4か月目~第4週~合宿、午前
合宿は恋愛談義に。
「じゃあ、チーム白崎、合宿のスタートよ」
真帆が皆の前に立ち、そう宣言した。
集まった、玲奈、キキョウ、雄太、そして岳が頷く。
皆、持参したノートやテキストをテーブルに広げている。
「で、君たちのチームの課題ってなんなのよ?」
と真帆。
「読書感想文を、皆で考察しながら書きあげてしまおうと思ってるんだよ。
一人だと出来ないーって理系の雄太が嘆いていたから」
と岳。
この合宿の開催理由、それはグループの課題をやるためと言うことにしてあるが、
実際には、夏休みの宿題にグループでの共同作業は出されていない。
当初は真帆がここまで関わろうとするとは思っていなかったので、
みんなで集まって、宿題でもしながら適当に喋る、それくらいしか考えていなかった。
しかし、真帆が予定表まで作成して、びっちし監視している、となれば何かしらのテーマを作らなくては。
それなら、みんな、特に流刑が得意な雄太が大の苦手としている、読書感想文をやとう、
そういうことに事前打ち合わせで決めていたのだ。
「ふーん、そんなのね、で課題図書って?」
そう言いながら、テーブルに置かれていた一冊の本を手に取る真帆。
「ああ、これね」
と言いながら。
「千年の恋ー純愛は永遠にー」
とタイトルの書かれた本。
「これ、私も読んだわ。高校生の時に、切ない話よね」
と真帆が言う。
それは、
千年を生きる木の精霊に恋をした、純朴な青年の物語でやがて精霊も青年に惹かれるが、
青年は年老いて寿命を終えてしまう。
その後、精霊にとっては一瞬であった青年との思い出を心のかてに永遠を過ごす精霊。
青年と精霊の切ない恋物語だ。
「でもさ、こんな話の感想文、書くの?」
と真帆がいささか驚いたように言う。
「まあ、先生たちも生徒が恋愛に関してどんな考えを持っているか知りたいんでしょうね」
と雄太が言った。
「そう、それじゃあ、正直なこと書かなきゃね」
と真帆に言われて、うつむく雄太。
「でもさ、なんで叶わない恋なんて、するんだろうね」
と玲奈が言う。
「おこちゃまだねえ、玲奈は。恋心っていうのはねそんなもんじゃないの、予測不能なのよ」
と真帆が割って入る。
そこからしばしの、真帆の恋愛談義が始まった。
4人の高校生よりは少しばかり人生経験の長い真帆、自分の経験なのか誰かの受け売りなのかはわからないが、大人の意見を述べる。
「私は、好きになったら身分も運命も関係ないっておもうけどね」
とキキョウ。
キキョウは事前にこの物語を読んで、急ピッチでそのあたりの情報や知識を習得した。
恋愛感情、そんなのものは自分には無関係だ。今までもこれからも。
それでも、この精霊の気持ちにはどこか共感するものがあるのだった。
「へえ、意外だなあ」
と玲奈。
今日の玲奈、妖精フィールズ。
フィールズはキキョウが特殊な境遇にいることを知っていた。
「でしょ」
とキキョウ。
キキョウ自身、この世界で芽生える今までにない感情の多さに驚いているのだった。
それから、しばらくの間、課題図書の感想を言い合う、という名目での
女子の恋愛に対する意見交換会が続いた。
その様子を見ながら、口を挟むこともできないのは男子二人。
岳は面白そうに眺めているが、雄太の方唖然としている、そんな感じだった。
真帆以外の二人の女子、玲奈とキキョウはあっちの世界の住人だ。
根本的にすべてが違う、それなのにキキョウの恋愛に関する意見を聞いて、なぜかほっとする岳。
「まあ、あの二人にとっていい夏にしてやろんじゃん」
雄太のためだけという思いから、雄太とキキョウ二人のために、そう考えを変えた岳だった。
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