4か月目~第4週~忘れられない「夏」
夏の日の思い出。
キキョウの唇を雄太の唇が、ふさぐ。
ほんの一瞬だ。
すぐに顔を離す雄太。
線香花火の火玉はとっくに地面に落ちて黒くなっていた。
しゃがみこんでいた二人。
立ち上がり、キキョウの傍を離れる雄太。
そして、その場を動くことができないキキョウ。
少しいびつな形の岳の家の庭。
そこはちょうど皆からは死角となっており、二人のことは見えない場所だ。
少し離れてたところで、雄太が、
「あの、ごめん」
と一言。
顔を上げて雄太を見るキキョウ、
「なんで謝るの?」
と言いながら。
ほほ笑みながら雄太に近寄るキキョウ。
雄太の方が少し緊張でもしているかのように、顔をこわばらせた。
そして、もう一度、
キキョウが自分から、自分の唇を雄太の唇に重ねた。
さっきよりも少しだけ長く。
そして、雄太の手を取り、笑顔で言う。
「私の事、好き?」
と。
キキョウは、線香花火を見ながら懸命に習得をしていた。
若い男女が二人きりで、顔を突き合わせている。
そんな二人の次の展開を。
自分なりに習得した知識に従って、行動したらこうなったのだ。
「あ、あ、あ」
と雄太は明らかに動揺していた。
それでも、キキョウの顔をしっかりと見つめながら、
「好き」
と小さな声で言った。
「キキョウ?雄太も、どこにいるの?」
真帆の声がした。
いま、キキョウと雄太がいるのは、庭の片隅の植え込みの陰。
まるで皆から隠れているかのようだ。
姿が見えないことに気付かれた。
「この日の事、忘れないでね」
と囁くように言うキキョウ。
「忘れられない夏をありがとう」
雄太はそう答える。
短い会話の後、二人は皆の元へと戻って行った。
「ねえ、みんなで同じ花火やろうよ」
と二人を見つけた真帆が言う。
「さ、みんな並んで、一斉に花火に火をつけるよ、これを動画に撮るから。
バエるよ、きっと」
と真帆。
4人が並んで、同じ花火を持ちそれが同時に火花を散らした。
ちょうど滝が流れるように火花が弧を描いて地面に落ちる。
とてもきれいで幻想的な光景だった。
「わあー楽しかった」
そう言いながら庭から家に入る玲奈。
「でも、煙で体中臭くなっちゃったよ」
そう言いながら。
見れば、庭はまだ花火の煙のせいで霞がかかったように曇っている。
「風がないからかな、いつまでも空気が循環しないのは」
と岳。
その様子をみたキキョウが何かに気付いたかのように、その顔をこわばらせた。
そして、空を見上げ、それからゆっくりと真帆を見た。
「じゃあ、俺たちは庭でテントを準備するから」
そう言うと岳と雄太が再び庭に出て言った。
「寝るころには、煙の臭いが消えてるといいな」
そう言いながら、
岳と雄太はテントを広げ始めた。
「じゃ、女子チームは順番にジャワ―使うね、終わったら知らせるから」
と真帆が岳に言った。
母との約束通り、二人の女子、玲奈とキキョウを自分の部屋に連れてきた真帆。
そして、
「玲奈ちゃん、最初にシャワーどうぞ。匂い気になるんでしょ?」
「わあ、ありがとう。じゃあ遠慮なく」
真帆に言われて、玲奈はそのまま浴室へと消えていった。
入れ替わりのように、白猫チャミが真帆の足元にやってきた。
「にゃ」
そう言いながら真帆の足に絡みつくチャミ。
「あの、聞いて言い?」
とキキョウが真帆に言う。
「あの。貴女って」
と。
その時、白猫から妖精の姿に戻ったチャミュ。
その様子を見ても、真帆は動じることもない。
「やっぱり」
とキキョウ。
「あなたなら、もうわかったわよね」
と真帆が言う。
「あの、あなた守護の力をもっているのね。
やはりあなたも女神の伝承を受け継いでいるの?」
そういうキキョウに、
「私の防御の衣、なかなかの威力だったでしょ。
おかげで、岳の力を狙うやつらの攻撃を全部防いだわ」
「いつまでも煙が外に流れていかなかった、あなたが防御の結界で家ごと覆っていたからなのね」
とキキョウはすべてに合点が言ったかのように真帆に行った。
「そういうこと。わたし、岳の守護。あいつの能力が目覚めたころから、私の本能が動き始めたのよ」
と真帆。
傍らのチャミュも、うなずいていた。
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