」と言うのは、人間が猫に「どちたの~~?」と声をかけているのと同じこと。どうもしないよほっといてくれ。

 それでいうと、嘘つきグラーニェルは人間が野良猫を拾って保護猫活動しているのと同じなのかもしれない。

 フィーラだって人間の身体だけど、魔女の世界に適応した結果普通の人間の数倍強いし感性だってほとんど魔女。たまに私に「どちたの~?」してくることもある。どうもせんわい。



「処刑ってものは自然発生で月に一回あるかないかくらいがいちばん楽しいのよ」

「そお?」

「そうよ、じゃないとお小遣いが足りなくて悔しくなるでしょ!」

「たしかに」


 出来ればお小遣い支給直後の月初めにやってくれたらいいけど、そんなこと言ったら『良かれと思って』月に一回月初めに処刑相当の事件事故加害者が発生する災難が起こりそう。魔女との会話では、解釈の幅が広ければ広いほどおっそろしいことになるって童話では相場が決まってるのよ。


「マリエッタ様のところにいって、ハンカチ買って帰りましょ」

「血染めの? 流行り?」

「病避けと火除の加護があるんですって。記念よ記念」

「お揃いね、うれしいのよね」


  同級生のマリエッタ・コルネッタ様は由緒正しい処刑人の一族の姫君なのに、私みたいな平民にトゲが生えた程度の準男爵家の小娘にも朗らかに対応してくださる人間性の素晴らしい方だもの。そんな方から直々にハンカチを受け取れるなんて素敵。そう思ってたら、神絵師疑惑のロイル様が私たちの進む道からやってきて「木綿のハンカチは残り少ないぞ!」と教えてくれた。


「走るよフィーラ!」

「うん?」


 おfuck! 油断してた! フィーラを背負って駆ける私は、この時に初めて縮地が使えるようになっていた。やはり欲望、欲望は人を強くする。血染めハンカチのラスト2に滑り込めたので、やっぱり処刑って最高!



 私も随分、この世界に適応してるなあ……。




ルシア・ワン

前世日本人だった意識が強めなせいか、そもそも今世の父がめちゃくちゃ中国ルーツっぽい武術で成り上がってることに意識がいってない。今世と前世がうまく混じっていい感じに世界に適応してる少女。


フィーラ(姓無し)

魔女の国に迷い込んで魔女に育てられた養い子。学園入学と共に人間の世界へ留学に来た。魔女と人間は言語が違うのでところどころ言葉がおかしい。いつもニコニコ優しいが精神性は魔女のものなので油断したら「良かれと思って」とんでもないめにあわされるかもしれない。貴族制度の外の不可侵の方。


マリエッタ・コルネッタ

処刑人一族の姫ですわ~~! ハンケチ売りまくってガッポガッポですわよ~~!

貴族制度の外の【正義】の方。


ロイル・ラルヴァリエ

一般通過前世神絵師早世青年。前世で培ったデザインセンスでいずれ流行の『全て』を牛耳る。


魔女

種族名が【魔女】なので男の形の魔女もいるが、そもそも性別に意味があるかどうかも分からない生き物。人間が猫に「どちたの~~~?」と声をかけてるくらいの感覚。基本、友好的な悪魔みたいなものだと思っておけば良い。


【お人好しのネルフィルド】

対価を出せば願いを叶えてくれるが、中途半端にしか意思疎通出来てないので解釈の幅を持たせるととんでもない形で叶えられてしまう。

例:お人好しのネルフィルドが叶えたお願い


対価:宝箱いっぱい分の宝石

『永遠の若さ』を願った公爵夫人

【今がいちばん若い状態なので、『今』のまま生きた氷像にして『永遠』を与える】

◎溶けない氷像なので夏は冷気を求めて人が集まる公園の像として人気


対価:腰まで伸ばした美しい金髪

『好きな人を振り向かせたい』と願った少女

【好きな人が少女に『振り向く』よう呪いを掛けられたせいで、ありえない方に首が捻れて『振り向いて』死亡】


対価:一輪の野花

『「おかあさんに、げんきになってほしいの」と願った幼子』

【母親の病気治癒】


その他沢山。願った通りに叶えられることもあるし、そうでない時もある。


【嘘つきグラーニェル】

戦場で死にかけの兵士に「オカアサンヨ、オカアサンヨ」と声をかけてまわる。その声に応えると魔女の世界に連れていかれて、精霊のような存在にかえられる。悪意は無く助けたいという意思でやっているが、永遠に人には戻れないし思考は消えていずれ世界の一部になる。

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― 新着の感想 ―
すごく面白いんですけどなんかこわい。 フィーラさまも可愛いんですけどなんかこわい。 そっと遠くから見ていたい感じです。
母なる世界の一部になるんだから、嘘はついてないかも
魔女が怖すぎて好きです
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