5か月目~第2週~夏休みのある日のこと
やっと登校しない夏休みがやってきました
岳たちの高校での夏期講習、前半が終わった。
夏休みだと言うのに、毎日登校し授業を受ける。
正直、面倒だし、楽しくもない、がしかし玲奈に会うには学校に来るのが一番確実な方法だ。
毎朝、玲奈と駅で待ち合わせをする。
そして、電車の中でその日の玲奈の本来の姿を確認し、そこからはその玲奈の良いところを探す。
あっちの世界からくる、日替わりの玲奈、
いままで、何人もの玲奈が来ているが、そのほとんどがとても「いい子」だ。
岳がその玲奈に、毎日「好きだ」と告げることにそこまで苦戦したことはない。
夏期講習はお盆の時期を挟んで、夏休み後半に再開される。
それまでは、毎朝のセバスチャンの散歩のときに、玲奈と会うことにしている。
その日も、朝から照り付ける日差しの中、セバスチャンを連れて玲奈の家の前を通る岳。
裏に回り庭の生垣の隙間から中を覗く。
「おはよ」
と元気のいい声がした。
その日の玲奈だ。
「また来ちゃった」
とおどけて言う玲奈。
「ああ、君は」
と岳。
「わかるの?光栄だなあ」
と玲奈が言う。
その日の玲奈、女神の家系だというアルベギーナだ。
「最近はね、血筋を感じられるようになったんだよ、俺。
女神の血筋は強力だね」
と岳が言うと、
「え、そう?やっぱり?」
と言いながら自分の手や腕をクンクンと嗅ぎ始めるアルベギーナ。
「いや、そういうんじゃなくて」
と岳が言うが、
「私たちってね、女神の血を引く者たちよ、臭いんだって。独特の女神臭がするらしいわ」
とアルベギーナ。
「キキョウも臭くない?」
と続けて聞く。
「そうかな、匂いなんかしないよ、気にしないで。その気配を感じるだけだから」
と岳が慌てて言い直した。
セバスチャンの散歩の途中、短い時間だったが岳はその日の試練を早々とクリアしていた。
アルベギーナはもともと岳に好印象を抱いており、岳からの告白を待ち構えていたのだ。
セバスチャンのリードを引きながら遠ざかる岳の後姿を見ながら、
「あと何度会えるのかな」
とつぶやくアルベギーナ。
その日は既に試練もクリア、何の心配もなくすごすことができるはずだ。
しかし、朝からどうもチャミュの機嫌が悪い。
白猫、チャミの時はあちらこちらに威嚇するように、フーフーと唸り声をあげ、
ママの抱っこも拒否、父親が撫でようと近寄ると、背中を丸めて毛を逆立てた。
部屋に戻ってチャミュの姿になってからも、その顔が不機嫌が満ちている。
口をへの字に結び、眉間にしわを寄せて。
「ねえ、なんでそんなに不機嫌なの?俺が関係あるの?」
と岳がたまらずチャミュに尋ねる。
「キキョウの奴め」
とチャミュ。
「キキョウ?」
と岳も聞き返した。
キキョウとは夏期講習以来、会っていない。
「今日、雄太とデイトするんだって。しかもイレジウムには留守番をさせて。
行先は遊園地だって」
とチャミュ。
岳は雄太がキキョウに好意を持っているのを知っていたし、キキョウも満更ではないと気付いていた。
そんな二人がデートするのはごく普通の流れだ。
「それが不機嫌の訳なの?ダメなの?あいつらがデートしちゃあ」
と岳が不思議そうに聞く。
「僕も行きたかったのに、ダメだって言われたし。
僕も遊園地って行ってみたいのに、それを知ってるのに、キキョウはダメだって」
そう言うとチャミュはしくしくと泣き始めた。
「それが不機嫌の原因なの?」
と岳が泣きじゃくるチャミュに「優しく」声をかける。
しゃくりあげながら頷くチャミュ。
その姿に、
「メンドクサイ奴」
と岳が小さな声でつぶやいていた。
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