5か月目~第1週~キキョウの決意
あっちの世界、聖地と呼ばれている場所。
そこに、3人の女神とキキョウがいた。
岳に試練を言い渡した、あの女神たちだ。
その3人の前に立たされているキキョウ。
彼女には何処から見ても、好意的ではない視線が向けられていた。
「で、あなたの決意を聞かせてちょうだい」
と3人の真ん中に立つ女神アテナが言う。
「どうなの?キキョウちゃん。あなたの役割、わかってるんでしょ、なのになんで」
と助け船のように優しく語り掛けたのは、アテナの隣にいた女神、アルテミスだ。
「ねえ、ほんの気の迷いよね、キキョウ。あなたが恋なんて」
そう言ったのは、アルテミスとは反対側にいた女神、ヴィーナス。
「ねえ、アトロ・キキョウ、よく考えてよ。あなたの人間の血を浄化するのに900年。そして女神見習いになって100年。女神への昇格は目前なのよ」
とアテナが再び口を開いた。
「私は」
そこでキキョウが口を開いた。
「私は、女神昇格のためにこの任務を志願したのではありません。
リアルワールドの女神伝説は私のルーツ、浄化されたとはいえ、私の中には人間の血が流れています。
成就の力の復活、これを見届けるのは私の責務だと思っています」
とキキョウ。
「だから、そう思ってるなら」
とアテナ。
少し苛立ちながら言う。
「あの、青年とのことは任務には影響ありません」
とキキョウが言う、先ほどよりも口調が強い。
「でもね、あなた。恋してるでしょ?」
とアテナ。
キキョウの雄太への思い、アテナにはお見通しだ。
「あなたとあの青年との最接近の時、恋のキューピッドができる天使を玲奈として送り込んだんのに」
とアテナ。
フィールズのことだ。
「天使の力で恋に落ちたのであれば、解除するのは簡単です。でも自発的でとなると」
とアテナがため息交じりに言う。
「キキョウちゃん、いい顔してるもんね。これぞ恋する乙女の顔だわ」
と口を挟んだのはヴィーナスだ。
愛と美の女神、ヴィーナス。
キキョウの本心をこの3人の中では一番理解していた。
「私は自分の気持ちに正直でいたいのです。でもご心配は無用よ。必ず任務は遂行します。
岳の成就の力をきちんと守り、そして取り戻す」
とキキョウ。
「そんな事言い切っちゃって大丈夫?
これが失敗したら、あんた永久にに見習いのままよ」
とアルテミスが心配そうに言う。
「私はキキョウノウエの娘、意思を継ぐ者。大丈夫、必ずやり遂げる」
とキキョウがはっきりと言った。
「そう」
仕方ない、と言う感じで頷くアテナ。
「でもなぜ、そんなに恋にこだわるの?あなたなら自制なんか簡単でしょう?」
と続けた。
「だって、岳が、毎日毎日、玲奈に対して愛を告げるの。
それを見ていたら、いいなって思っちゃって。
リアルワールドにいる間は、高校生の都留田キキョウ、恋もする普通の女の子でいたいの」
とキキョウ。
「わかったわ、アトロ・キキョウ。貴女を信じましょう。
決して揺らぐことのないように」
とアテナ言った。
「わかっています。それは、私の役目だから」
とキキョウは言うが、その目の奥にある苦渋の色を3人の女神は見逃さなかった。
「アトロ、何してんの?呼び出されちゃって」
と声をかけて来たのは、合宿の時、玲奈としてリアルワールドにいた天使フィールズだ。
女神たちの元から、やっと解放されたキキョウをみつけたフィールズは
すかさずキキョウに近寄ってそう言った。
「ホントに、なんでバレたかねえ」
とキキョウ。
「そりゃ、女神に隠し事なんかできるわけないでしょ。
それにしても、私が愛の背中押し、発動前する前にはキキョウの心が動いてたからねえ」
とフィールズ。
「自分に正直にね。せめてわずかな間だけでも」
キキョウは言う。
「でもそれが」
とフィールズが言いかけるが、それを遮るキキョウ。
「わかってる。それがつらい結果になっても。でも私は後悔はしないから」
と言い放つキキョウは、まるで恋する乙女の顔、になっていた。
「あんたさ、自分がやんなきゃいけないこと、わかってんの?」
と小さく囁くフィールズ。
しかし、その声はキキョウには届いていなかった。




