10日目~何が起きるのか~
やっと10日目になりました。どんなことが起きるのかな
「いよいよ10日目だ、何が起きるんだろう」
9日目の夜、もう明日の事で頭がいっぱいの岳。
別れ際の玲奈がどこか寂し気な顔だったのが気になったものの、すぐに忘れてしまっていた。
「明日の玲奈に、玲奈の事が聞けるのかな」
と岳。
今、岳が一番知りたいこと、それは本物の玲奈の安否だ。
玲奈を見たのは、あの聖地と呼ばれていた女神たちの元で、檻のようなところに入れていたところだ。
万一、玲奈の身に何か重大なことが起きれいれば、毎日の玲奈が教えてくれるだろう。
「でもな、あいつら」
岳が思うには、
「個人差はあるが、あいつらは微妙に意地悪だ」
今まで9日間にわたり「玲奈」として現れたファンタジーワールドの女の子たち。
その子たちに共通して言えること、それは妙な冷たさがあることだ。
一緒にいても、ふと孤独を感じることがある。
本物の玲奈には感じたことのない感覚だ。
玲奈とは一緒にいて、お互い無言だったとしても、感じなかった、
「ひとりぼっち」な気分。
「まあ、ドライと言えばそれまでかな」
岳が一人つぶやく。
岳の脳裏に、玲奈の笑顔が浮かんだ。
「会いたいな」
翌朝、アラームが鳴る前に起きた岳。
部屋の窓を開け、外の空気を入れる。
心地の良い風が吹き抜ける。
いつものように、身支度を整えて食卓に着いた。
父と姉の真帆もいる。
「ねえ岳、なんかいいことでもあった?」
と真帆。
「なんで?」
わざとぶっきらぼうに言う岳。
「そりゃあ、にやけてるもん」
真帆の言葉に、顔を硬直させた。
「いい天気だなとおもって」
慌てて岳が言う。
「ま、そう言うことにしておきましょ」
真帆は意味有り気にそう言うと、席を立って洗面所に消えた。
岳も朝食を済ませて、部屋に戻った。
髪を念入りに整え、カバンを持ち家を出る。
いつもの時間だ。
駅に着くともう今日の玲奈が待っていた。
「おはよう」
と笑顔で言う玲奈。
「お、おはよう」
内心、いつも通りじゃないか、と思う岳。
そんな額を察したかのように、
「今日、放課後、岳の家に行ってもいい?」
と玲奈が言う。
「え?うち?」
驚いた岳。
今まで、玲奈を自宅に呼んだことはない。
そんなことをしたら、母が大騒ぎだ。
真帆に何を言われるかもわからない。
返事に困っていると、
「心配しなくていいよ。大丈夫だから。ちょっと都合により岳の部屋じゃなきゃダメなのよね」
と玲奈。
電車を待つ間、玲奈の横顔をそっと見る岳。
この表情。
「あの、君って、キキョウ?」
と声をかけていた。
そう、今日の玲奈はアトロ・キキョウと名乗った女神伝説を一緒に聴きに行った、あの玲奈だ。
電車に乗り、地下に潜ったところで窓ガラスに映る玲奈を見る。
そう、今日の玲奈はアトロ・キキョウだった。
「見なくてもわかるんだ。すごいね」
とキキョウ。
そして。
「うれしいな」
とつぶやいた。
放課後、玲奈がそのまま岳の家に来た。
途中のコンビニで飲み物とお菓子を買ってから。
玄関を開けようとすると、鍵がかかっていた。
家には誰もいないようだ。
「おかしいな」
そう言ってスマホを覗くと母からのメールが。
「急に出かけることになりました。遅くなるので夕食は冷蔵庫の物を適当に」
と。
持っていた鍵でドアを開け、自宅に入る。
母は、ほぼ毎日家にいる。
自宅で、パソコンに向かって何かしらの仕事をしているのだが、詳細は岳にはわからない。
「誰もいないからリビングで」
そう言う岳に、
「岳の部屋に行こう」
と玲奈。
まるで部屋の場所を知っているかのように、階段を昇り始めていた。
「おい、ちょっと」
岳が慌てて追いかけた時には、既に玲奈は部屋の中に入っていた。
「勝手に入るなよ」
そう言いながら玲奈のあとから部屋に駆け込んだ岳。
部屋に入ると、そこには。
「やあー君が岳か」
そう言いながらベッドに寝転がる物体がいた。
その物体に駆け寄る玲奈、起き上がったその物体と笑いながら抱き合っている。
だんだんとその物体の姿があらわになってきた。
人の形?いや少し違う。
背中に羽が付いている。
呆然として立ち尽くす岳に、
「驚かせてごめんね。紹介するね、こっちはチャミュ、天使だよ」
と玲奈が言う。
「まずは10日目おめでとう、今日はまだクリアしてないんだよね?
ま、あとでもいいや。
僕は天使のチャミュ。君の聞きたいこと、要望、色んな疑問に答えるために来たんだよ」
とその天使、チャミュが言った。
岳の部屋にある、小さなテーブルに玲奈がお菓子とジュースを並べている。
3人でそのテーブルを囲むように座った。
「玲奈は、玲奈はどうしているの?」
真っ先に玲奈の安否を尋ねる岳。
「玲奈はね、ファンタジーワールドで暮らしているよ、普通に。もし365日無事に済んでこの世界に戻ってきた時には長い夢を見た後、ってことになる」
とチャミュ。
「あとは、毎日、この世界に来る玲奈に好きだと言えばいいの、それとも本来の玲奈の事を思えばいいの?」
もう一つの疑問をぶつける岳。
「うーんとね、それは」
そこで言葉に詰まるチャミュ。
「それはねえ、どっちでもいいや」
その答えに、
「どっちでもいいって、いい加減だな。じゃ、僕が毎日違う玲奈に好きだ好きだって言い続けるの?
なんか浮気者みたいでいやなんだけど」
「でも、岳なら毎日、その日の玲奈のいいところを見つけ出せるでしょ?」
チャミュのその言葉に応えずにいる岳に、
「自信ないの?」
と畳みかけるチャミュ。
「自信ないっいうか、長すぎるよ、365日は」
と岳。
玲奈とチャミュが顔を見合わせながら、
「アテナの言う通りだね」
と玲奈。
「アテナがね、リアルワールドの住人は1年が長すぎるって言うと思うって。
でもね、これは変えられないよ。頑張るしかないね」
とチャミュが説得するように言った。
「それにさ、僕たちって高校生なんだよ、休みとかあるじゃん、夏休みとか。
そんな時はどうするの?うちはわりと家族旅行とかするんだけど。
そうしたら、数日は玲奈に会えないし。毎日玲奈に会って好きって言うって、現実的に無理だよ」
と岳が心にためていたことを吐き出していた。
「そうか、リアルワールドの高校生に日常、アテナはあまり理解していないかも」
とチャミュが同情するように言った。
「旅行の件はなんとかなるよ、それから万一、病気とかどうしてもって理由で会えないってときは、
認められれば電話かメールでもよしってことでどう?」
とチャミュ。
「どう?って、あんたが決めんのかい」
と岳は突っ込むように言った。
「そうだよ、僕、君の試練の担当天使だもん」
チャミュは涼しい顔をして言った。
その時、
「あの、今日の試練、まだクリアしてないよ。私、そろそろ帰らないと」
と玲奈がせかした。
「もう、なんかいい加減なんだけど、ほんとに。玲奈、好きだよ」
岳の言葉は投げやりだ。
「でもクリア~」
と玲奈。
そう言うと玲奈は
「お邪魔しました」
と言い残すと、そのまま帰って行った。
部屋に残されたのは岳とチャミュ。
「じゃ、僕は10日おきに来るからね。君の担当だから。何でも聞いてね」
とニコニコして話すチャミュ。
その時、
「ただいま」
と玄関の開く音が聞こえた。
そして、
「何、この鳴き声」
と岳。
「ワン、ワン、ワオーン」
玄関からはかなりどすの効いた、犬の鳴き声が響いていた。
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