やばい7日目、それから8日目と9日目
2度目の登場?
「やばい、忘れてた」
慌てて居眠りをしていたベッドから飛び起きる岳。
「ちょっと出かけてくる」
そう言い家を出る。
「夕飯は?」
母の声が岳の背中に響いていた。
駅前近くの公園まで玲奈に出てきてもらうことにした。
「もう、大切な事忘れてるってどういうことよ」
と岳に会うなり玲奈が言う。
「そうだね、女神伝説に気を取られていた。ごめん、わざわざ」
と岳。
「それで、大丈夫なの?」
玲奈が心配そうに岳を覗き込みながら言う。
岳はその日の事を思い出していた。
キキョウという名の今日の玲奈。
一緒にいて楽しかった。
「ねえ、玲奈。今日は楽しかったね」
そう言いながら玲奈の顔を見る。
いつもの玲奈だ。
玲奈はよく半笑いのような顔をする。
今もだ。
岳はその玲奈の顔が好きだった。
自分が何かを話したときによくこんな顔で聞いていたっけ。
「玲奈、好きだよ」
と岳。
言えた。
ほっとする岳。
「今日もクリアだね、玲奈がうらやましいな」
とこの日の玲奈がポツリと言う。
「どういうこと?」
岳の問いに、
「今は、本当の玲奈に対しての言葉だったから。
それに、結構真剣だったし」
と玲奈。
「真剣?いつも真剣なんだけどな」
岳は言うが、
「キミさ、まだだいぶ大目に見てもらえてるんだよ、始まったばかりだから。
ま、10日目にいろいろとレクチャーがあると思うけどね」
そう言う玲奈に、
「ねえ、10日目ってご褒美なんじゃないの?前来た子が言ってたけど」
「まあ、それもあるけど、他の用もあって」
玲奈は歯切れ悪く話す。
「そういう事だから。真剣に好きだと伝えないと、ごまかせないよ、って言いたかったの」
玲奈に対して、どういう気持ちなんだろう。
付き合い始めたのは玲奈に告白されたからだ。
玲奈はいい子だ。
話していて楽しいし、外見だってかわいいし。
いわゆるデートもよくしている。
映画を観に行ったり、テーマパークへ行ったり。
高校生らしい付き合い、はしているつもりだけど、そりゃあ、その、
キス?ってもしたことがある。
体育館の裏でこっそり。
そろそろ次の段階も、期待してたりもする。
玲奈の事は好きだ、
好きなはずだ。
翌日、これで8日目だ。
月曜日だ、週の始まりは荷物が多い。
通学バッグにサブバッグを抱えて駅に急ぐ岳。
既にその日の玲奈が待っていた。
「おはよ」
いつもの笑顔の玲奈。
「ねえ玲奈、僕の事好き?」
逆に聞いてみる岳。
「いきなり何よ? 好きよ、決まってるじゃない。今日の私はまだあんたの事何も知らないけど、あんたが岳だってだけで好きなの。そう決まってるの」
と玲奈。
「じゃあ、僕も好きだ」
と岳。
言えてしまった。
今日もクリアだ。
岳は考える。
「好きだ」を安易に言いすぎていないか。
でも、これを言わないわけには。
自分は玲奈の事をどう思っているのだろう。
いや、好きだと言えさえすればいいんだ、玲奈の事は玲奈を取り戻してから考えればいい。
そんな思いが交差する。
その日の玲奈とは、あまり話も弾まず一緒にいても沈黙ばかりが流れた。
玲奈の方も、自分には興味がない、それがよくわかった。
「あーあ、私はもう来ないかな。ここはこりごり」
その日の玲奈はそう言うと、さっさと岳の元から去って行った。
その日の夜、
「今日はありがとう」
とメールを送ったが、既読スルーされた。
「こんなこともあるんだ。もっと嫌な奴もくるんだろうか」
と岳は一人悩んだ。
9日目だ。
通学の電車が地下に潜る。
岳の隣にいたのは、あの醜い姿の、あの子だ。
「あれ、君は」
と岳。
「私、また来れたの」
そう言う彼女は、相変わらずこの世の者ではない形相をしてガラスに映っていた。
「2度目だね、そんなこともあるんだね」
と岳が言うと、
「優しい言い方だね」
隣にいる玲奈が言う。
「でも性格はいい子だから」
と岳が心でつぶやく。
だから
「あの、君の事、好きだよ」
と岳が言った。
言えてしまった。
「すごい進歩だね、私にそんなすぐに言えちゃうなんて」
玲奈が目を丸くして言う。
「でも、気付いていないのね、岳、きみが」
その日の玲奈がとても寂しそうにそう言った、岳に見られないようにしながら。
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