5か月目~第1週~夏期講習
学校で開催される夏期講習。いい学校ですね。
岳の家での合宿が終わると、学校での夏期講習が始まった。
夏は真っ盛り、暑い日が続く。
講習会には大学進学を希望していない玲奈も参加している。
受けるのは、普段の授業の復習と2学期の予習というコースだ。
生徒のレベルと進路希望に応じていくつもの講座をもうけている。
岳たちの学校、いわゆる「いたでりつくせり」ってやつだ。
岳は、受験のためのコースを受ける。
雄太と亮も同じだ。
夏期講習は普段、授業が行われる時間と同じ時間帯だ。
朝のホームルームがない分、登校してからは余裕がある。
生徒たちの多くは、講座が始まるまでは廊下にいた。
ここならほかのコースを受けている友達とも会うことができる。
「おーい、お前ら」
と声をかけて来た亮。
岳と会うのは久しぶりだ。
岳と亮、それから雄太。
たわいもない話をして、授業が始まるのを待つ。
どこにでもある風景だ。
「そういえば、キキョウは来てないんだ」
と亮。
確かにキキョウの姿が見えない。
朝陽や萌は来ているのに。
「キキョウ」
亮がそこの言葉を言った時、雄太の表情が一瞬こわばぅた。
それをしっかりと亮がみていた。
「何かあったのか」
と心で思う亮。
亮は岳の家での「合宿」の事は知らない。
朝陽や萌もだ。
別に隠す事じゃない、と思っていたのだがなんとなく言いそびれていた。
それに、女神伝説に関わらないものがいると、不都合もある。
だから、あの4人で行動する方が都合のいい時も多い。
「めんどい」
と岳は思う。
自分の女神との呪縛、そして成就の力、女神伝説。
それらが交友関係にまで影響を及ぼす、それは岳にとってはただ窮屈以外の何物でもない。
「夏休み、前半も終わりそうだね、早いね」
そう言いながら、朝陽と萌が合流してきた。
しばらくたわいもない話が続く。
どこにでもいる、高校生のグループだ。
「あれ?キキョウは?」
と朝陽が彼女の不在に気付いて言った。
「今日はね、家の用事なんだって。明日からはくるって。私たちと同じコースだよ」
と萌。
「なんで知ってるの?」
と亮がすかさず萌に聞く。
「だって昨日メールしたもん。てか、よくメールで話してるし」
と萌は自分のスマホをいじくりながら言う。
その画面を覗こうとした亮。
しかし萌から阻まれていた。
「家の用?」
と岳は内心思う。
そんなことがあるのか、もしかしたらあっちの世界関連で何かが起きたのか。
と。
それから、夏期講習開始の時間となり、各講座の教室に入る岳たち。
基礎コースを選んでいるのは、玲奈だけだ。
「まあ、来学期の赤点防止のため、がんばれ」
と励まされて、玲奈が教室へと向かった。
萌と朝陽は岳たちとはまた別の進学コースだ。
文系を重視したプログラムの講座を受けるのだ。
教室は校庭に面しており日当たりは抜群にいい。
そのため、直射日光が直撃する教室内はかなり気温が高くなり、
すぐにエアコンフル稼働となった。
「帰りに、アイスクリームでも食っていこ。
玲奈はミントチョコアイスが好きだったな」
と岳はふと思った。
本物の玲奈に会えなくなって、数か月。
毎日、その日の玲奈がいるが、心のどこかではとても寂しく感じていた。
「こんな非現実」
と思う岳。
自分の身に起きている考えられない現実。
それを何故かあっさりと受け入れている自分。
一緒に暮らす猫は時に天使だ。
それでも、違和感がない。
「選ばれた人なんだから仕方ないよ」
とチャミュがよく言う。
「仕方ない、か。でもな」
なんだか岳には、こうなるのが当たり前、と思える何かがあった。
それがなんだかは今でまだわからない。
「今日の玲奈は、大人しい子だな」
と岳。
日替わりの玲奈。
それを受け入れているの自分。
それも不思議だ。
岳が考え込むように下を向いていた。
「何だろう、この違和感のなさ」
と思いながら。
色々と考え込んだせいか、その日のその講座の内容を、岳はほとんど思い出すことができなかった。
あとで、雄太にノートを借りる羽目になった。
「お勉強もしっかりやらないと、パパに怒られるよ」
とからかわう雄太。
その頃、
あっちの世界、
「もしも、あなたが自制できないというのなら、あなたをこの任務から外します」
そう言い放つのは女神の一人だ。
そしてそれを神妙に聞く、キキョウの姿があった。
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